幕間:『ダイナの夏休み(海編)』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『おさぼりキャット』
名前:ミナ・ホロス
年齢:12
種族:半獣人
性別:女性
容姿:身長152cm 健康的な肌色 小柄ながらすらりとした体型
ふわふわ灰色ショートヘア 猫目 灰混じりの青瞳い 猫系の耳と尻尾 毛色も灰
基本的に学校では学校指定のローブに、ズボン姿で居る事が多い
備考:一人称はボク 中性的でミステリアス サボり魔
母がエルフ、父が獣人 魔術より身体動かすほうが得意 鶏肉が好物
同い年にも関わらず上級クラスに通っているというダイナに、少し思う所があるらしい。
とある一件以来、ダイナに明確な好意を寄せている。
『コミュ力おばけのギャルエルフ』
名前:サーフィ
年齢:15
種族:エルフ
性別:女性
容姿:身長162cm 金髪ショートヘア 瞳はオレンジ こんがり焼けた肌
学校では飾りつけまくりの学校指定ローブと、ミニスカを着用している事が多い。
備考:一人称はアタシ(発音的には「あーし」)
クラスに1人はいそうなギャル 先輩コンビの胸が大きい方
コミュ力が振り切れており、誰でもあだ名で呼ぶ。 動物好き。
勉学は苦手だが運動は得意。
基本的にはロマリスと一緒にいる事が多い。
ウザ絡みをしても何だかんだ相手をしてくれるロマリスの事が好き。
『静かなる黒鷹』
名前:ロマリス
種族:人間
性別:女性
容姿:身長160cm 黒髪ロングストレート 鷹のような鋭い目つき 黄色の瞳 肌は白め
学校では学校指定のローブとロングスカート、黒系の服を着用している事が多い。
備考:一人称は私
どちらかと言えば陰の側の雰囲気 先輩コンビの太腿が太い方
いつでも冷静ではっきりと物を言うタイプ ショタコンの気がある。
運動は苦手だが勉学は得意。
基本的にはサーフィと一緒にいる事が多い。
同じく寮暮らしのサーフィとは、互いの部屋を頻繁に行き来する関係。
『マナの幼馴染(姉)』
名前:ミィオ・フィード
年齢:マナの5つ上
種族:ハイエルフ
性別:女性
容姿:身長170cm 色白な肌 スレンダーな体型
ルビーのような長い赤髪 シルバーの瞳 エルフ耳 金縁ハーフリムメガネ
縦セタ黒ニット 灰色スラックス 白衣代わりの抗魔素材の白ローブ 真っ赤なハイヒール
備考:一人称はアタシ ストイックな研究者 マナと同時に入所し、現在は所長
妹であるマナに並々ならぬクソデカ感情を抱いているタイプの姉エルフ
技術者としての腕は確かだが、マナとは別の意味で倫理観が欠如している所がある。
近頃は自由なソフィエルに振り回されっぱなし。
『真実を求めるお姫様』
名前:ソフィエル・マベリスキア
年齢:見た目10代後半くらいのレディ
種族:エルフ
性別:女性
容姿:身長165cm 長い金の髪 翡翠色の瞳
綺羅びやかな銀色のクラウン ふわりとしたスカートのピンク色のドレスが特徴的 とても大きい
備考:王宮内部の協力者 好奇心旺盛なお転婆姫に見えて、その実かなり賢く強か。
王宮がひた隠しにし続けてきた真実を知りたいと願っている。
父であるリュケウス王を毒殺しようとした兄ラギルを糾弾したが、あと少しの所で上手く逃げられてしまった。
現在は父の回復の手伝いをしている。
緊張の期末試験を無事に終えて、初めての夏休みを迎える事となったダイナは、マナからの提案によって夏休みも早々に海へと遊びに行く事となった。
そこで折角だからという事で、学校の友達を幾人か呼ぶ事になったのだが──。
「……よもや、女子ばかりとはな。」
「本当ですね……1人くらいは男友達が来るかと思ってましたけど。」
やけに閑散とした白い砂浜に設置された大きなビーチパラソル。
その下にシートなどを広げ寛いでいるのは、海に似合わぬいつものローブに帽子姿のマナ。
そんな彼女の隣では、前を開けた水色のアロハシャツに灰色のサーフパンツという完全夏仕様な出で立ちのデュオスが少し狭そうに膝を抱えて座っている。
どこか遠くを眺めるような2人の視線の先には楽しそうに水遊びに興じるミナ、サーフィ、ロマリス、そしてダイナら4人の学生達の姿があった。
「ま、良いのじゃがな。あやつらも楽しそうじゃし。」
「……ところで、師匠はなんでそんな格好なんです?」
楽しげなダイナ達の様子を見て小さく笑うマナへと、デュオスは当然の疑問を投げかける。
今日の空は良く晴れて程よく風もあり海で遊ぶには絶好の日だと言うのに、それらを楽しもうとする姿勢がマナの服装からは見られないからだ。
かく言うデュオス自身も水着姿に着替えこそすれど、ここでこうしてマナの隣に座っているだけなのだが。
「ワシは別に海に入るつもりは無いからの。今日はあくまでお主らの引率じゃよ。」
「えー!何でですか!?着ましょうよ水着!そして泳ぎましょうよ!」
「ふ、残念じゃったな。端から水着など持ってきておらん。」
淡々と答えるマナに不満げに声を上げ、デュオスは期待に満ちた眼差しで彼女へと訴えかける。
しかし最初からそんなつもりは無く水着など持って来ていない彼女は、弟子の熱望を小さく鼻で笑い飛ばす。
「……とか言って師匠、本当は泳げないんじゃないですか?」
「そんな事は無いぞ!その気になればいくらでも──!」
「──だったら、見せてもらおうじゃない。」
「む……?」
疑うような目を向けてくるデュオスに、マナは少し意地になって言い返す。
そんな時、突然誰かに後ろから声をかけられたマナが思わず振り向くと、そこには夏を象徴するような赤い髪を眩く輝かせるミィオの姿があった。
しかも今回はいつもの見慣れた研究者風の姿ではなく、首元がレースのように透けたちょっと大人な深緑色の水着姿での登場だ。
「あ、ミィオさん!……と?」
「うふふ、こんにちは。」
そんなミィオの後ろからひょっこりと顔を覗かせ、楽しげに笑うのは白いつば広の帽子にサングラス、そして豊満な胸元が印象的な白く眩しいパレオ風の水着姿に身を包んだ金髪のエルフ女性。
彼女がそっとサングラスをずらすと、その奥からは見覚えのある翡翠色の瞳が現れた。
「ミィオにソフィエル、お主ら……?!」
「だってとっても楽しそうなんですもの……ねぇ?」
「……で、アタシはその同伴ってワケ。」
少し驚いたような反応を見せるマナにソフィエルは少し屈んで微笑みかける。
実は今彼女らがいるこのビーチは、マナがソフィエルから仕事の報酬の一部として借りた王宮専用のプライベートビーチだったのだ。
快く許可をくれたソフィエルではあったが、結局自分も参加したくなってしまったらしく、こうしてミィオを連れてお忍びで遊びに来てしまったらしい。
「じゃからと言ってお主のう……。」
「ふふ、もちろん私の事は秘密……そうね、ただのソフィって事にしておこうかしら。」
「そういう事だから、頼んだわよ。」
「……ああ、わかった。」
正真正銘本物のお姫様であるにも関わらずそんな軽いノリで遊びに来てしまうソフィエルに、マナは少し呆れたような反応を見せる。
もちろんそれは、今まであった彼女の兄ラギルによる監視の目が薄れている事を意味している事は確かなのだが。
そのあまりの自由っぷりにほんの少しだけ、普段から王宮で振り回されているであろうミィオの気持ちが理解できたマナは、小さくため息をついてそれを快諾した。
「それよりアンタ、何よその格好は?まったく暑苦しいったら無いわね。」
「別に良いじゃろうが……何か問題があるか?」
「はー……ダメね。ダメダメよ。なんっにもわかってないんだからこの子は!ねぇ?!」
「えっ?そ、そうですね!ダメだと思いますよ師匠!」
先程のデュオスのようにマナのローブ姿に苦言を呈し深い溜息を零したミィオからの突然の問いかけに、デュオスは雑な同調を見せる。
そんな2人からやや理不尽とも取れるダメ出しを受けたマナはと言えば、露骨に物凄く鬱陶しそうな表情を浮かべ顔をそらすばかり。
彼女には既にこの先の展開がなんとなく予想できていたからだ。
「というわけで、はい。着なさい、アンタの水着よ。サイズはぴったりだから心配しなくていいわ。」
「……チッ。」
「(舌打ちした!?……でも正直言って、見たい!師匠の水着姿……っ!)」
こんな事もあろうかと言うようにミィオの鞄から取り出された袋を横目に見て、マナは凄く嫌そうな反応を見せる。
それでもぐいぐいと袋を押し付けてくるミィオと期待の眼差しを向けてくるデュオスをガン無視し続けていると、突然ソフィエルが口を開いた。
「折角の海なんですもの、楽しまなきゃ。ね?」
「はぁ……しょうがないのう。」
結局はこのビーチの持ち主たるソフィエルの意見を無下にする事は出来ないと考えて、マナはしぶしぶ水着の着用を受け入れた。
そうしてビーチに併設された着替え用の小屋へと向かい、ミィオの用意した水着へと着替えるマナだったのだが──。
少々の時間を置いて着替え終えたらしいマナが戻って来るが、その姿は何故かローブ姿のまま。
しかし中身はちゃんと着替えたようで、華奢な白い手足がローブの隙間からちらりと見え隠れしている。
「……師匠?どうしたんです?」
「着るには着たが……これは……。」
何故か身体を隠すようにローブの前を閉じ握りしめているマナに、デュオスが不思議そうに首を傾げる。
その珍しく恥じらうような反応を見せる彼女に、一体どんな破廉恥な水着を着せられたのかとデュオスが一瞬邪心しかない事を想像しかけた、その時。
一瞬の隙をついたミィオが無理やりにマナのローブをめくり上げて、その待望の水着姿を白日の下へと曝け出した。
「貴様ッ……!?」
「……きゃ~~!!可愛すぎよ~~!!やっぱりアンタ、フリフリが似合うじゃない!アタシの目に狂いは無かったわっ!」
「あらあら、うふふ。妖精さんみたいね?」
咄嗟に前を押さえて隠そうとするマナだったが、2人の身長差の前ではそれはもはや無意味な事だ。
それは水着と言うには何とも愛らしくファンシーで、上下の繋がったワンピースタイプな薄ピンク色の水着。
肩周りや腰周りへリボンとフリルたっぷりな少女趣味全開のデザインはまるで、水着というよりは一種のドレスのようでもあった。
「っ……!(想像してたのとは全然違うけど、これはこれで……!)」
「そ、そんなにじっと見るなっ!たわけっ!変態っ!」
「ぐぇっ!?」
何やらデュオスが食い入るような熱い視線を向けてきている事に気がついた瞬間、恥ずかしさが倍増してしまったのか、マナはその小さな素足で思い切り彼の無防備な腹部へと容赦のない一撃を入れた。
「別に良いじゃない、減るもんじゃあるまいし……。」
「ワシの精神がすり減るんじゃよッ!」
他人事のように言いながらも同じく彼女の水着姿をがっつりと視姦していたミィオにマナが吠えていると、突然ソフィエルが何かを思いついたように手を叩く。
「そうだわ!私、ビーチに来たら一度やってみたい事があったの!協力してくれるかしら……?」
「む?やってみたい事、とな……?」
ソフィエルからのそんな提案からしばらく後、浜辺にはぽつんと配置された黄色い南瓜が一つ。
そしてそこから少し離れた場所に立つのは目を布で覆い隠し、手には長い木の棒を持ったソフィエル。
彼女のやりたい事、それはスイカ割り──もとい南瓜割りであった。
「ソフィちゃみふぁいとー!」
「頑張ってくださいソフィさーん!」
「私、行くわ……!指示をお願い……!」
呼び戻された学生達との挨拶もそこそこに、ソフィエルは早速念願の夏らしい遊びへと興じる。
当然彼女の正体は学生達には隠しており、ここではただのソフィという事になっている。
横から応援を飛ばすのはコミュ力お化けのサーフィと、それに少し憧れるダイナの2人。
「もう少し角度を右へ……そう、そのまま前よ。」
「あと10歩くらい前ですよ!」
「10歩……このあたりかしら?」
ロマリスやデュオスからの指示を受けながらも、どこか気品溢れる足運びで移動したソフィエルは、当たりをつけて静かに木の棒を振り上げる。
「そこじゃ!思い切り振り下ろせ!」
「姫……じゃないソフィ!気をつけてね!」
「……えいっ!!」
何だかんだ言って結構乗り気なマナと、怪我でもしないかと気が気でないミィオの声援を受けながら、ソフィエルは思い切り木の棒を振り下ろす。
結果、棒に伝わってくるのは確かな手応え。
「どうかし、ら……?まぁ!割れているわ!」
「すごいにゃー。真っ二つだ。」
恐る恐る目隠しをずらし、成否を確認するソフィエルの前に現れたのは、見事に破壊された南瓜の姿。
嬉しさのあまりに彼女がその場で小さく跳ねれば、無いはずの2つのスイカが大きく揺れた。
その後デュオスに勧められて同じく南瓜割りに挑戦したマナだったが、弟子2人の完璧な誘導も虚しく、そもそもの筋力が足りず南瓜に弾き返されるという結果に終わったのであった。
◆
あれから少し時間が経った、昼過ぎ頃。
昼食として焼肉奉行ならぬバーベキュー奉行と化したデュオス主導の楽しいバーベキューを楽しんだ面々は、食後のまったりタイムへと入っていた。
南瓜割りに失敗した腹いせとして南瓜を風刃でバラバラにした責任を取らされ、大量の焼き南瓜を食べさせられまくったマナは既に満腹で一足先にダウン中。
デュオスはそんなマナを介抱しながらバーベキューの後片付けを進めている。
後はそれぞれ自然と2人組を作るような形で別れており、かなり自由な空間だ。
「ってかさぁロマリス、それちょっと黒過ぎじゃねー?」
「そうかしら?そういう貴女はちょっと柄が派手すぎない?」
並んで置かれた2つのビーチチェアに寝転びながら、金髪のサーフィが隣でキーホールタイプの黒い水着に身を包んでいるロマリスへと問いかける。
するとサングラスまで着用してほぼ全身黒一色な黒髪のロマリスは、サングラスを外してサーフィの南国花柄のド派手な赤のバンドゥビキニへとちらりと目を向け、言い返す。
服のセンスも性格も全く噛み合わない2人ではあるが、その視線は先程から自然とある方向へと向けられていた。
「……。」
「……。」
2人の視線の先に居たのは、楽しそうに談笑しているソフィエルとミィオら大人の女性達の姿。
彼女ら若い学生たちから見れば、2人のそれぞれ異なった美しさを持つ水着姿は、より魅惑的で憧れを抱くには十分な存在感を放っていたのだ。
「ま、アタシらが何着てもアレには勝てねーっしょ。」
「それはそうね……。」
ただの貴族の娘とは思えないようなやけに高貴なオーラを醸し出すソフィエルの美しい水着姿と、その大胆にも曝け出された豊満な胸元を見て、決して小さいわけではない彼女らは何か大きな敗北感のような物を覚えていた。
そんなどこか哀愁さえ漂う2人はしばしの無言を挟んだ後、現実から目を背けるように2人揃ってサングラスをかけ、青い空を見上げたのだった。
一方その頃、もっと若い学生達は──。
「ふー、バーベキューなかなか美味しかったね?飛び級くん。」
「そうですね……あんな風に大人数で食べたのは僕、初めてです。」
腹ごなしの運動にとミナに散歩に誘われたダイナは、2人仲良く浜辺を素足で歩いている。
ミナはホルターネックタイプの青いビキニ姿で、その隣を歩くダイナはオレンジ色のサーフパンツ姿だ。
満足気にお腹をさするミナを見て、あれだけ食べれば当然とでも言いたげにダイナが苦笑いを浮かべる。
次々とデュオスによって皿へと追加される焼けた肉やら野菜やらを必死に食べていたダイナに比べ、ミナは特に苦でもないようにぺろりと平らげていたからだ。
「うんうん。いやぁ、良いよね海……しかも貸し切りなんてさ。ソフィって人には感謝しなくっちゃね?」
「師匠の知り合いの人らしいですけど……なんていうか、凄そうな人でしたね。」
ソフィエルの素性を知らされていない学生達から見ればその正体はあまりにも謎なのだが、やはりその全身から滲み出る高貴さのような物は感じ取れてしまうらしい。
一応今回このビーチを貸し切りにできたのは、彼女のおかげという事になっている。
「だよねー、胸もすっごいおっきいしさー。」
「ですね……え?」
同じような調子でミナの意見に同調した後でダイナは一瞬違和感を覚え、ふと彼女の方を見る。
するとそこには、にまにまとした意地の悪い笑みを浮かべる彼女の姿があった。
「やっぱり飛び級くんも見てたんだー?あの人の胸。」
「えっ!あ、いや!ち、違いますっ!今のは言葉のあやというかっ!?」
まんまと罠に引っかかってしまったダイナは慌てて手を前にばたつかせながら必死に否定するが、時すでに遅し。
完全にからかいモードへと入ってしまったミナには、もはや何を言っても通じない。
「良いんだよ隠さなくてもー?ボクだって思わず見ちゃうくらい大きかったもん。」
「……ボクもあれくらいあればなぁ。」
じゃれ合うようにダイナの腕にくっついては楽しげに笑うミナだったが、彼女なりに自分のスレンダーな体型に悩んでいないわけでも無いらしく、自らの両胸にそっと手を当てればそんな事をぽそりと呟く。
それを聞いたダイナは少し驚いたような顔をして、ふと足を止めた。
「ん?どうしたの飛び級くん──?」
「大丈夫ですよッ!ミナさんはそのままでも十分素敵だと思いますっ!」
「ッ──!?」
不意に立ち止まったダイナを不思議に思いミナが振り向いた瞬間、ダイナはミナの手をしっかりと握ってまっすぐ真剣な目で見つめながら叫ぶように言い放つ。
もちろんそれはダイナの善性から来る100%嘘のない励ましの言葉なのだが、無自覚でやっているのだから性質が悪い。
しかしその無自覚な言葉の刃はあまりに切れ味が鋭く、1人の少女の情緒を破壊するには十分な業物であった。
「今日のその水着も凄く似合ってて!とっても──むぐっ!?」
追撃とばかりに褒め殺そうとするダイナの口を、ミナは咄嗟に手で塞ぐ。
これ以上言葉を重ねられたら耐えきれる気がしなかったからだ。
「……キミさぁ……、……やっぱ何でもない。それよりほら、もうちょっと泳ごっ?」
「は、はい……!泳ぎましょうっ!」
何か言いたげに口走りかけたのをやめると、ミナは誤魔化すようにダイナの手を引いて海の方へと駆け出す。
心地よい冷たさの海水が、少し火照った彼女の顔を気持ちよく冷やしてくれる。
海に来るのはもちろん泳ぐのも初めてだったダイナは、実は朝から少しだけミナに泳ぎ方を習っていたのだ。
元々飲み込みの早いおかげか、それともミナが手取り足取り尻尾取り教えたおかげか、ダイナはすぐに普通に泳げるくらいにはなっていた。
「気持ちいいね……。このまま寝ちゃいそう。」
「気持ちはわかりますけど……流されちゃいますよ?」
「それは困るなぁ……。」
波に揺られる心地よさと温かな日差し、そして満腹感から来る眠気を感じながらも、2人は手を繋いだままぷかぷかと水面に浮かぶ。
やがて本当に微睡み始めてしまった所で、波に揺られた2人の身体がぶつかり目を覚ましたミナは突然身体を起こした。
「……ねぇ飛び級くん。あそこの岩まで泳ぎで競争しない?」
「えっ?競争って……そんなの僕、絶対勝てませんよ……?」
「ハンデあげるから!ねっ?」
「そこまで言うなら……1回だけ。」
突然少し沖の岩を指差したミナがそんな提案を持ちかけると、ダイナは弱気ながらも渋々勝負を受け入れる事にする。
そうして2人の実力差を埋めるハンデとして、ミナはダイナが泳ぎ始めてから30秒後に出発する事に決定。
砂浜にスタートラインを引き、2人は位置につく。
「それじゃあよーい、どんっ!」
「行きますっ!(流石に30秒もあったら……!)」
想定していたよりも随分大きなハンデを設けられ負けず嫌いな部分に火がついたダイナは、静かな闘志を燃やしながら勢いよく駆け出し海へと飛び込んでいく。
最初はミナに習ったとおりに順調な泳ぎだしかのように思われたが、すぐに押し戻す波によって進行を阻まれ思うようには進めなくなってしまう。
そうこうしている間にハンデの30秒が経過してしまい、続いてミナが海へと飛び込んだ。
「おっさき~!」
「(は、早っ……!?)」
波に四苦八苦するダイナへと手を降る余裕まで見せながら、ミナはあっと言う間に彼を抜き去り先へ行く。
泳ぎを教えてもらう時にダイナが見せてもらった彼女の泳ぎは、本当の実力の10分の1も出していなかったのだ。
それでも負けじと必死に手足を動かし、ダイナは岩を目指して懸命に泳ぎ続ける。
「……っふう。ボクの勝ち!飛び級く──ん?」
華麗に岩へと手をついて勝利宣言をしながらミナがダイナの方を振り返る。
しかしそこに先程まで彼女のだいぶ後ろを泳いでいた筈の彼の姿は無く、揺れる水面が日光を眩く反射しているだけだ。
「まさか──ッ!」
瞬間、彼女は状況を理解すると同時にゴールの岩をも軽く砕く程の脚力で再び水中へと飛び込むと、すぐに沈み行くダイナの姿を発見。
即座に接近し捕まえると、急ぎ水面から顔を出させた。
「わっぷ!?わ、あっ!?足がっ!?」
「落ち着いて飛び級くんっ!?大丈夫だからッ!」
何とか助け出したものの未だパニック状態にあるらしいダイナは激しく暴れ、ミナの言葉も届かない。
かといってこのままの状態のダイナを連れて浜辺まで泳ぐには、いかに泳ぎが得意な彼女と言えど危険だ。
そこで彼女はダイナを落ち着かせるため、咄嗟にとある方法を閃いた。
「飛び級くん──っ!!」
「むぐッ──!?!?!?」
その方法とは、自らの唇と彼の唇を重ね合わせる事、つまりはキスである。
当然そんな事をされれば如何にパニック状態であるダイナと言えど、突然キスをされた事への驚きの方が勝ってしまうという物で、彼女の狙い通りに一瞬にして彼は沈静化する。
そうして大人しくなったダイナを連れ、ミナは素早く浜辺へと泳ぎ戻るのであった。
「げほっ……!げほ……!」
「──ダイナ!大丈夫かっ!?」
浜辺へと戻るなり倒れ込むように砂浜へと手をついて咳き込むダイナの元へ、異変を察知したマナが咄嗟に駆け寄ってくる。
その直ぐ側では申し訳無さそうな顔をしたミナが、献身的にダイナの背中を擦っていた。
「だ、大丈夫です師匠……ちょっと、水を飲んじゃっただけです。」
「ごめんね……ボクが勝負しようなんて言ったから……。」
「っ違います!ミナさんのせいじゃありませんっ!」
「その……ミナさんに追いつこうと思ってちょっと無理に身体に力を入れたら、足が攣っちゃって──?」
マナへと無事を伝えながらも、後ろから聞こえてきたミナの今にも泣いてしまいそうな声に獣耳をピクリと反応させ、ダイナは咄嗟に否定する。
溺れかけてしまったのはミナの責任ではなく自らの力量も考えずに無茶をしようとした結果なのだ、と少し気不味そうに笑いながらダイナが振り向いた、その瞬間。
ダイナはその衝撃的な光景に、再び硬直する。
「ミ、ミミ、ミナさん……!?その、あの……水着はッ……!」
「……え?あっ……!」
咄嗟に目を逸らしながら彼女の方を指させば、そこにはいつのまにか上の水着を失くし、あられもない格好となったミナの姿があった。
指摘されて初めて自分が何も着けていない事に気がついたらしいミナは咄嗟に両腕で胸を隠し、少し恥ずかしそうに俯いてダイナに背を向ける。
どうやら先程暴れるダイナを抑えようとした時に彼の手が水着にひっかかり外れ、そのままどこかへ流されてしまったようだ。
「ぼ、僕何も見てませんから!安心して──じゃなくて、えとっ……!ごめんなさいっ!!すぐ戻ります!」
何に対しての謝罪なのかもわからないままに駆け出したダイナは、そのまま自分の荷物の所へと急ぐと着替えの中からシャツを1枚取り出して戻って来る。
そしてそのシャツをなるべくミナの方を見ないようにしながら、そっと彼女へ差し出すのだった。
◆
すっかり日も傾いて、水平線の空と海との境目もわからなくなりそうな頃。
1日たっぷりと海での水遊びを満喫した面々は、最後にもう1つだけ思い出づくりをしようとその準備に勤しんでいた。
そんな中、ダイナと2人仲良くシートに座りながらも、未だ着替えず彼のシャツを着たままのミナは──。
「……ねぇ飛び級くん。」
「はい?何ですかミナさん?」
何やらせかせかと動き指示を飛ばしている師匠を遠目に眺めていたダイナが、ミナの呼びかけに反応して彼女の方を振り向く。
すると彼女はどこか甘えるようにそっとダイナの方へと身体を預けると、おもむろにその細長い尻尾を彼の尻尾へと絡みつけ始めた。
「今日は……ごめんね。それとシャツ、ありがとう。」
「いえ……!こちらこそ助けて頂きありがとうございました……!」
ぽそりぽそりと謝罪と感謝の言葉を伝えるミナに、ダイナは慌てて頭を下げ返す。
もしあの時彼女に助けられていなかったら、本当にどうなっていた事か。
ダイナはすっかり暗くなった静かな海を横目に見ながら、少し怖い想像をする。
「それで、えっと……、……ボクからキミに、1つ伝えたい事があって……。」
「伝えたい事、ですか……?」
両膝を抱えながらもどこか真剣な表情でそんな事を切り出したミナの言葉に、ダイナは小さく首をかしげながらも真剣に獣耳を傾ける。
しかしこの時既にミナの心拍数は緊張によって限界にまで高まっていて、もはや周りの声や音など聞こえては居なかった。
「実は……ボクっ!キミと──!」
「──わっ!?」
そして勇気を振り絞り、ミナがついにダイナへの想いを口にしようとした、まさにその時。
突然の爆音と共に夜空へとまばゆい閃光が花開き、色とりどりの光が辺りを照らし出した。
それはマナ達が子供たちの為にと計画した、魔術を用いた花火大会の始まりを告げる合図だ。
奇しくもそれによって彼女の声はかき消されるような形で途絶え、光に気を取られてしまったダイナには届かない。
「びっくりした……でも凄いですね!あれが花火……!」
「……あ、ミナさん、それで何でした?伝えたい事って。」
「っ……ううん、やっぱり何でもないよ。」
一世一代の勇気を出した告白を、思わぬ形で妨害されてしまった彼女にもう一度この場で気持ちを伝えるような元気は残っておらず、誤魔化すように首を横に振るとそのまま頭を押し付けるようにダイナへと擦り付ける。
「そうですか……?あ、そうだ。もしよかったらなんですけど……今度、家で一緒に夏休みの宿題やりませんか?」
「ん……宿題?……、……いいよ。」
「やった!」
臆病すぎる自らの性格に少しだけ嫌気がさして反省モードに入ろうとしていた所へ、ダイナからの思わぬ提案を受けたミナは、少しだけ考えるとそれを新たなチャンスと捉えて快諾する。
そうして花火を見上げる嬉しそうなダイナの横顔を、じっと見つめながらミナは静かに微笑んで、夏という思い出の味を強く噛みしめるのであった。




