第41話『天才魔術師の弟子達』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『彼方よりの征服者』
名前:エクデス(未来)
年齢:20代くらいの若さに見える
種族:幻魔族
性別:男性
容姿:身長176cm 青髪 糸目 標準体型 頭部に犬系獣耳 ツノ 腰に尻尾 左腕が義手
備考:復讐を掲げた侵略戦争によって他の全ての種族と国を焼き、再び大陸の支配者となった未来からやって来たエクデス。
ラギルを唆してリュケウスを暗殺させる事に成功し、傀儡の王となったラギルを通じて数多くの同胞を国内へと招き入れ、国が陥落する要因を作り上げた真の黒幕。
同じ幻魔族の血を引き、師弟の娘であるキャロルに偽りの憎しみを植え付けて暴走させ、彼女が死亡する原因となった人物。
時は少し遡り、マナとエクデスが海岸線へと移動しようかという頃。
現代のエクデスとの戦いによって魔力を使い果たしてしまい、マナによって戦力外として戦場から強制的に離脱させられたデュオスは、再び戦いへと赴くべく魔力の回復を促進する魔法薬を求めてアステリア魔法学校へとやって来ていた。
そこで偶然にもダイナとミナに鉢合わせした結果、2人の協力もあって学校の保健室にて目的の魔法薬を手に入れる事に成功したのだが──。
「──師匠がピンチだってさっきも言ってましたけど……そんなの行ったって足手まといになるだけじゃぁ……。」
「んなこたぁわかってる!わかってても行く!それが弟子ってもんだろ!?」
弱音を吐くように俯くダイナを一喝しながら、デュオスは魔法薬を一気飲みした後、さらに何本かの魔法薬を詰められるだけ懐へと詰め込み、マナの魔力を探るように目を閉じて集中し始める。
「う……だ、だったら僕も連れて行ってください!僕だって師匠の弟子ですから!」
「ダメだ。今のお前じゃ本当に足手まといにしかならない。……見つけた!」
勇気を出して同行を願い出るダイナを冷たくばっさりと切り捨て、マナの存在を確認したデュオスが転移術ですぐに現場へと急行しようとした、その時。
突然遠くから鳴り響いたのは轟音、そして余震にも似た小さな揺れ。
どうやらたった今、マナの魔術によって引き寄せられた隕石が海岸線に着弾したようだ。
「わっ、地震だよ飛び級くんっ!?」
「……多分師匠だ。師匠の魔力が今の一瞬で急激に下がってる。」
「そんな、まさか──。」
「そんなわけねぇだろッ!とにかく俺はもう行く!お前は学校で皆と大人しくしてろ!」
最悪の可能性を口にしようとするダイナの頭を乱暴に撫で回して黙らせると、目を閉じて頭の中にマナの顔を強く思い浮かべながら指を鳴らす。
だが、その瞬間──。
「っ──僕も行きます!!」
「飛び級くんっ?!」
「ちょ、お前──!?」
転移の直前、不意打ちのようにダイナがデュオスにしがみつく。
そうして結局そのまま転移してしまい、2人の弟子は共に師匠の元へと向かう事になったのであった。
◆◆◆
そんなこんなで現場へと到着した2人の弟子が目にしたのは、元の地形がわからなくなってしまう程の巨大なクレーターと、その中心部にて対峙する2人の魔術師の姿。
先の一撃必殺にて魔力が底をつきかけており、もはやこれ以上戦うことは難しい状態のマナと、そんな彼女とは反対に片角こそ折れてはいるが全快状態に近いエクデス。
それぞれの状態と、この凄まじい攻撃の痕跡を見れば何が起こったかは一目瞭然であった。
「っ……師匠!無事ですか!?」
「師匠っ!?」
マナの維持していた結界が崩壊し、閉じ込められていた土埃が外へと流れていく中、師匠の姿を確認した2人の彼女の安否を確認しようと共に駆け寄っていく。
だが──。
「来るな戻れッ!ワシなら──って何故ダイナがここにおる!?止まれ!」
「すいませんね聞き分けの悪い弟子でッ!」
「ご、ごめんなさい師匠……!」
「(おや?なるほど……あの少年は、この時代のダイナ・アスターですか。)」
こちらへと近づいてくる事を拒み、ダイナが居る事に驚愕しながらもマナは弟子達に制止を呼びかけるが彼らは止まらない。
共に師へと駆け寄る小さい方の弟子の姿を見て、すぐにそれがこの時代のダイナ・アスターである事を見抜いたエクデスは、不敵な笑みを浮かべた。
「師匠これ、魔法薬です!飲んでください!」
「たわけ!わざわざこんな物を届けに戻ってきたのか!?それに──!」
「僕も!僕も戦えますから!師匠と一緒に!」
「はぁ……バカ弟子共が……。」
学校で調達した魔法薬を手渡すデュオスに、マナはやはり少し怒ったような声でダイナを連れてきたことを叱ろうとする。
しかし真剣な表情で訴えかけてくるダイナの様子を見て色々と察したらしい彼女は、嘆くように小さくため息を零したあとで、受け取った魔法薬を一気に飲み干した。
「(ワシだけならばまだ逃げる事もできたのじゃがな……こうなっては仕方あるまい。)……良く聞け、お主ら。」
自分1人だけならば隙を見て転移術で逃走し立て直しをはかる事も出来た。
だが弟子達が来てしまったのなら、そういうわけにも行かなくなる。
飲み干した魔法薬の瓶を投げ捨て、ローブの袖で口を拭ったマナは何か腹を括ったように弟子達へと語りかけ始めた。
「今よりワシは魔力を回復するための瞑想の儀式に入る。」
「大凡10分程度の間ではあるが、ワシはその間は完全に無防備な状態となってしまう。」
例えこのままの状態で師弟3人で戦ったとしても、あのエクデスに勝てる見込みは薄いと判断したマナは、ひとまず戦えるレベルにまで魔力量を回復する事を選択した。
「じゃからお主らはそれまで時間を稼げ。……できるな?」
「「はいっ!」」
「……では、10分後にまた会おう。」
確認するようなマナの問いかけに、弟子達はぴったりと声を合わせて即答する。
そんな弟子達の曇りのないやる気に満ちた瞳を見れば、彼女は小さく笑ってその場に座り、坐禅を組んで目を閉じ始める。
瞑想の儀式はエルフ等の体内魔力量が多い種が魔力欠乏などの緊急時に用いる、急速な魔力回復の為の儀式だ。
高い集中力と強い精神力を求められるこの儀式は、当然の事ながら本来は敵との戦闘中に行うような物では無い。
それでも彼女は弟子達を信じ、己の命運を2人に預ける事にしたのだ。
「──楽しいお喋りは終わりましたか?ダイナ・アスターさん。」
「っ!?(え?僕!?)」
「……気にするな、あいつはちょっと──いやだいぶ頭がおかしいんだ。」
唐突に名指ししてくるエクデスに驚くダイナに、未来のダイナ
は誤魔化すようなフォローを入れる。
それと同時にエクデスに自分たちの関係性を既に見抜かれている事を察し、デュオスは別の意味で冷や汗をかかされる。
もしここで突然エクデスがデュオスの正体を暴露し、ダイナがデュオスを未来の自分だと認識してしまったのなら、その瞬間に時間的矛盾が発生する可能性があるからだ。
とはいえその結果何が起こるのかは、デュオス自身まだ知る由もないのだが。
「10分……何が何でも守り切るぞッ!師匠を!」
「はいッ!」
「回復の儀式ですか……良いでしょう。」
「では最強の魔術師の弟子……そのお手並み、拝見させて頂きましょうか。」
弟子達が戦闘態勢へと入ると、エクデスはそれがマナを戦闘へ復帰させるための時間稼ぎである事をすぐに理解する。
しかしそれでも今のエクデスには、先程までのような焦りは感じられなかった。
何故ならば、今の彼は角を折り復活を果たす前よりもさらに自分が強くなっている事を自覚しているからだ。
「(多少回復してきたとはいえ、俺もあまり派手な魔術は連発できない……師匠を守る結界を張りたい所だけど──。)」
「……風刃!」
「ふふふ、何とも愛らしい魔術だ。……ですが、本物の風刃はこう撃つのですッ!」
エクデスの出方を観察しながら、どうすればマナを守り切る事ができるかを考え始めるデュオスの隣で、ダイナは真っ先にエクデス目掛け風刃を放つ。
それをエクデスは黄色の光を放つ義手の左手で容易く吸収すると、手本を見せるように速度も大きさも段違いな巨大な風刃を撃ち返した。
「(吸収したッ!?いやそれより師匠を守らないとッ!)城壁ッ!」
「うわっ!?」
迫りくる攻撃に、デュオスは咄嗟に地面を殴りつけると地中から分厚い石の壁を出現させると同時、ダイナを壁の裏側へと引きずり込み、何とかその攻撃を防ぐ。
壁へと着弾したエクデスの風刃は破裂音と共に弾け、分厚い石壁に深い爪痕を残した。
「ばっかお前!下手に刺激してどうする!時間さえ稼げれば良いんだから!」
「ご、ごめんなさ──!」
「ッ!伏せろッ!!」
勝手な行動をするダイナに注意をしようとした、その時。
何か悪寒のような物を感じ取ったデュオスが咄嗟にダイナの頭を押さえつけて地面へと伏せさせる。
その直後、分厚い石壁を貫通してきた勅死の赤黒の光線が、つい今しがたまでダイナの頭があった位置を貫いた。
「ッ──!散れッ!固まってたら狙われるッ!」
「は、はひっ!?」
幸いマナには当たらなかったものの、明らかに壁の裏の2人を狙った一撃に危機感を覚え、彼らは一斉に壁から左右に別れて飛び出す。
あらゆる物理装甲を貫通する程の威力を持つ勅死の前では、遮蔽物に隠れて相手の姿を確認できない事はかえって危険だった。
「(考えろ……!師匠を守り切る方法を……!)」
「(ど、どうしよう……!でも僕達がやらなきゃッ……!)」
「挟み撃ちですか?良い作戦です。……まぁ、挟むだけでは意味がありませんが。」
「うおっ……!?」
弟子達はエクデスを挟むように左右へと展開する。
そうする事によって必ずどちらかは死角となり、奇襲しやすくなるからだ。
しかしそこから攻撃に転じなければそれも意味がなく、エクデスは呆れたように小さく笑いながら横薙ぎの勅死をデュオス目掛けて放つと、デュオスはそれを身体を仰け反るような形でギリギリ回避した。
「(今だっ……!)風刃!」
「──不意打ち、同時攻撃、時間差、追尾、フェイント……貴方達の師匠はお一人でも容易くやってのけましたが……弟子の方は、こんなものですか?」
「(また吸収……!)舐めるなよッ!」
「おおっと、気に触りましたか。ふふ、これは失礼を。」
向こうへと気を取られている隙を狙って、ダイナがエクデスの死角から再び風刃を放つ。
だがエクデスはそれを振り向く事も無く再び左手の遺物の力を用いて吸収、無効化してしまう。
師弟の実力差に嘲笑するような態度を見せるエクデスへ、負けじとデュオスも風刃を放つが、エクデスはそれをステップで回避した。
「(ん……!?あいつ今──?)」
「(攻撃しても全部吸収されちゃうんじゃ、どうしたら……。)」
「あなた方はお二人共、立場は違えど希少な同胞です……。」
「そこでどうでしょう?今からでも我々と共に来ませんか?」
その回避行動を見て何かに気がついた様子のデュオスは、その疑念への確証を得るべく次の行動を考える。
そんな中、余裕たっぷりなエクデスは同じ幻魔族である2人に向け、両手を広げるようにして胡散臭い笑顔を浮かべて見せた。
「……お得意の勧誘か?それが成功してる所見たことねえけどなッ!」
「(今だやれっ!)」
「!?……風刃!」
「酷い言い草です、ねっ!……私、少し傷ついてしまいます。」
皮肉交じりに再びエクデスへと攻撃を仕掛けると同時、デュオスは向かい側のダイナへと目で合図を送る。
エクデスはデュオスの放った攻撃を左手で吸収、そして少し遅れて放たれたダイナの攻撃を再びステップで回避した。
「(やっぱりか!……あいつの左手は多分、連続では攻撃を吸収できない!)」
「(だったら次は……!)事実だろッ!だいたい胡散臭いんだよお前の顔ッ!!」
左手の攻撃吸収能力についての一つの仮説を立てたデュオスは、今度はそのへんに落ちていた石を拾い上げると、思い切りエクデスへ目掛けて投げつける。
風刃などの魔術のみによる攻撃は吸収されてしまうが、そうではない物理攻撃を伴う物であれば吸収されないのでは無いかと考えての行動だ。
「おや?もう魔力切れですか?それとも自棄になってしまいましたか。」
「……もしそうだったらどうする?」
「そうですね……まぁ残念ですが、処分させて頂きます。」
「それに……動かなくなった貴方達の姿を見た彼女が、どんな反応をするか……少し楽しみでもありますから。」
投げつけた石をエクデスが左手で叩き落としたのを見たデュオスは、この方法でならば攻撃が通用する事を確証する。
とはいえ先程の城壁等を含む物理的攻撃・防御を含む魔術はその場所の環境に大きく左右されるため扱いが難しく、その上発動の兆候がわかりやすいという欠点もあって、普通に仕掛けても避けられてしまう事が多い。
「相変わらず嫌なヤツだなテメーは……。」
「(まずはあいつの動きを止める……そんでデカいのを一撃ぶち当てる!)」
「(その為には──。)」
見え透いた挑発に乗ること無く冷静に頭を回転させるデュオスは、ここからすべき事を考えながら再びダイナの方へと視線を送る。
2人で一緒に連携攻撃ができればそれが最も良いのは確かだが、これが初めての実戦となるダイナにそれを求めるのはあまりにも難しい事はデュオスも理解していた。
だからこそ、デュオスが選んだ手段は──。
「……やっぱ一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ!!歯ぁ食いしばれッ!エクデスッ!!」
「(デュオスさん……!?)」
「なんと野蛮な……ふふ、ですがそれも良いでしょう。」
突如として激昂したように拳を固め勇猛果敢にエクデスへと突っ込んで行きながらも、デュオスはダイナへ指で小さく攻撃指示を出す。
もし狙いを外せば逆にデュオスへと当たってしまいかねないような間合いに、ダイナは少し困惑しながらも言われた通りにエクデスへの攻撃を再開する。
「オラァッ!!」
「自分に注意を引き付けて、不意打ちを狙おうという事でしょうか?」
「ああ、ですが残念。彼の発動速度では不意打ちにもなりませんねぇ……。」
エクデスめがけ放たれた大振りなデュオスの拳は、容易く回避され地面を打つ。
その回避の隙を狙ったダイナの攻撃が跳んでくるが、魔力の揺らぎによってそれを事前に察知していたエクデスは三度攻撃を吸収。
それでも負けじと2人は拳と魔術による交互の攻撃を繰り返すが、どれもエクデスへは届かない。
「っはぁ……っはぁ……!」
「ふふふ、思いの外運動は苦手なご様子で……全くあたりませんねぇ?」
「くそっ!避けるんじゃ、ねぇッ!」
「おおっと危ない。」
大ぶりで空振り続きな激しい運動によって息を切らし、膝に手をついて荒い呼吸を繰り返すデュオスの様子にエクデスは苦笑する。
それでも諦めず拳を繰り出すデュオスだったが、もはやその動きにキレは無く、ついには空振ったままの反動でエクデスの足元へと倒れ込んでしまう。
「デュオスさんっ!」
「攻撃……し続けろッ!」
「はぁ、まったく諦めの悪い……何度やっても無駄ですよ。貴方の練度では、例えまともに命中したとしても──。」
倒れたデュオスを心配し駆け寄ろうとするダイナへ、デュオスは尚も攻撃を続けるように指示をする。
しかしやはりダイナの未熟な魔術は不意打ちをするには不十分で、容易く吸収されてしまうの、だが──。
「そうだろうな、俺もそう思うぜ──けど、これならどうだッ!?」
「何をッ──!?」
左手での吸収能力を使った事を確認すると同時、突如としてエクデスの足首を力強く掴んだデュオスは、そのまま彼の右脚と地面とを結びつける拘束魔術を発動。
残された僅かな体力で起き上がり後ろへと飛ぶと、そのまま地面へと拳を叩きつける。
瞬間、エクデスの両脇の地面が激しく隆起したかと思えば分厚い2枚の壁が形成され、彼を挟み込むようにそびえ立った。
「バカなッ……!いつの間にッ──!」
「クソ野郎サンド!一丁上がりィッ!!」
拘束魔術によって脚を縛られ、もはや身動きの取れないエクデスへ向け不敵な笑みを浮かべると、デュオスは高らかに指を鳴らす。
するとエクデスを挟み込んでいた2枚の壁が一斉に彼の方へと引き寄せられ、凄まじい力で押し潰した。
「はぁ……っは……小さいのの攻撃に気を取られて気が付かなかっただろ?」
「この辺りの地面の中は今、師匠が撃った魔術の残留魔力がたっぷり染み込んでるからな……。」
実はデュオスは空振りで地面を打つフリをしながら、少しずつ少しずつ地面へと自らの術式を刻んでいたのだ。
そうしてダイナによる攻撃で左手の吸収能力を消費させた直後に拘束魔術を通し、回避不能の強烈な一撃を叩き込んだのであった。
「や、やった!?凄いですデュオスさ──!」
「ッ──待て!」
「!?」
ついに強敵を倒したと喜び駆け寄ろうとするダイナを、険しい表情のデュオスが突然制止する。
空を見上げる彼のそんな視線の先にあったのは、とても信じがたい光景。
宙へと浮かぶ、片足となったエクデスの姿だ。
「はァッ……!はァ……ッ!ふ、ふふふ……!あはははッ!」
「そ、そんな……!」
「流石に冗談だろ……ッ!?」
額に手を当て狂ったように笑うエクデスは、糸目を見開いて紫の瞳を覗かせると、弟子達を真っ直ぐに見下ろす。
彼は押しつぶされる寸前、右足を自ら切断する事で拘束魔術を無力化し、ギリギリのところで脱出したのだ。
「くくっ!はははっ!その詰めの甘さ!やはり……やはり貴方達ごときでは彼女には及ばない……!」
「中々新鮮な体験ではありました……しかし、もうそれも終わりです。」
「ああ、クソ……。」
デュオスへと向けられたエクデスの指先に、勅死の赤黒い光が灯る。
先程の一撃で魔力は再び底をつき、もはや攻撃を避ける体力も残されているか怪しい状態のデュオスが、放たれたその絶望の光を見てどこか悟ったような表情を浮かべた、その時──。
「──ああ、終わりじゃ。」
「ここからはワシの手番じゃからな。」




