第7話『挟まれドッグとおさぼりキャット』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通しているが、ちょくちょく怪しまれている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『おさぼりキャット』
名前:ミナ・ホロス
年齢:12
種族:半獣人
性別:?
容姿:身長152cm 健康的な肌色 小柄ながらすらりとした体型
ふわふわ灰色ショートヘア 猫目 灰混じりの青瞳い 猫系の耳と尻尾 毛色も灰
基本的に学校では学校指定のローブに、ズボン姿で居る事が多い
備考:一人称はボク 中性的でミステリアス サボり魔
母がエルフ、父が獣人 魔術より身体動かすほうが得意 鶏肉が好物
同い年にも関わらず上級クラスに通っているというダイナに、少し思う所があるらしい。
アステリア魔法学校への入学を決めたダイナは、提示された2つのクラスのどちらに所属するかを決める必要があった。
1つは、今のダイナの魔術の実力に合わせた上級生《4年生》クラス。
もう1つは、ダイナと同じ12歳程の年頃の子供達が通う、下級生《1年生》クラスだ。
選択を迫られるも中々決められない様子のダイナに対しマナが提案したのは、とりあえず両方体験してみる、という物だった。
かくしてダイナは体験入学という形で、まずは上級生クラスへと入ってみる事になったの、だが──。
「では皆さん、今日は授業を始める前に1つお知らせがあります。」
上級生クラスの教壇に立つ、金の長髪をなびかせる長身のエルフ女性が教室内の生徒達へと声を掛けると、生徒たちは一斉にそちらへと目を向ける。
ここ4年生クラスの生徒たちは何れも15歳以上であり、その顔つきもやはり少し大人びてきている者が多い。
「転校生……というよりは新入生の方が正しいですね。少々特殊な事情があり、今日このクラスにお試しという形で加わる事になった、新しい生徒が居ます。」
突然の新入生という予期せぬイベントに、沸き立つ生徒達。
そんな生徒達と先生の声を聞きながらひとり廊下で待っているのは、緊張から落ち着き無く尻尾や耳をしきりに動かし続けている、制服姿のダイナだ。
「(大丈夫……大丈夫……名前を間違えないように……。)」
先生に名前を呼ばれたら入室し自己紹介をする、という手筈になっている。
心の中でダイナが繰り返し自己紹介の練習をしていると、やがてその時が来た。
「では、ライトさん。どうぞ、入ってきてください。」
「っ……は、はい!失礼しまっす……!」
呼びかけに応じ震える手で教室の扉を開ければ、手と脚が一緒に出てしまうようなぎこちない動きでダイナは教壇の上へと立つ。
すると、そんなおかしな動きのダイナへ生徒達の視線が一斉に集まり、奇妙な一瞬の静寂が訪れる。
「……半獣人?」
「ちっちゃい……可愛いかも……。」
「珍しいね……。」
やはり魔法学校という場所には、魔術の扱いを苦手とする半獣人は珍しい存在であるらしく、あちこちでひそひそとしたざわめきが漏れ聞こえてくる。
もちろん耳の良いダイナにはしっかりとそれも聞こえてしまっていて、ぴこぴこと動く耳が忙しなく反応を示していた。
「はい皆さんお静かに。……さぁ、お名前をどうぞ?」
「は、はい!えっと……ぼ、僕の名前はダイナ・ライト……12歳です。えと……その、今日はっ……よろしくお願いしまひゅっ!」
目線の高さを合わせるように少し屈んだ先生に促され、ダイナはガチガチに緊張しながらも自己紹介を始める。
緊張から来る手汗を誤魔化すようにローブを強く握りしめ、真っ白になってしまいそうな頭をなんとか動かし続けて、勢いに任せるようにやや甘噛気味な自己紹介とお辞儀を披露した。
結局のところ、あまりの緊張っぷりに事前に練習していた自己紹介の半分も口にする事は出来なかったの、だが。
「……っ、あ……えと……?」
自己紹介を終えたつもりなのに、誰からも何の反応も無い事に不安を覚えたダイナが恐る恐る顔を上げると、そこには何故か口元を手で覆い隠しながらどこか恍惚とした表情でダイナの方を見つめる女子生徒達と、先生の姿があった。
どうやらダイナのその何とも言えない愛くるしい雰囲気《小動物感》が、教室の多くの女子達の心に深く突き刺さったらしい。
「……こほん。はい、ではライトさん。よろしくお願いしますね。この学校では、教室に決まった席はありませんから、どこでも好きな所に座ってくださいね。」
「あ、はい!よろしくお願いします……!」
はっと冷静さを取り戻した先生が取り繕うように小さく咳払いをすると、生徒達が仲良く並ぶ何列かの長机の方を手で差す。
この学校の教室は基本的に階段状になっており、その各段に大きな長机と長椅子が設置されていた。
もう一度先生にお辞儀をしてから教壇を降り、じゃあどこへ座ろうかとダイナが少し周囲を見渡し始めた、その時。
まるで待ち構えるように1人分のスペースを空け、おいでおいでと手招きをする複数の女子グループの姿がダイナの目に飛び込んでくる。
「……!?」
当然、ダイナは困惑したように動きが止まってしまう。
学校全体で見ても男女比率がおよそ3:7と女性が多めなアステリア魔法学校は、例に漏れずここ4年生クラスもその半数以上が女子生徒で占められて居た。
またしても非常に難しい選択を迫られるダイナではあったが、そもそもの話ダイナのような引っ込み思案で思春期真っ盛りな男の子が、そう簡単に|異性の群れの中へと飛び込んで行ける筈も無く──。
結局は、教室の最上段の隅の方でどこか肩身が狭そうにしていた、数少ない男子グループの所へと加わるダイナなのであった。
◆
時は流れ、お昼休みの時間。
校長からも言われていた通り、その年齢に対しては高い実力を持つダイナは、上級生クラスの授業内容にも難なくついていく事が出来ていた。
だが決して退屈だったというわけでも無く、師匠から教えてもらった物とはまた違った様々な知見を得る事ができ、本人的にもとても満足の行く物だったようだ。
しかし今問題なのは、授業の内容の方では無いようで──。
「ダイナくん!隣良い?お昼一緒に食べよ!あ、アタシはサーフィね!」
「えっ、あ、どうも?……あれ?」
昼休みが始まるなりダイナの隣へと腰掛けてきたのは先生と同じエルフ種で、金髪ショートヘアの活発そうな女子生徒、サーフィ。
ついさっきまでそこには数少ない男子達が居たはずなのだが、女子の接近を察知して蜘蛛の子を散らすように逃げてしまっていた。
「えーと、僕……お昼は──。」
「へぇ、お弁当なんだ。私達と一緒ね。」
「っ……!?」
「あ、そっちの目つきが鋭いのはロマリスね!」
デュオス作のお弁当を持ってそそくさと逃げようとした所で、反対側に気が強そうな黒髪ロングの女子生徒ロマリスが座って来て、ダイナは完全に退路を断たれてしまう。
長机に長椅子という構造上、両側を挟まれてしまうと立ち上がって逃げることもままならない。
「ねねね!さっきの授業難しくなかった?アタシついていくのに精一杯だったよー……。」
「ちゃんと基礎を理解していないからじゃない?もっと勉強しなさい、サーフィ。」
「ちぇー……。」
「あ、えっと……その……。」
雑談を交えながら両サイドでそれぞれ自らの昼食を広げ始める2人の女子生徒に、もはや退いてくれとも言いづらくなってしまったダイナは、お弁当を手に持ったまま小さく縮こまるばかり。
「……緊張してる?大丈夫。別にとって食べたりしないわ。」
「ひゃっ……!?」
ダイナの様子を察してか、大丈夫と諭すようにロマリスが突然ダイナの頭の獣耳をそっと撫でてくる。
そんな彼女の突然の行動にかなり驚いたらしいダイナは愛らしい悲鳴を上げて、まるでその手を振り払うように耳をパタパタと素早く動かした。
「ちょっとそれ、ケモハラだよー?ごめんねダイナくん!この子、顔はちょっと怖いけど悪い子では無いから!きっと!」
「……サーフィうるさい。」
「むぉっ!?じ、事実じゃん……っ!」
友人の抜け駆けのような接触行為に警告を発しつつもフォローをいれるように苦笑するサーフィに、ロマリスは彼女の顔面へと手を伸ばせば両頬を片手で鷲掴みにするようにして押し潰し、強制的な変顔を披露させる。
「!?(は、挟まれ……っ!?)」
そして、ダイナはそんな仲睦まじい様子の2人の間に2つの意味で挟まれてしまって、2つの意味で押し潰されそうになっている。
これまで自分より背の高い女性に囲まれる等という経験をした事が無い幼気なダイナ少年には、あまりに刺激が強く、かと言ってこの状況をどうして良いのかもわからず、ついには我慢の限界を迎えてしまう。
「し……転移ッ!」
「ほぇっ!?」
「!?」
2人の身体の隙間から僅かに見えた教壇へ向け、ダイナは転移の魔術によって瞬間的に移動し、何とか脱出に成功。
その結果、突然ダイナが居なくなった事で2人の間にスペースが生じ、サーフィとロマリスは互いに崩れるようにぶつかってしまう。
「ご、ごめんなさい……っ!」
そんな驚いている2人の方を少しだけ見て小さく謝罪をすると、ダイナはお弁当を片手に逃げるように教室から飛び出すのであった。
「……サーフィ、やらかしたわね。」
「えっ!?アタシのせい!?」
◆◆◆
教室を飛び出し、落ち着ける場所を探して校内を色々と彷徨うダイナ。
しかしやはりその男女比率故にどこに行っても女子生徒の姿が目についてしまう。
そしてそんなダイナが最終的に選んだのは、校舎の屋根の上であった。
「ここなら流石に……って、え……?」
流石にこんな所で食べている生徒は居ないだろうと考え、転移を用いて屋根の上へと上がったダイナの目に止まったのは、フードを被って屋根の上で気持ちよさそうに昼寝をしているらしい1人の生徒の姿だ。
まさかこんな所にまで人がいるとは思わず驚きを隠せないダイナだったが、今から他の場所を探していては食べ終わる前にお昼休みが終わってしまいそうだった為、今日のところは仕方なくここで食べる事にした。
「……。(こんな所で昼寝して危なくないのかな……っていうかどうやって登ったんだろう……?)」
ダイナは斜めになった屋根の上で軽く膝を立てると、その上にお弁当を置いて黙々と食べ始める。
日差しによって暖められた屋根は程よいぬくもりであり、確かに昼寝をすると気持ちが良さそうだ。
時折吹く、僅かに潮の香りが残ったような心地良い風を感じながらも、やはり気になってしまうのはそこで寝ている謎の生徒。
ちらりちらりと横目で見ながらお弁当を食べ進めていると突然、少し強めの風が吹いた。
「わっ……?!……あれ?」
強風に思わずぎゅっと目を閉じながらも、ダイナはお弁当が飛ばされてしまわないように押さえる。
そうして再び目を開けば、先程までそこに寝ていた筈の生徒の姿が忽然と消えていた。
まさか今の強風で屋根から落っこちたのかと、ダイナが慌てて立ち上がろうとした、その時。
「──ねぇ。」
「ッ──!?」
何者かがダイナの後ろから声をかけ、その両肩を抑え込むように手を置いてきた。
気配もなく容易く背後を取られた事に驚いたダイナは、獣耳と尻尾をぴんっと逆立てる。
「……ああ、ごめん。驚かせちゃった?……でも、慌てて立つと危ないよ。」
声変わり前なのか、男女どちらともつかないような声でそう警告しながらダイナの隣へとゆっくり腰掛けたのは、先程昼寝をしていた生徒だ。
やがてそのフードをゆっくりと外すと、柔らかそうな灰色のショートヘアと、どこか魅惑的で猫のようなひし形の瞳孔を持った灰色混じりな青い瞳の、やはりどちらともつかないような中性的な顔立ちの素顔が現れた。
しかも、その頭にはダイナと同じような1対の獣耳が生えているというのだから、2度驚きだ。
「……何?ボクの顔に何かついてる?」
唖然とした様子のダイナにその生徒は少し困ったように小さく苦笑して、問い返す。
その身に纏う学校指定のローブの胸元には、1年生である事を示す白色のバッヂ。
そしてそのすぐ下には、『ミナ・ホロス』と書かれた小さな名札がついている。
「あ、いえ……えっと……。(ボク、ってことは多分……男……だよね?)」
声を聞き顔を見て、名前を確認してもいまいち判別の付かない相手にどう接するべきか迷っていると、ミナの腰あたりからにょろりと伸びる尻尾に目が止まる。
それはダイナの物とはまた違った、猫のような細長い尻尾だ。
「……君さ、この辺りの子じゃないよね。……森の匂いがする。」
「っ……!?えっと……ぼ、僕は今日からここに通う事になった者でっ……。(ち、近い……。)」
不意に顔を近づけてきたかと思えば、すんすんと鼻を鳴らして匂いを確かめるような仕草をするミナの行動に、普段自分が師匠に対してやっているにも関わらず、ダイナは何故かドキドキしてしまう。
実際、アステリア魔法学校は海に近いこともあって、このあたりに森と呼べるような立派な森林地帯は無い。
そしてもちろんダイナから森の匂いがするのは、普段マナと一緒に森で暮らしているからだ。
「ふーん……どこのクラス?バッヂは?見た感じボクと同じ1年生……だよね?」
「あ、えーっとまだ決まってないというか何と言うか……、……?」
すっと顔を離し座り直したミナの視線は、質問の内容とは裏腹にダイナが手に持つお弁当へと向けられている。
故あって学年を示すバッヂもまだ貰っていないダイナは、何と説明をすれば良いのか困りつつもその視線にすぐに気がついたようで、やがて小さく笑った。
「……良かったら、少し食べますか?」
「いいの?」
やや食い気味な返事をしながら、ミナはその細長い瞳孔をまん丸に変化させると、によっとした笑みを浮かべ目を細める。
そんなミナの様子にまた少し笑って、ダイナは自分のお弁当のおかずの唐揚げを1つフォークで突き刺すと、すっと差し出した。
「ん……まぁいいか。いただきます。」
一瞬何か言いたげな表情を見せるミナだったが、そのまま小さく口を開けると差し出された唐揚げにかぶりつく。
そのままじいっとダイナの方を青い瞳で見つめながら黙々と咀嚼を続け、やがてゆっくりと飲み込んだ。
「……ごちそうさま。けっこう美味しかったよ。」
「それは良かったです……あ、えっと……僕はダイナ・ライトと言います。今は4年生のクラスにお試しで通っていて……。」
「4年生?……本当に?」
思い出したようにダイナが軽く自己紹介をすると、ミナは少し驚いたように耳をぴんっと立てた後横に倒して、やや警戒するような姿勢を見せる。
どう見ても自分と同じくらいの年頃にしか見えないダイナが4年生だと聞いて、年上の先輩であろう事が信じられない様子だ。
「あっでもあの!歳は12なので!年齢的には1年生というか……!」
「……飛び級ってヤツ?ふーん……じゃあ魔術、得意なんだ?」
ダイナの年齢を聞いたミナは、今度はどこか訝しげな目でダイナをじろじろと観察し始める。
ミナからすればダイナは一見すると、自分と同じ半獣人。
にも関わらず既に上級生クラスでもやっていける程の魔術の才があると知れば、色々と思う所があるのだろう。
「す、少しだけ……ですけど。」
「……なーんだ。ボクと同じ落ちこぼれかと思ったのに。期待して損しちゃったな。」
謙遜するようなダイナの態度がミナの神経を逆撫でしてしまったのか、ミナは少し拗ねたような態度を見せて、ごろりと屋根へと寝転がり始める。
「落ちこぼれだなんてそんな……えーっと……?」
「……ボクはミナ。落ちこぼれの、ミナ・ホロスだよ。」
まだ名前を教えてもらっていない事に気が付き、呼び方に困っている様子のダイナを察しつつも、顔を合わせたくないのかミナはダイナに背を向け寝転がったままに手をひらひらと振って、そんな投げやりな自己紹介をする。
「ミナ、さん……お昼はいつもここに?」
「別にミナでいいよ。お昼っていうか、教室に居るのが嫌になったらずっとここにいるよ。」
膝を抱えて丸まりながらそんな風に答えるミナに、ダイナは困惑を隠せない。
だが実際の所、ただですら珍しがられる種族な上に、ダイナのように魔術の勉強に意欲的で腕が優れているというわけでもなければ、教室に居づらさを感じてしまうのも無理からぬ事だ。
入学して少しして始まったミナのこの脱走癖はもちろん学校側も把握はしているが、嫌がる本人を無理矢理教室へと連れ戻すような真似は控えるようにとの校長からの指示により、解決の糸口を見つけられぬままずるずると現在に至っている。
「そう、なんですね……。」
不貞腐れている様子のミナにそれ以上なんと言葉をかければいいかわからず、ダイナは自らの口を塞ぐようにお弁当の残りを口へと運ぶ。
何だか放ってはおけないのは事実だが、今ここで自分が首を突っ込んで何が出来るというわけでもないのもまた事実。
そんな少しもやもやとした気持ちのまま昼食を食べ終えると、ちょうど昼休みの終わりを告げる学校の鐘が鳴り響いた。
「ふわぁーぁ……もうお昼休みも終わりだね。……ボクなんかに構ってないで、早く教室に戻らないと先生に怒られちゃうよ?飛び級くん。」
「僕の名前はダイナです……じゃあえっと、また……。」
どうやらお昼休みが終わろうが教室に戻る気は無いらしいミナは、大きなあくびを1つすると横目でダイナの方を確認しながらそう忠告する。
それでもやはりどこか放っておけないらしいダイナは、素早くお弁当を包み直すとミナに暗にまた会いに来ると告げて教室へと急ぎ戻るのであった。




