ライブスタッフ
ライブハウスのステージ裏は、熱気で満ちていた。
汗の匂いと、アンプの残響。
聞き慣れないバンドたちが、落ち着かない様子で順番を待っている。
名前を呼ぶ。
それが仕事だ。
「次、準備お願いします」
呼ばれた三人は、一瞬だけ顔を見合わせてから、ステージへ向かった。
緊張しているのは分かる。
それでも、足取りは揃っていた。
曲が始まる。
最初に耳に入ってきたのは、ベースだった。
前に出ない。
それでいて、全体を確実に支えている。
ドラムは、余計な主張をしない。
音を叩くというより、流れを保っている。
ボーカルは、声を張らなかった。
力を抜いて、言葉を置く。
感情を乗せるというより、残す。
音が、降り積もっていく。
派手ではない。
けれど、消えもしない。
最後の音が消えたあと、
一瞬の間があり、
拍手が起こった。
三人は、少し高揚した様子でステージ裏へ戻ってくる。
すれ違いざま、思わず声が出た。
「……いいバンド名だね」
評価のつもりではなかった。
音の話をするには、まだ早いと思っただけだ。
ボーカルが、少し目を見開いて足を止める。
「名前、覚えやすい」
そう付け足すと、
彼は小さく笑って、軽く会釈をした。
そして、何も言わずにメンバーの後を追っていった。
その背中を見送りながら、
名前を呼ぶ仕事は、
案外、悪くないと思った。




