第35話『はたらくメイド』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『真実を求めるお姫様』
名前:ソフィエル・マベリスキア
年齢:見た目10代後半くらいのレディ
種族:エルフ
性別:女性
容姿:身長165cm 長い金の髪 翡翠色の瞳
綺羅びやかな銀色のクラウン ふわりとしたスカートのピンク色のドレスが特徴的 とても大きい
備考:王宮内部の協力者 好奇心旺盛なお転婆姫に見えて、その実かなり賢く強か。
王宮がひた隠しにし続けてきた真実を知りたいと願っている他、国王である父が病床から抜け出せないのは、兄ラギルの策謀による物ではないかと疑っている。
『国王暗殺を企てる王子』
名前:ラギル・マベリスキア
年齢:20代くらいの見た目 妹とは結構離れてる
種族:エルフ
性別:男性
容姿:身長180cm 金髪 翡翠色の瞳 すらりとした体型
髪を後ろへまとめて前髪を片側だけ垂らしたような髪型 外面は良い
権威を主張するようなギラギラとした装飾派手めの白スーツが特徴
備考:策謀家にして危険な野心家
次期国王に選ばれる事は確実という立場ながら、いくつもの黒い繋がりを持つ。
妹であるソフィエルに疑われている事には気づいており、王宮内では彼女への監視の目を光らせる。
傲慢かつ小心者であり、エルフ以外の種族を心の中では見下している。
マナがソフィエルに件の薬の解析結果を届けてから数日後、再び王宮へと呼び出された彼女は現在、メイド服に身を包んでいた。
というのもラギルによるリュケウス王暗殺計画を裏付ける証拠が出揃ったらしく、いよいよ今日彼に対する糾弾が行われるというのだ。
そしてマナはそれを主導するソフィエルのサポート役として、メイド達に紛れるような形で王宮に潜入していた。
「父上、本日のお薬をお持ちしました。」
「ああ……ゴホッ!ゴホ……ラギル、入れ。」
「失礼します。」
例の薬が入った薬包紙を懐に忍ばせたラギルが、リュケウス王の寝室の扉を叩く。
すると中から聞こえてきたのは確かめるまでもなく体調が優れない様子の、リュケウスの声。
ラギルはいつも通り側近に部屋の前で待機をするように手で指示すると、1人で王の寝室へと入っていく。
「ご加減は如何ですかな。」
「ゴホッ……見ての通り相変わらずだ。……すまない、お前には苦労をかける。」
辛そうな呼吸を繰り返しながら大きなベッドにひとり横たわっているのは、かつての覇気など見る影も無いほどに衰え、髪は色が抜け落ち白く、手足も枯れ枝のようにやせ細ったリュケウス王の姿。
彼は咳き込みながらもなんとか自分で上体を起こせば、近づいてくるラギルに弱々しく謝罪をした。
「何をおっしゃいます父上!子が親を思うのは当たり前の事です!……さ、お薬をどうぞ。」
「ああ……いつも助かる。」
白々しく言い切るラギルは水瓶から一杯の水をコップに注ぐと薬包紙を開封し、中の灰色の粉薬と共にリュケウスへと差し出す。
そしてリュケウスがいつものようにその薬を飲もうと水を少し口に含んだ、その時。
「こ、困ります姫様!今は殿下が──!」
「お父様!お待ちになってください!」
部屋の外から何か騒がしい声が聞こえたかと思えば、ソフィエルがラギルの側近の制止を振り切って強引に部屋へと飛び込んでくる。
その突然の出来事にリュケウスもラギルも驚いた顔をして、リュケウスは含んでいた水を飲み込んだ。
「……何事だ、ソフィエル!今は父上に──!」
「お父様、その薬をこちらへ!その薬は毒にございます!」
「ッ!何を馬鹿なことを言うのだ!血迷ったかソフィエル!」
ずかずかと勇み足でベッドへと近づいてきたソフィエルが、薬をリュケウスの手から無理やりにでも奪い取ろうとするのを、ラギルは彼女の手首を掴んで咄嗟に阻む。
部屋の外からは幾人かの使用人達がその騒ぎを困惑気味な様子で覗いているが、その中にはメイドに扮したマナの姿もあった。
「ゴホッ……まぁ落ち着きなさい2人とも。……それで?どういう事か説明しなさい、ソフィエル。」
「はい、お父様!実は──!」
流石は王とも言うべき落ち着いた様子で2人を宥めると、リュケウスはソフィエルへと問いかけた。
するとソフィエルはラギルに掴まれた手を振り払い、毅然とした態度で説明し始める。
まず始めにラギルがリュケウスに無断で国庫の資金を使い、怪しい相手との取引を行っていた事。
資金提供の見返りとして、薬と称した毒薬と新たな兵器開発の為の技術提供を受けていた事。
そしてその相手というのが実は古に絶滅したはずの幻魔族である事を彼女は包み隠さず伝えた。
「ほう……。」
「っ……で、デタラメを言うなソフィエル!そんな事があるわけがッ!ならば証拠は!?証拠はあるのだろうなッ!」
「……ええ。もちろんですわお兄様。」
静かにソフィエルの話を聞くリュケウスの隣で、どんどん顔色が悪くなり濃い焦りの色を見せつつも尚も強気な態度を貫かんとするラギルは、彼女に証拠を要求する。
だがラギルがそう来ることは当然ソフィエルも想定済みの事であり、彼女は静かに手を上げて合図した。
「ちょいと失礼する。……姫様、こちらを。」
「ありがとう。……お父様、こちらがその証拠です。」
合図を見てそそくさと入室してきたのは、やけに小さなメイド──もとい、メイドに紛れていたマナだ。
その手には薬の調査結果をまとめたレポートと、ラギルが兵器開発に用いていた設計図等が握られている。
ソフィエルは彼女からそれらの証拠品を受け取ると、1つずつリュケウスの前へと並べ始めた。
「ふむ……?……なるほど、魔力を……?」
「だ、騙されてはいけません父上!こんな物──うぐぁっ!?」
老眼鏡をかけたリュケウスがじっくりと書類に目を通し始めると、いよいよもって焦りを隠しきれなくなった様子のラギルがそれを破り捨てようと手を伸ばす。
しかしその瞬間、後ろ手で指を鳴らしたマナの拘束魔術によってラギルは捕らえられ、一瞬にして床へと縫い付けられる。
「誰だ!?こんな事許されて良いはずがッ……!違う!私ではない!」
「……お兄様。」
喚き続けるラギルにソフィエルは少し憐れむような目を向けると、おもむろに袖から調査に用いた薬包紙を取り出して、リュケウスへと見せる。
「こちらが今回、調査に使用した薬になります。」
「……この薬と先ほどお兄様がお父様へ飲ませようとした薬を比較すれば、答えは出る筈ですわ。」
「馬鹿な!そんなわけ……ッ!陰謀だ!ソフィエルが私をハメようとしているッ!」
「……そうだ!薬をすり替えられたんだ!そうに違いないッ!」
尚も容疑を否認し続ける見苦しいラギルの姿に、後は見ているだけのつもりだったマナが小さく息を零し、何やら動き出す。
「っ!?待て!何をする!?それに触るなッ!!おいッ女!!やめろ!!」
マナはラギルにすっと近づくと彼の右手から指輪を1つ抜き取り、自らの指へと装着した。
それはデュオスからの報告にあった、小さな異空間を内包した指輪型の遺物だ。
「確か……こうか?」
報告の内容を頼りに指輪をつけた手で拳を握って前へと突き出すと、そのままドアノブを捻るように手首を回す。
瞬間、マナの前に現れたのはおよそリンゴ1つ分程のサイズの小さな穴。
そこへ躊躇なく手を突っ込み中で何かを掴めば、彼女はそれをそのままソフィエルの方へと差し出した。
「……お父様、こちらも合わせてお調べになってください。」
ばらばらとソフィエルの手に落とされたのは、幾つもの薬包紙。
ラギルが肌見放さず、大事に指輪の中に隠し持っていた予備の毒薬だ。
もはや決定的とも言える証拠の提示に、リュケウスはどこか悲しげな表情で深い溜め息を零すと、静かに手を上げた。
「ゴホッ……ラギルを牢へ。詳しい取り調べを行う。」
「ま、待ってください父上!誤解です!わたっ私はぁッ!!」
リュケウスの一声によって寝室を警備していた衛兵達がすぐにやって来て、そのままラギルを連行していく。
そうして抵抗し暴れるラギルの喚き声が王宮へと響き渡る中、この騒動は一旦落ち着きを見せるのであった。
◆◆◆
ラギルの糾弾から少しして、魔技研の所長室へと戻ってきたマナだったのだが──。
「……おい、貴様。」
「きゃ~!可愛いわ!何なのアンタ!?似合いすぎよ~!まるでお手伝い妖精みたいね!」
今にも爆発しそうな程に目元をピクつかせているマナの周囲を、黄色い悲鳴を上げながら四方八方から舐め回すように観察しているのは、魔技研所長にしてマナの姉であるミィオその人だ。
マナはメイドに扮するに際して一旦ここで着替えをしていた為、預けておいたいつもの服に着替えようと戻ってきたのだが、あろう事か彼女の服を何故か魔導人形のフィオニーツァが着用していたのであった。
「はい、フィオも御主人様の意見に賛同しマス。」
「──脱げ!ポンコツ貴様!今すぐワシの服を返せッ!!」
「ええー?いいじゃないもう少しくらい。アンタ、全然フリフリのついた服なんて着ないんだから……。」
普段のマナの服を着用した彼女そっくりの見た目のフィオ、というもはや何が何だかわからないような混沌とした状態に、ついにマナの怒りが爆発する。
潜入のために仕方なく着用したが本人としては落ち着かないようで、一刻も早く着替えたいようだ。
「フリフリが好きならそのポンコツにでも着せておればいいじゃろ!というか何故ワシの服を其奴に着せた!?」
「似合うかなーって思って。でも、案の定サイズぴったりだったわ~。アンタ、200年経っても全然成長してないのね~。」
勝手に服を使われた怒りをぶつけるマナに対し、ミィオは軽口のつもりでそんな事を口走る。
だが彼女のその不用意な発言が、マナの逆鱗に触れた。
「……確かに見た目は変わっとらんかもしれん。」
「──じゃが、性格も昔と同じ心優しいワシじゃと思うなよ?」
いつかのように強い殺意を込めた魔力を練り上げ始めたマナに、危険を察知したフィオが反応して御主人様を庇うように前に立つ。
「急激な魔力の上昇を検知。危険域、敵対意思を確認しまシタ。」
「下がってください、御主人様。」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
メイド服姿のマナと、マナみたいな格好のフィオという前にも増して奇妙な一触即発の構図に、ミィオが慌てて止めに入ろうとした、その時。
「──大変よッ!」
「む!?」
「姫様っ!?」
勢いよく扉を開けてかなり慌てた様子で所長室へと飛び込んできたのは、少し息を切らしたソフィエル。
彼女はラギルが連行された後、その取り調べに協力する形でどこかへ行っていた筈だったのだが、どうやら何か緊急事態が発生したようだ。
「取調べ中に真犯人を名乗る人が現れて、お兄様の無罪を主張し始めたの!」
「なぬ!?」
「ど、どういう事……!?」
突然もたらされた予期せぬ重大発表に、所長室は一気に混乱の渦に呑み込まれる。
どうやら取り調べに対し黙秘を貫いていたラギルの所に、王家と親交の深い貴族の一人であるレミノフ伯爵が現れ、全ては自分がやった事なのだと供述し始めたようだ。
さらにそれを待っていたとばかりにラギルはそのレミノフの自供に便乗して自らの冤罪を主張し始めた為、再調査が終わるまでは一時処分は保留となり、既に地下牢から自室での軟禁へと場所を移していた。
「……彼奴の差し金と考えてまず間違いないじゃろう。」
「やはりあったのじゃな、資金提供者として以外にラギルへとわざわざ協力する理由が……!」
マナの睨んだ通り、レミノフの突然の自首はエクデスが仕込んだ精神操作の魔術による物だ。
以前にラギルも参加していた秘密の会食において、エクデスが参加者らに配っていた装飾品類には実はそういった精神操作の魔術が込められており、今回の偽りの真犯人の自首もその影響による物だった。
つまりエクデスにはそうまでしてでも、ラギルに失脚されては困る理由があるという事に他ならない。
「何よその理由って……?!」
「恐らくは──仲間の幻魔族をスムーズに招き入れる為の、傀儡の王に仕立て上げるつもりなのじゃろう。」
「そんな!?だったらお兄様は最初から利用されて……。」
生まれ持っての野心家であったラギルの野望は果てしなく、大陸全ての国を自らの手中へと収めるべくして、予てより他国への進軍とその支配を夢見ていた。
しかし父リュケウス王が健在である限りは、未だ王子という立場でしか無い彼には自由に軍を動かす権限は無い。
そんなラギルの野心へと目をつけたのが、1人先んじてマベリスキアへと潜伏していたエクデスであり、此度の国王暗殺未遂も彼による教唆の結果だったのだ。
「どうしましょう……放っておけばお兄様はまたお父様の命を狙いにくるかもしれませんわ。」
「確かにの……じゃがまぁ、この騒動の後じゃ。彼奴も再び疑いを向けられるような迂闊な行動は取るまい。」
「次に何か行動を起こすとしたら、真の黒幕との接触じゃろう。それまでは、しばし泳がせておくのが良いじゃろうな……。」
かくしてラギルによるリュケウス王暗殺計画は失敗に終わった。
だが当のラギル本人はエクデスからの助け舟によって難を逃れる形となり、その動きを完全に封じるまでには至っていない。
それでもきっと近い内にまた、ラギルはエクデスとの接触を図るだろう。
そしてそれこそが、マナ達師弟とソフィエルにとっての最終決戦の舞台となる。
だからそれまで彼女達には、束の間の平穏と休息を。




