番外編1.魔法の服
「どうしよう……着替えがないわ」
それは、エルミアが精霊樹に辿り着いて何日か経ったある日のこと。
それまでは、服は汚れたら川で洗濯をし、その間は着るものも無いが周りに人の目もないので、何も着ずに過ごしていた。しかし、その日はうっかり枝に引っかけて破いてしまったのだ。
「繕う針と糸もないし」
肩を落とし、なんとかならないかと未練がましく破けた箇所を解れた糸で縛ったりしていると、ララノアが見かねて肩を叩いた。
「魔法で作れるわ」
「本当?」
「本当よ。ただし、注意してほしいのは、魔法で作った服はまやかしに過ぎないの。着ていたり、触れている間は魔力が供給されるからしっかりと形を保っていられるけれど、脱いだり、離したりするとやがて消えてしまうわ」
「そ、それは案外不便ね。でも、毎日作り直せば大丈夫そう。早速教えてくれる?」
「いいわよ。では、材料集めから」
「え、材料がいるのね。魔法で全部ぱぱっと作ってしまうのかと思っていたわ」
「材料があったほうが、丈夫で長持ちするし、材料によって様々な模様や形が出来るわよ」
「わ、それは楽しそう!」
エルミアは取り敢えず破けた服を身に纏い、材料を探すため野原に行こうとした。それを、ララノアが引き留める。
「ちょっと待って。新しく服を作る魔法も教えるけれど、その前に破れた服を直す魔法も教えるわね」
「有り難いわ。その魔法って、手を離したら効果が消えたりはしないの?」
「ちゃんとした材料を使っていれば、繋ぎ合わせた部分はずっとそのままよ」
エルミアはほっとして胸を撫で下ろした。もし町へ戻れたときに、突然破れが戻ってしまったら大変恥ずかしい事態になるところだった。
「あなたは治癒魔法がだんだん上手く出来てきたから、これはより簡単だと思うの。要するに、服を治療するのよ。そういうイメージでやってみて」
「わかった」
集中しやすいように目蓋を閉じて、翳した掌に魔力を集めてゆく。そして目蓋を開くと、破れ目を繋ぐようにイメージしながら当ててゆく。ここ数日魔力を操る練習をしていたお陰で、大分コツが掴めてきたが、まだまだ時間がかかった。文字を書き始めたときの、慣れない手つきを思い出す。最初は葦ペンを持つ手が震えて歪な字しか書けなかった。けれども、何度も書いているうちに、流れるように字を書けるようになったのだ。
ふと、瞳が陰る。
ララノアが頬に触れる。目に光の粒が入り込んで、目をぱちくりさせた。
「なに?」
「もう、直っているわ」
「あ」
確かに、綺麗さっぱり破れ目は消えて、服は元の姿を取り戻していた。慌てて魔力の流出を止め、体内の巡りを整えるように深呼吸する。魔法の使い方の初歩であるこの一連の流れも、全てララノアから教わった方法だ。
「危なかった、心ここにあらずになっていたわ」
「気をつけて。魔法を使うときは集中することよ。クッキー作りと同じように」
「なるほど。そういえば、以前私が作ったクッキー、ちょっとかじったのは、あなた?」
「とても、美味しかったわ。おかげで、力が増したみたい」
「ふふふ……!」
エルミアは、突然ニコニコ笑いの発作が止まらなくなった。そのまま野原に駆け出す。ララノアはその後を飛んで追いかけた。
それから二人は、様々な草花を集めて服を作った。
初めて作った服は、緑の地に、花模様の可愛らしいドレスだった。ただし、模様の中には蛙が一匹紛れていたので、ララノアが気づいて解放してあげた。




