表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第二章(3/1に全話投稿予定)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/25

善戦という言葉に意味はあるのか?強者からの情けじゃないのか?

襲撃対策に全ての電源が落とされた暗い院内。一階。


オークのような見目をした怪物(それはもうオークでいいんじゃないの?)が足音を鳴らす度、吊るされた初診受付の表札が揺れる。

彼は手に、小さな女の子の髪を掴んでいた。


「…さっき、お前の目の前で、お前の母ちゃんを犯して殺してやった理由、ガキのお前にゃ分かんねぇだろうがなぁ」

「だが、我らが主様から言わせりゃ、これは美食のための大事な作業なんだ。人間は、恐怖からくる心拍数の増加により血行が良くなり、全身がより瑞々しい肉になるのだと、あの方はそう仰られた」

「…主様、今は混乱しているようで、料理長の絶品料理も受け付けないらしいけどよぉ…。それでも、一日でも早く元気になってもらうためなら、食料班として、出来ることは何でも頑張りたいじゃんかよ」

「…って、こんな話を『今のお前』にしても無駄かぁ」


オークの怪物は薄ら笑いを浮かべた後、グイと自分の目線の高さまで女の子を持ち上げた。


頭頂部から下が無い、ヘタだけになった大根のような女の子…。


その時だった。院入口の自動ドアが手動で開かれたのは。


「…?!主様!?」


扉が開いた先には、『吸血姫』と呼び慕われる冷血な少女が一人、立っていた。

そこのオークと同じように、人間一人の髪を掴み、引っ張って。

冷酷な眼を光らせていた。


オークは手に持っていた物を全て放った後、少女の前に心の底から平伏した。


「よくぞ…、よくぞ…!」


オークは、今の少女の立ち姿に確信して、感涙していた。


遂に、主様が蘇ったのだと。


「…私がいない間の首尾は?」


「はっ!それが…、状況は最悪でして…」


「今朝から始まった人間共による大規模な奇襲作戦により、幹部陣は半数以上が死亡。非戦闘員も殺されまくりで、俺達は半壊どころか、全壊寸前まで追い詰められていまして…。現在は、一方で、ガーネットのアニキが生き残った強者らと共に人間共を引き付けつつ、もう一方で料理長のアネキが兵站確保のためにこの病院を占領し、大急ぎで食料と医療品を見繕っているところで、ハッキリ言って劣勢…、でしたが…!」


「遂に、遂に主様が帰ってきた!もう何も怖くはねぇ!俺達の勝ちで決まりだ!百人力どころか百億人力な主様なら、あの御三家とかいう連中も、『ハタ・カナモリ』とかいう尋常じゃねぇくらい強い人間も、みんな蚊トンボよりも簡単に一掃してくれる!そうでしょう!?」


「…えっ、あっ、うん」


「…?」


「とっ、ともかく!現状は理解した。お前の変わらぬ忠義もな。したがってお前に命ずる。ここにいる全ての人間を院内一階、救急受け入れスペースに集めろ。もちろん、生きて、怪我一つ無い状態でだ」


「…?主様、しかし、人間共は今、加工のために厨房に集められていて…」


「異論は、つまり私が間違っていると言いたいのだな?」


「…ッ!いえ!とんでもねぇ!すぐに取り掛かります!」


オークは、間もなく作業に取り掛かった。二階の厨房に固められていた生存者たちは続々と階下に降ろされ、"救急車などの車両での乗り降りに最適な"、"外からのアクセスが抜群な"救急受け入れスペースに移動させられた。


作業中、オークが人間の動きを監視しつつ主に問う。


「ところで主様?その、お手に引きずっていらっしゃる女の死体は?」


「あぁ、院前にいたから殺した」


オークは、文学かぶれ女学生系厨二病みたいな格好をした女の死体をジロリと眺めた後、鼻を大きく鳴らした。


「小便の臭い…、さしずめ、主様が放つ絶望のオーラに引き攣ってショック死したってところですかい?」


「ま、まぁ、そんなところだ…」


「コイツ、きっとジエイガカリの奴ですぜ!流石は主様!俺達が手こずる相手を覇気一つで倒してみせる!」


「うむ、だから、これは私の獲物だ。触るなよ」


「もちろんでさぁ!」


オークは全ての作業を終えた後、『一階にいる仲間を全員連れて二階で待機しろ』『また、今からしばらくの間、外の見張りは一切禁ずる』という追加の命令を遵守すべくその場を去った。


やがて、一階は、少女と、侍衛係の死体と、恐怖ですすり泣く人質達だけになった。


「…おぉ」

「意外とバレんかったなぁ…、適当にやったのに…」


少女…、もとい僕は、目をぱちくりさせて驚いた。

同時に、侍衛係の死体…、つまり本町さんがムクリと顔を上げた。


「マジですんなりいったっスね…!『主様の命令には逆らえねぇだろ?作戦』…!」


…それは、突入前に組んだ作戦だった。相手がまだ『僕』の正体に気づいてないのなら、それを利用して、『吸血姫』を演じ、強権を振るって無茶苦茶言ってやり、マンマと人質救出をしてやればいい、と。


ついでに本町さんには死体のフリをしてもらい、安全に侵入してもらおう、と。


「にしても本町さん、死体のフリ巧すぎません?いくらその…、臭いがあっても、死体の扱いに長けた奴らをここまで完璧に騙せるのは凄すぎるような…」


「あぁ、これはそーいう『能力』なんスよ」


「能力?…死体のフリが出来る能力?」


「ソレだけじゃないっスけどね?」


作戦が完全に成功した余裕で、僕たちの気は抜けていた。

首尾は最高だった。僕達はこうやって雑談をしつつも、救急の受け入れ口から外へ、警察と連携して次々と生存者を脱出させていた。

本町さんの麻呂眉も得意げに上下していた。僕だって、事態は解決したと安心していた。


「…」


「…?」


…だが、院内から段々と人が減っていくにつれて、僕の顔は引き攣っていった。


「…それで、吸血姫ちゃんのお母さんは見つかったっスか?」


「…いや」

「まだ、人混みに紛れてるんだと思う、だから…」


しかし、全員を脱出させた後も、母さんの姿はなかった。


…それが意味することを理解出来ないほど、僕は馬鹿ではない。


頭が真っ白になる。


一度見た最悪が何度もフラッシュバックして、嗚咽する。


卒倒しかけた。僕を本町さんが支えた。


「いやっ…!まだ、まだ分かんないっスよ…!もしかしたら、まだ院内のどこかに隠れているだけかもしれないから…!」


「ならッ…!今すぐ探しに行く!」


「だっ、ダメ!ダメっスよ!貴女はこれ以上行っちゃダメっス!上階は敵の巣窟!危険が過ぎる!さっきの作戦をもう一回するにしても、こうやって奴らの忠義をメタクソに裏切った後じゃ流石に怪しまれる!いや、怪しまれるだけならまだいい…、もしかしたら敵対されるかもしれない!」


「でもッ!僕が助けないと、母さんがッ!」


しかし、口論は、間もなく目の前に再登場したオークによって終了した。


「そういや主様~、ガーネットの兄貴から伝言を預かってるんですけど…、って、主様…!?そのジエイカカリ、生きて…!?」


その瞬間、無血での解決は不可能になった。


「吸血姫ちゃん!下がって!」


眉を尖らせた本町さんが、さっきの警官のおじさんを庇った時みたいに僕を庇って叫ぶ。


「私が足止めしている間に逃げて!早く!」


それは、彼女の決死の叫びだった。


だが、僕の足は、彼女の期待と逆方向に動いた。


「吸血姫ちゃん!?」


「うおっ!?主様っ!?」


僕は、本町さんも、オークもすり抜けて、二階へと駆け出した。


愚行だと思う。


でも、そうしなくちゃならなかった。


火事の際に、中に取り残された家族のために火に飛び込む、合理的じゃない人の気持ちって、こんな感じだと思う。


勇気とかじゃない。

必死なんだ。


二階に上がると、すぐに食堂への矢印看板があった。厨房なんて、食堂の傍にあるに決まってる。二階で待機していた『吸血姫』の部下らを次々と避けて走る。そして、食堂のカウンターから厨房に乗り込む。


…調理台の上に、出身を想像したくもない臓物の数々が置かれていた。


そして、ヘビ女がいた。


「あっ、主様…!?」


だが、僕が注目したのはそこじゃなかった。奴が今に閉じようとした冷蔵庫の中だった。


…それは、間違いなく、僕にとって一番大切な人の目の光だった。


「…!かぁさ…!」


手を伸ばし、叫ぼうとした。


だが、ヘビ女はそれより早く事態に反応をした。


「…ッ!人間の、霊能力者かッ!」


奴の目線は、僕の背後に向いていた。


次の瞬間、返り血にまみれた本町さんが僕の横をかすめ、ヘビ女に向けて弾丸のような勢いで飛び込んだ。


「ッ!」


ヘビ女は尻尾を大きく振って本町さんの突進を弾いた。

が、本町さんは止まらない。


「ドリルのつもり」


本町さんの、通常よりも更に内側へ親指を巻いた貫手は、掛け声と共にまるで本物のドリルのように回転を始め、そして、強力な貫通力を以てヘビ女の腹を貫いた。


「がッ…!あァァッ!!小癪なッ!人間風情がァッ!!」


しかし、ヘビ女は腹に穴が空いても元気だった。奴は尻尾による強烈な叩きによって本町さんを弾き飛ばした。


「ちょっ…!?」


奴も必死で、方向とか気にしてられなかったのだろう。本町さんは僕の方に飛んできて、間もなく僕達は団子になって壁に打ち付けられた。


頭から血を流す本町さん。リボンもほどけていた。一方で、僕には不思議と痛みは無かった。


「も、本町さん…!だいじょう…」


ぶ。まで言うよりも早く、ヘビ女は追撃を開始した。

バックリと開かれた奴の口から発射された、ド太い破壊光線は、僕達を壁ごと外へ吹き飛ばした。


ただし、僕も本町さんも、光線によるダメージは被らなかった。


「…盾のつもり!」


光線は、本町さんが僕達を覆うように振るったモダン柄の振り袖によって全て受け流されていたのだ。

それは布にも関わらず、ただの布にも関わらず。


…これが、本町さんの『能力』ってヤツなのだろうか?


僕達は、本町さんの「落下傘のつもり」の一言の後、キノコ型にフワリと舞った彼女の袴によって、緩やかに地面に着地した。病院を囲んでいた警官らが驚いてこちらに駆けつけようとした。

が、本町さんはそれを手で制した。そして彼女は眉を上げて、思いっきりな勢いで僕を怒鳴った。


「なっ、にを馬鹿なことしてるんっスか!?逃げろって言ってんのに、そんなに死に急ぎたいんっスか!?」


「でっ、でも、本町さん、凄いじゃん…!アイツ等とマトモにやり合えるなんて…!」


「アレはあくまで料理長!オークだってそう!奴等は吸血姫一派における非戦闘員だから、私でも何とかやり合えただけで、それ以外の奴等が相手なら、今頃私達は物言わぬ肉塊っスよ!」


本気で怒りながらも、暴力が僕の両頬をつねる程度の可愛い本町さんに、僕は何度も謝罪する。

ただし、その謝罪は口だけ。

この時の僕に反省の色は無かった。

僕は、怒られながらも顔が明るくて、吉報を伝えたくてしょうがなかった。


「いきては!」


「へっ!?」


「いきてはほ!かあはんいきてはほ!」


「えっ?なんて言ってんスか?あっ、ごめん、手ぇ放すっスね?」


「…ぷへっ、…生きてたんですよ!母さんが!生きてたんです!」


「…生きてたんっスか!?マジっスか!?」


本町さんは僕からニュースを聞くと同時に、打って変わって僕と同じくらい喜んで、「良かったぁ~っ!!」と僕を抱きしめた。


肯定的なエネルギーが渦巻く。


あぁそうだ。嬉しいんだ。


だって僕達は、今までずっと現実に遅れを取っていたんだ。


惨めで、悔しくて、でも抗って、


その努力が今、実を結ぼうとしている。


流れは変わりつつある。


事実は、僕達を奮い立たせつつある。


僕の目も本町さんの目も輝きつつある。


「そうだ、思い出せ私…。何のためにこの仕事に就いたのよ…?この時のために就いたんでしょ?」


そう呟いた、本町さんは間もなく、さっきまでいた場所、つまりは壁の穴から見える厨房に目を向けた。

そこから体を出す、怒り狂ったヘビ女に目を向けた。


「…多分無事じゃ済まない。私とあのヘビ女の力は拮抗していて、たとえアイツを倒せたとしても、院内にはまだ未知の怪物が大勢闊歩している。…死ぬかもしれない。けど、"それでいいなら"なんとかなるかもしれない…!」


本町さんは僕をもう一度ギュッと抱きしめた後、凛々しく立ち上がった。


死地に赴く、覚悟の目をした。


それに呼応して、ヘビ女が長い舌を震わせ、捕食者の目をギラつかせた。


無意識に伸ばした手は、多分、本町さんを引き止めていた。

だから、僕は間もなく、祈るように両手を胸の位置で組んだ。

それも覚悟の形。


決戦の火蓋が、切って落とされようとした。


…しかし、その火蓋は、間もなく現れた強大な爆炎によって、諸共、跡形もなく灰になった。


「…だから、お前が戦う必要は無いと再三言っただろ?」


僕と本町さんの背後から、男性の低い声が聞こえた。


直後、ヘビ女の顔がぐにゃりと凹んだ。


「へ…?!」


次の瞬間、ヘビ女の顔面は何故か明後日の方向に吹き飛んだ。

壁の穴から出ていた奴の胴体は、無風の日の鯉のぼりのようにへにょりと垂れた。


何が起こった?


その光景に呆気にとられた後、僕達は改めて背後に振り向いた。


そこには、190cmはあろう高い背にくたびれたコートをまとった、ぼさっとした髪型の、まるで推理小説によく出てくる探偵役のおじさんのような、分かりやすく只者じゃない風貌をした、強面の中年男が一人と、


小学生五年生くらいの身長の一方で、ふわふわボブに、ダボッたいスウェットと太めのチノパンをおしゃれに着こなし、肩掛けのナイロンバッグでスポーティーにキメている、明らかにマセている、生意気そうな目つきの女の子が一人、


威風堂々と立っていた。


「先輩!コア子ちゃん!」


本町さんが、渡りに船どころか、渡りにミニッツ級原子力空母な心持ちで二人を呼んだ。

それもそのはず、後で本町さんから聞いたが、彼らはこの戦いにおける最高戦力だった。


「…ン!?本町、お前の隣にいるソイツ…、吸血姫か!?」


ただし、そんな彼らをしても、僕に対する反応は、失禁コスプレ女と同じだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ