自販機の補充員
スタジオの前の自販機は、分かりやすい。
減っているのは、決まって同じところだ。
ブラックコーヒー。
水。
あとは、無難な缶のジュース。
扉を開けると、
缶が抜けたままの列が、素直に目に入る。
そこから補充する。
箱を持ち上げ、
缶を並べ、
押し込むたびに、金属の乾いた音が鳴る。
新しく入れた列だけが、やけに整っていた。
プロテイン入りコーヒー。
一本も減っていない。
「……だよな」
独り言みたいに呟いて、補充箱を閉める。
誰が飲むんだよ。
自分でも、そう思う。
でも、飲んでいる。
昨日も、今日も。
夜勤明け、
ここに来る前に一本。
味は正直、慣れない。
自販機の前を、笑い声が通りすぎる。
「なあ、これ見た?」
一人が、歩きながら指をさす。
「誰が飲むんだよ」
即座に返事が飛ぶ。
笑い声が重なる。
楽器ケースを肩にかけたまま、
三人は足を止めずに通り抜けていった。
結局、
いつもの缶だけが抜かれていく。
プロテイン入りコーヒーは、
一本も動かない。
作業表にチェックを入れながら、
少しだけ考える。
別に、売れなくていい。
誰か一人が、
必要なときに取れれば。
明日も、同じ場所に残しておこう。
減らない列の、真ん中に。




