TSした体にボーイミーツガールって有り得るのか?
あー、心がぽかぽかするお話が書きたいなぁ。
コア子が語る。
そう、今のところ誰からも馴染みを抱かれていないであろう、変な名前をしたちびっ子が語る。
「いいか?一発で理解しろ。お化けなんていない」
らくだ色のタンクトップ・ショートパンツ・ジップパーカーでゆるゆるルームウェア姿な彼女は、自室のベッドの上で、枕をギュッと抱きしめている。
傍や僕は、コア子の、サイズが少し大きめの無地のシャツをパジャマ代わりに借りて、床に敷かれた布団の上から彼女を見上げている。
語りは雄弁に続く。
「だいたい考えてもみろ。何故、お化けになったからといって、わざわざ廃病院や廃トンネルを根城にする?生前まで街中で、電球に照らされた社会で生活していたのに?死後だって同じように過ごせば良いだろう。しかし、世にはびこる『お化け像』はそんな姿など一切見せない。どのお化けも、生前でも行こうと思い立つことのない場所で撮影されている。論理的に考えて不可解なシチュエーションだ。もっと言えば、お化けが非物質で、どんな壁もすり抜けられるのなら、奴等はその特性を活かした活動を行うはずだ。そう、たとえば、普通に生きてりゃ入ることが極めて困難な、伊勢神宮内宮やペンタゴン、ルビャンカや北朝鮮、そして女風呂や人気アイドルの自宅に見学に行くはずだ。だから、もしお化けが実在したとしても、ソイツ等が集まる場所は、そういう場所のハズなんだ。しかし、そんな所に居る姿もまた、テレビは特集しないし、世のオカルトマニア共も語らない。皆、論理的妥当性に欠けた『お化け』しか描かない。それら考察を踏まえれば、お化けなんてものは所詮、物好きが創造した空想上の存在であり、意図して作られた演出に過ぎないんだよ」
「…だから、私はさっき見たホラー映画になんかビビってねぇ。叫んじゃったのは…、ちょっと鼻で笑いすぎただけだ。だから、テメェも学習しろ?二度とあんなセンスのねぇ映画を選ぶなよ?分かったか?おい」
…さっきまで、リビングの、Fireスティックが刺さった55インチ薄型テレビの前で僕にしがみついてビャンビャン泣いていたコア子が、未だ真っ赤な目で僕を睨む。
僕が「はいはい」と適当な返事をすると、コア子はベッドからドタドタっと降りて、僕の胸ぐらをグイッと掴んだ。
「て、テメェ…!」
が、次の瞬間、僕の傍に積まれていた『ハッピー☆男の子の名前図鑑』の山(シャツの内側にゴムボールを入れた姿でレジに出すと、書店員がビビるから面白いらしい。理解できない)がダババッと崩れた。
ドタドタっと降りたからだ。
コア子はぴゃぁっと甲高い悲鳴を部屋に響かせた後、また僕にしがみついた。
その様子を鼻で笑ってやると、彼女は顔を真っ赤にしながらベッドに戻った。
「こっ、このっ…!あんまり調子に乗るなよお前!立場忘れんなよ!お前は吸血姫で私は化物退治の専門家!私にはいつだってお前をぶっ殺せる力と権利があるんだからな!ふん!おやすみ!」
そして、コア子は布団にくるまって寝た。
半ベソかきながら、まんじゅうみたいになった彼女を一瞥して、「なんだコイツ」と呟いた後、僕も寝た。
…あの大事件から数日、寝込みに寝込んで今朝目覚めたばかりなのに調子が狂う。
ここは、秦とコア子が住まう、都内S区に佇む1LDKの小さなマンション。
帰る家を失った僕は、ここに匿われていた。
やいのやいのうるさいコア子にずっと絡まれて、悲しみの余韻に浸る暇もなく疲れていた。
何なんだよこのじゃじゃ馬。
「…んぅ、ぅ…」
…それなのに、寝息は一丁前に可愛いのな。
気にしないように奴に背を向けても、鼻がすぴすぴ鳴る音は部屋に小さくこだまする。
やっぱり、秦と一緒にソファベッドで寝た方が良かったかな。
「…クソが」
しばらくの間、僕は寝付けなかった。




