第6話『師匠と校長』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通しているが、ちょくちょく怪しまれている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
先日、アステリア魔法学校へと送った手紙の返事が来て、一度顔見せも兼ねて学校へと赴く事となったダイナは、マナに連れられ学校の前までやって来た。
正面にそびえ立つのは荘厳な造りの巨大な鉄門と、その両脇を固めるように配置されたドラゴンの石像。
そのあまりの存在感に唖然と見上げるダイナの横顔を見て、マナは小さく笑った。
「……凄いじゃろう?この校門の設計には、ワシも関わっているんじゃ。」
「えっ?そうなんですか……?」
「うむ。この門は事前に登録した者以外は入れないようになっておって──。」
少し得意げな様子で語るマナの後ろでは、付き添いとしてついてきたデュオスが、どこか複雑そうな表情をしていた。
するとそこへ、学校の中から白いローブを身に纏ったヒゲの長い老人が現れ、門の方へと近づいてくる。
「いやはや、ようこそおいでくださいましたアスター様。お久しぶりでございます……私の事を覚えていらっしゃいますでしょうか……。」
帽子を取り深々とお辞儀をするエルフの老人の姿を見て、デュオスはひとり驚いたように目を見開く。
もちろん初対面の筈だが、デュオスに限ってはそうでは無かったからだ。
「ああ、もちろんじゃ。直接会うのは150年ぶりくらいか……久しいのうトロゴス教授。……ああいや、今は校長じゃったか?」
「ええ、おかげさまで何とかこの学校の校長としてやっております……。」
エルフ同士による長大なスケールの会話が繰り広げられる中、ダイナは緊張からか少しマナの後ろに隠れるようにして様子を伺っている。
とはいえ、マナよりもダイナの方が大きいため、全く隠れられて居ないのだが。
「そちらの子が件の……?」
「うむ、ワシの息子じゃ。……ほれダイナ、前へ出て挨拶せんか。」
「は、はい……!えと……ダ、ダイナ・アスターです!よろしくお願いしますっ!」
「ほほ……こちらこそ、よろしくお願いしますね、ダイナくん。」
マナに促されるような形でトロゴス校長の前へと出されたダイナは、やや緊張気味に尻尾をそわそわと揺らしながらも、しっかりとした挨拶とお辞儀をして見せる。
そんな初々しいダイナの様子に思わず顔が綻ぶ校長は、ダイナとマナを見たあとで、その後ろで佇む謎の黒コートの男へと目を向けた。
「(ん……?ダイナくんのお父さん……いやしかし瞳の色が……ああ、なるほど。)」
「ですがまさか、アスター様がいつのまにやらご結婚なさっていたとは……。」
「んっ?待てそれは──。」
どうやら校長は、デュオスとダイナがどこか似ているのに瞳の色が違うのを見て、ダイナはデュオスの連れ子であり、マナと再婚した結果として息子になったのだと判断したようだ。
そしてその勘違いをいち早く理解し、声を上げたのはダイナだった。
「ち、違いますよ!あの人は僕のお父さんなんかじゃありません!」
「おっと、それは失礼。いらぬ事を言ってしまいましたな……。(しまった……思いの外複雑な家庭のようだ……。)」
デュオスを指差し全力で否定するダイナの様子に、校長はまたもや勘違いを加速させる。
一方でデュオスはと言えば、何故か少し勝ち誇ったような微妙な笑みを浮かべたまま、否定も肯定もせずに腕を組んでいる。
「黙ってないで違うって言ってくださいよデュオスさん!師匠も!」
「まぁなんじゃ……一応2人とも、ワシの弟子というかじゃな……あー……。」
一言で説明できない複雑な関係性に、マナも説明に困ってしまっている。
かと言ってここで、片方は血の繋がらない息子兼弟子で、もう片方はそれの未来から来た奴等と説明できる筈もなく。
「弟子ですと!?確かアスター様は昔、弟子は取らぬ主義と……!」
「ワシもそのつもりじゃったんじゃが……なし崩し的にの。」
弟子というワードに反応して突如として興奮し始めた校長は、ダイナとデュオスを食い入るように見始める。
というのもトロゴスはその昔、天才魔術師であるマナの噂を聞きつけ、わざわざ弟子入りを志願しに来た事があったのだ。
当然マナはそれを断ったが、その後もしばらくマナの周りをうろちょろしていたらしい。
「で、でしたら今からでも私めもアスター様の弟子にッ──!」
「これ以上弟子はいらぬ。」
「そんな殺生な……!げほっごほっ……!」
しわしわの枯れ枝のような手で、マナの小さな手をひしと掴む校長を、マナはばっさりと切り捨てる。
はたから見れば祖父と孫かひ孫のようにしか見えない光景だが、実際のところはマナの方がだいぶ年上だと言うのが、エルフマジックだ。
興奮のあまり噎せ返る校長に、マナはどこか淋しげに微笑む。
「……老いたな、トロゴス。」
「けほっ……ええ、近頃は視力も落ちてきましてね……そういうアスター様は、昔と全く変わらぬお美しさで……。」
同じエルフであっても高位のエルフであるマナと、一般的なエルフであるトロゴスには倍以上の寿命の差という物が存在する。
それは当然、老いる速度や人生の長さも違うという訳であり、故にこそマナはあまり他人と親しい関係を持とうとはしてこなかったのだ。
置いていかれる辛さを、誰よりも知っているが故に。
「ま、精々身体を労ることじゃ。せめてダイナが卒業するくらいまでは、頑張って貰わんとな?」
「ええ、尽力致しますとも……!」
「……あの。」
しばらくそんな2人のやり取りを、借りてきた猫のように大人しく見守っていたダイナだったが、どうしても何か気になる事があったようで、我慢できずに口を挟む。
「師匠って……そんなに凄い人なんですか?魔法学校の校長先生より……?」
「……なんと!?」
恐る恐ると言った様子で投げかけられた質問に、校長は別の意味で驚きを隠せない。
天才魔術師の弟子ともあろう者が、師匠の功績を知らない等という事はありえない事だからだ。
ダイナ自身マナについては、周囲から天才魔術師や魔女様等と呼ばれて頼りにされている事は知っていたが、具体的に何を成した人物なのかは、本人が語らないのもあって未だに知らなかったのだ。
そして校長はまさか、と言うようにデュオスの方へも目を向ける。
弟子2人揃って知らないなんて事は無いだろう、という圧にも似た視線だ。
「あ、あー……えーっと……。その、あれですよね……あれ、ほらあのー……ね?(昔一回だけ聞いたような……何だっけあの、あれ……。)」
急に振られたデュオスは少し慌てたような様子で、身振り手振り何か宙をこねるように手を動かして、曖昧な返事をするばかり。
そんなふわふわとした弟子達の反応に業を煮やした校長は、勢いよく懐へと手を突っ込むと、やがて何かを取り出した。
「アスター様の輝かしい偉業と言えば、まずこれでしょうが!!」
そう叫ぶ校長の手には、きらりと光る1枚の硬貨。
それは、この国で広く流通している貨幣の1つだ。
「お金……ですか?」
「っかぁ~~!嘆かわしい!それでも弟子ですかな!?」
いまいちピンと来ていない様子のダイナに、校長はますます興奮してしまう。
一方で硬貨を見せられようやく何かを思い出したらしいデュオスは、ひとり掌を打った。
「(そうだ思い出した!確かあの硬貨……新ソル硬貨の、偽造防止策を考案したとか言ってたんだっけ……!)」
「まぁそう言うな……だいたいその硬貨が出来たのも、もう200年以上も前の事じゃろう?今の子は知らぬよ。」
「ですがっ……!」
マナに窘められては止まるしか無い校長だが、やはりどこか悔しそうな表情を見せている。
実はその昔この国では、大規模な犯罪グループが密造した偽造貨幣が一般市場に流通してしまうという事件が発生していた。
その頃ちょうど王宮直下の研究所で職員として働いていたマナは、その問題の対策チームとして駆り出され、そこで発案したのが現在他国の貨幣にも広く用いられている、魔紋式偽造防止印である。
それは造幣の際に原材料となる金属に特殊な魔術的加工を施す事によって生成される、極めて複雑な魔力の紋様を用いた物であり、その偽造難度の高さはもちろんだが、硬貨に魔力を流すだけで真贋を確認できるという識別方法の容易さから今でも高く評価されているのだ。
「ま、詳しい話は帰ってからしてやるとして……トロゴス、お主は校長としての仕事をせんか、まったく。」
「も、申し訳ありませんアスター様……つい興奮を……。」
尊敬し敬愛するマナに怒られてしまい、すっかりと意気消沈した校長は、ぺこぺことお辞儀をしながらマナとダイナ、そしてデュオスを校門の通行許可リストへと登録しようとしたの、だが。
「……おや?おかしいですな……。」
「む?どうした?」
「いえ……そちらの、デュオスさん……でしたか?その方を登録しようとしたのですが何故か──。」
既にダイナとして登録された扱いになっているが故に、二重登録となってしまうデュオスの登録がエラーとして弾かれてしまったのだ。
そしてその事にマナとデュオスがそれぞれ、設計者と未来から来た本人として同時に気が付き、阿吽の呼吸のように目線を合わせると、互いに小さく頷いた。
「あ、そうじゃデュオス!お主、このあと用事があるんじゃったよな?」
「実はそうなんです!なので俺はここでお先に失礼します!」
唐突に思い出したようにマナがデュオスへと話を振ると、デュオスはそれに話を合わせるようにして、その場から自然と離脱する流れを作る。
ここでこれ以上もたつけば、怪しんだダイナがデュオスの正体を知り、時間的矛盾が発生してしまう可能性があるからだ。
「おや、そうですかな?ではご登録はまた今度に──。」
「うむ!そうしようそうしよう!さ、ダイナ!ワシと一緒に学校を見て回ろうな!」
「えっ?師匠?わ、ま、待ってくださいよ……!」
そうしてやや強引ながらも何とか危機を乗り越えたマナは、ダイナの手を引いて早足で校内へと入っていくのであった。
◆◆◆
校内の見学と校長との話し合いを終えて、いよいよ入学のための最後のステップへと辿り着いた。
それはずばりアステリア魔法学校の生徒である事を示す、学生証の発行だ。
「それでですね、配属先なのですが……ダイナくんの今の実力から見れば、上級生クラスでも全く問題は無いかと思われるのですが……。」
「ふうむ……しかしそれでは周囲は基本的に歳上の子ばかりになってしまうじゃろう?」
「それはそうなのですが……。」
「……ダイナ?お主はどうしたい?」
校長室で真剣な様子で話し合うマナの隣で、ダイナは黙ったまま大人しくしている。
そんなダイナの姿を見かねてか、本人の意思を確認するようにマナは問いかける。
「え?あ……えっと……師匠にお任せ──。」
「ならん。これはお主自身が決めねばならん事じゃ。」
「でも……っ。」
ここまで来てもやはりまだ、上手く学校に馴染めるかが不安な様子のダイナは、どうすべきなのかを激しく迷っていた。
年齢的に言えばダイナは1年生。
1年生クラスでならば、同年代の友達と呼べる存在が出来るかもしれない。
しかし魔術師としてさらなるステップアップを目指すのであれば、校長が言うように上級生クラスへと入れてもらい、魔術の腕を磨くべきなのだろう。
「……決められんか。ならば、一旦両方体験してみるのはどうじゃ?」
「えっ?両方……ですか?」
「体験入学という形で、雰囲気だけでもな。……できるな?トロゴス。」
「えっ、あっはい。でき……るようにします、はい。」
随分と迷っている様子のダイナを見て、マナは第3の選択肢を提示する。
上級生クラスと1年生クラス、両方体験してみた上で決めれば良いという判断だ。
もちろん校長にとっては完全な無茶振りではあるが、相手が相手だけに断る事もできない。
かくしてダイナは、どちらのクラスに所属するかを決める為の体験入学を始める事になったのであった。




