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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第二章(3/1に全話投稿予定)

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11/25

状況が人を変えるのか、人が状況を変えるのか、どっちなんだろうね

ちょうど、病院手前の大通りでだった。


「だーかーらー!私は関係者だから入れてくださいって言ってるじゃないっスか!」


大きなリボンで長い黒髪を後ろで一つにまとめて垂らし、想像上の明治の女学生みたいなハイカラ袴衣装を身にまとい、何より、浮世離れした麻呂眉が最高に目立つ、身長170cmくらいの女性が一人、規制線の前で警官のおじさんと口論していた。


「いいっスか!?もう一度名乗りますよ!私は宮内庁侍従職 侍衛係じえいかかり所属、豊葦原水穂国の露払いが一人、『本町紫野もとまち しじの』です!此度は吸血姫とその一派の完全討伐のため、そして何より人質救出のため、先パ…、民間の専門業者と共にこちらに馳せ参じた次第です!事態は一刻を争います!さぁ!道を開けてください!」


警官はデカい声に耳を塞ぎながら、肩を竦める。彼女を妄想に取り憑かれた狂人だと決めつけて、若いのに可愛そうに…、と言わんばかりの目を向ける。


「えっと、そこまで言うなら上に確認取ってみますけど、それが済んだらすぐに避難してくださいね?我々は遊んでるわけじゃないですから」


「お願いします!!」


優しい人なのだろう、警官はイカれたコスプレマンを無碍にせず、無線を使い相応の対応を始めた。


「えー…、対策本部、…あっ、ちょっと待った。…おーい!そこの外人のお嬢ちゃん!危ないから早く避難してねー!」


無線を握る警官の目線の先にいたのは、僕。ちょうど、袴女の背後にいた。

警官の言葉に反応して、袴女が振り返った。


…本当、軽い確認だったのだろう。彼女は何気ない顔して、別にどうってことないって風だった。


僕と目が合うまでは。


「…」

「…んぉ?」


間もなく、彼女は素っ頓狂な声を上げた。


「…えっ、えっ、えっ」

「…!!????きゅッ…、吸血姫…!???なでっ…、なんで敵の親玉が道バタに!?」


麻呂眉を飛び上がらせ、気を動転させる彼女。ただし、責任感からか、彼女は恐怖に震えながらも腕を広げて背後の警官を庇うポーズを取り、こちらを警戒する。涙目で僕をキッと睨む。


僕は慌てて両手を上げた。


「あっ!いやっ!えっと…!」

「やっぱり吸血姫なんですか?僕…」


…まぁその、『吸血姫』らしからぬ対応をしたのだろうな、僕。


だからこそ、説得力があった。


いつの間にか大量の冷や汗をかき、過呼吸になって、死を覚悟していた彼女は、その、異様な光景を目の当たりにした後、へなへなっと地べたにへたり込んだ。


「へ…あ…?どっ…、どーいう…」

「…あっ、へっ」


緊張と一緒に、あらぬものまで緩んだのだろう。


アスファルトがじわわっと湿っていった。



 …



「…つまり、目が覚めたら何故か吸血姫になっていたと…、ニワカには信じられねー話っスね…」


規制線近くの街路樹の下。警官の確認待ち中。

"後処理"を終えた本町さんは、僕の頬をつねって慄いた。


「でも…、こんな不敬極まりないことをしても殺されないってことは、マジなんスよね…?」


「そうれふ」


「そうれふってなんスか?」


「ひゃへりちゅらいれふ」


「えっ?」


「はなひて」


「あっ、ごめん」


頬から手が離れる。僕は引っ張られて緊張した頬をもちもち揉みほぐしながら尋ねる。


「…そんなに怖いものなんですか?吸血姫って…、その、"漏らしちゃう"くらい…?」


「そりゃあもう!」


その叫びには自己肯定も含まれてる気がするが、決して誇張は感じられない。


「案件Q4、特別情報局により編纂された『特務特案集』に3つだけ存在する解決不可能案件の中でも飛び抜けて無理難題と言われる『吸血姫への対抗』!『遭遇したら黙って死を受け入れろ』とまで言われる、太陽の寿命くらい理不尽な概念が貴女!貴女なんですよ!?そりゃあ小便の1つや2つくらい漏らしますよ!漏らして当然!当然なんスよ!」


「は、はぁ…」


気圧され同意する僕を前に、彼女はふんすと腕を組む。彼女は次いで言う。「…だから、私がまだ生きてることは、正直奇跡でしかないんスよ」と。


「奇跡…」その言葉に僕は反応する。

…なんかちょっと、僕がこの姿になったことを肯定する言葉みたいで嫌だった。


「まぁ、貴女の変化については、後で『先輩』に聞いてみましょ。きっと何か知ってるハズっスから」


「あ、ありがとうございます…」


「うん。じゃあ、行きましょっか?」


…んえ?


「行く?」


「うん」


「?どこにですか…?」


「決まってるじゃないっスか。避難っスよ、避難。だって貴女、“一般人なんでしょ?”」


…あっ。


やべっ。これ、完全に墓穴掘った? 


「あ、いやっ、その…、ひ、避難はちょっと…」


後退り、抵抗してみる。が、


「だーめ。わがまま言わない」


ガッと腕を掴まれる。


その強要は優しさ。

が、今の僕にとってはゲームオーバーそのもの。


だから、


「えっ…?」


振りほどく。


当然だ。もうじゃれあってはいられない。


母さんの命がかかってるんだ。


何?民間人は引っ込んでろ?

プロに任せておけばいいだろうって?


うるせぇよ。

知らねぇよ。そんな正論。僕が助けに行くって決めたんだ。


嫌いなんだよ。クソ公務員野郎。


いいじゃないか、こう言う時のための自己責任論だろ?


大体さ、何で他人が僕の命の使い方について文句言ってくるんだよ。僕のものだぞ?鉛筆やペットボトルと同じ。大切に飾ろうが雑にゴミ箱に放ろうが自由だ。にも関わらず、皆、命の話になると急に公共物を見るような目になって口出ししてくる。不自由、それは命の爆発に対する抑圧だ。


「死なないで」「自殺なんて良くないよ」。


そういう言葉が嫌いだ。そういう言葉こそが、『いざとなったら死ねる』という安心感を奪い、僕達から死という未来を奪い、漫然な生の中をさまよわせ、不安にさせるんだ。そして無性にも更に死にたくなるんだ。


だから、お願いだよ。

使わせろよ。僕の命を、僕のために。


じゃないと後悔しちゃうんだよ。


だから、止めるってんなら、いっそ…


…だが、僕は、本町さんについて、どうやら2つほど勘違いをしていたようだった。


1つに。


「…!いや、待って…!貴女の睨み顔、もしかしたら利用できるかもしれない…!」


「…んぉっ?」


本町さんは、マトモじゃなかった。

違う。『プロ』としてマトモだった。

彼女は僕の顔が人命救助に使える、唯一無二の素材であると気づいた途端、目の色を変えて、僕に迫った。


「…ねぇ、ちょっと相談なんスけど、徳積みたくないっスか?」


「…!」


「ちょうど困ってたんスよ。どうやって、あの病院から皆を助けようかなって…」


本町さんは説明した。

日常とは程遠い壮大。

今朝に始まった、吸血姫の復活を起因とする吸血姫一派との戦争について。


異形との闘争。現状、世界第二位の超自然的軍事力を誇る日本による総力戦に加えて、“吸血姫の不在”が相まって、人類側が圧倒的優勢であった。一派の強力な幹部陣も“日本最高峰の巫術師ら”によって叩きのめされつつあった。


では、今に病院を占領する異形たちとは何か。それは、侍衛係とSATの協力により形成されていたK山包囲網を突破した吸血姫一派における非戦闘員ら、残党の所業であった。彼らは恐らく、病院を補給拠点として整備し、人類への反抗を企てているのであった。


そこで、元々は後方支援担当であって、若干暇していた本町さんが飛び出したというわけだ。人類側の主戦力がK山から離れられない中で、自由に動ける彼女こそが市井を救おうとしたわけだ。


…しかし、彼女はこの戦争において後方支援に回される程度の力不足であり、実のところ、非戦闘員相手ですら戦って勝てるかどうか怪しい弱者であった。でも、一刻も早く救助に走らねば、刻一刻と人命は失われる。奴らは情け容赦なく人を喰う。なれば、どうするか。


もはや、鉄砲玉として突貫するしかないか…?彼女はちょうど、そう決心しようとしていた。


「しっ、死のうとしていたんですか…!?いや、僕が言えたことじゃないけど…。でも、なんで…?」


「?そりゃあ、決まってるじゃないっスか」


ここで、2つ目の勘違い。


「あそこに居るのは、私の知らない人だけど、誰かの大切な人っスよ。誰一人として失われて良いわけないじゃないっスか。たとえこの身が砕けようとも助けるっスよ」


「…!」


僕はどうやら、人間の気高さってものが見えていなかったようだ。


なんだ。彼女は、僕なんかより、ずっと…


いつの間にか、本町さんの目はジンとしていた。が、少しして、彼女はハッと我に返った。

「一人で盛り上がっちゃいました…」彼女はそう反省した後、僕を心配した。


「あ、あの…、別に断っても良いんスからね?これは強制でも何でもないっスから…。も、もちろん、貴女のことは最優先で守りますけど、それでも危ないことに変わりはないっスから…」


しかし、それは杞憂。


人としての一線を超えないよう必死に振る舞っている本町さんに、僕は遠慮の欠片もなくハッキリと告げた。


「本町さん」

「あの病院に、僕の母さんがいるかもしれないんです」


「…!」


それは、蛮勇だ。僕はもっと己を悲観的に見なければならなかった。


でも、僕は、戦わなきゃいけなかった。


本町さんのように。


叩きのめさなきゃいけなかった。


この現実を。


無謀と言われてもいい、この胸に抱いた意志一つで。


僕の、決意のこもった目に、本町さんが頷いた。


その直後だった。顔面蒼白になった警官のおじさんが、自分の上長を連れてこちらに駆けつけたのは。

おしっこすき

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