第32話『暴かれた真相(後編)』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『マナの幼馴染(姉)』
名前:ミィオ・フィード
年齢:マナの5つ上
種族:ハイエルフ
性別:女性
容姿:身長170cm 色白な肌 スレンダーな体型
ルビーのような長い赤髪 シルバーの瞳 エルフ耳 金縁ハーフリムメガネ
縦セタ黒ニット 灰色スラックス 白衣代わりの抗魔素材の白ローブ 真っ赤なハイヒール
備考:一人称はアタシ ストイックな研究者 マナと同時に入所し、現在は所長
妹であるマナに並々ならぬクソデカ感情を抱いているタイプの姉エルフ
技術者としての腕は確かだが、マナとは別の意味で倫理観が欠如している所がある。
『真実を求めるお姫様』
名前:ソフィエル・マベリスキア
年齢:見た目10代後半くらいのレディ
種族:エルフ
性別:女性
容姿:身長165cm 長い金の髪 翡翠色の瞳
綺羅びやかな銀色のクラウン ふわりとしたスカートのピンク色のドレスが特徴的 とても大きい
備考:王宮内部の協力者 好奇心旺盛なお転婆姫に見えて、その実かなり賢く強か。
王宮がひた隠しにし続けてきた真実を知りたいと願っている。
『おさぼりキャット』
名前:ミナ・ホロス
年齢:12
種族:半獣人
性別:女性
容姿:身長152cm 健康的な肌色 小柄ながらすらりとした体型
ふわふわ灰色ショートヘア 猫目 灰混じりの青瞳い 猫系の耳と尻尾 毛色も灰
基本的に学校では学校指定のローブに、ズボン姿で居る事が多い
備考:一人称はボク 中性的でミステリアス サボり魔
母がエルフ、父が獣人 魔術より身体動かすほうが得意 鶏肉が好物
同い年にも関わらず上級クラスに通っているというダイナに、少し思う所があるらしい。
とある一件以来、明確にダイナに好意を寄せている。
ミィオによる所内調査の結果、何名かの職員が秘密裏にラギル王子に半ば強引に従わされるような形で謎の新型兵器開発に協力させられていた事が判明した。
そしてマナはその新兵器に使われているパーツの1つが、先日ソフィエルに貰った円盤型の遺物に装着されていた物と共通した規格である事に気が付き、試しに石を交換してみる。
その結果、以前見た時は酷くノイズ混じりだった円盤の記録映像が、今度は音声付きではっきりと再生され始めたのであった。
「『──あの者達が謀反を起こしましました……集落は既に焼かれ、ここもすぐに……ゲホッ!ゲホ……!』」
「謀反、じゃと……?」
記録映像を頭からもう一度再生し始めたマナ達4人が、空中へと投影された映像の中の女性の声に耳を傾けると、今度はしっかりとマナ達にも理解できる言葉で耳へと入ってくる。
女性は酷く咳き込み体調が優れない様子で、その頭部の片方の角はまるでへし折られたように無くなっていた。
「『彼らは何か、強力な毒を使って……ゴホッ!っ……ですが子供たちは、既に遠く離れた地へと逃がしました……。』」
「(毒……やっぱりあったのね。)」
息も絶え絶えという状態の女性の言葉に、ソフィエルは昔に父リュケウスから聞いた話が真実であった事を確信すると同時、悔しさを滲ませるような苦悶の表情を浮かべる。
この円盤に封じられていた記録の内容をリュケウス王が知っていたという事は、恐らくその話が代々王家の一部の人間にだけ語り継がれてきた、王宮の暗部だと考えられるからだ。
「『っは……はぁーっ……!もし……この記録を見た同胞が居たなら、子供……たち、を……ッ!』」
「っ……!」
三度酷く咳き込んだ女性が眼や鼻口から大量の赤い液体を流し、やがて映像からフレームアウトする。
その女性の衝撃的な姿に、ミィオは思わず目を瞑り軽く顔を背ける。
直後、革の鎧に身を包んだエルフの男が乱入してきて──。
「『ここにも居たか、悪魔の獣めッ!……はぁッ……はぁ……!どうだ見たかッ!……ん?何だ、これは……?』」
エルフの男は声を上げ地面へ向けて剣を振るい、赤い飛沫で身体を汚した後、その翡翠色の瞳で円盤を覗き込む。
そうして前回と同じように映像が途切れ、円盤から放出されていた光は消えた。
「悪魔の、獣……。」
「……デュオス。」
映像が終了した後で、どこか悲しげな表情でぽつりとデュオスが呟く。
すると映像を見ながら考え事をしていたマナはハッとしたように、そんな彼の手へと自分の小さな手を重ねた。
「俺は大丈夫ですよ、師匠。……でも、ありがとうございます。」
「……ならいい。」
重ねられたマナの手へと、向かい合わせるように掌を返したデュオスが、指を絡めるようにしながら彼女の手をそっと握り返し、苦笑する。
マナはそんな弟子の表情を少しだけ見上げてから、また円盤へと目を戻した。
それから少しの間、重い沈黙の時間が続いた、その後。
「──この記録を残した者は……謀反、を起こされたと言っていたな。」
「ええ、そうですわね……私も確かにしっかりとそう聞こえました。」
「……で、見た感じ彼女の言うあの者達って多分、記録の最後に出てきたエルフ達の事……よね?」
記録から新たに汲み取る事の出来た情報を整理するようにマナが語り始めると、それに続いてソフィエルとミィオも喋り始める。
王宮の地下資料庫にて確認できた戦争の記録では確かに、エルフ達から戦いを仕掛け見事に勝利した、というような描かれ方をしていた。
にも関わらず、謀反を起こされたとはどういう事なのか。
「……これはあくまでワシの想像じゃが、エルフ達は彼ら──幻魔族との戦いに、一度敗れておるのではないか?」
「っ……え、つまり一度負けたから今度は毒を使ってリベンジしたってことですか?」
きゅっと強めに手を握ってきたマナに驚きながらも、デュオスが小さく首を傾げる。
一度正面から挑んでダメだったから、今度は火を放ったり毒を撒いたりしたのだろうか、という疑問を持ったようだ。
「いや、結果的にはそうなるが……実際はもっと酷いかもしれん。つまり──。」
謀反とは仲間の裏切りを指す言葉であり、叛逆や下剋上とも言われる事もある。
そしてそれには何より、する側とされる側が仲間関係であるという前提が存在する。
だとすればそれは、あの者達と幻魔族達が何かしらの形で友好的な関係を結んでいたという事に他ならないのだ。
「……仲間として取り入って、その上で裏切って毒を使い殺した、という事でしょうか。」
「そんな……っ!そんなのって……!」
何かが腑に落ちたようにソフィエルが考えうる最悪の可能性を口にすると、ミィオは酷く驚きながらも、その残酷さに思わず目を伏せる。
もしそれが本当の事だとすれば、地下資料庫にあった悪獣との戦いの記録などという物は、その残酷な真実を隠すための真っ赤な嘘という事になりかねない。
「まぁそのあたりはあくまで想像でしか無いが……少なくとも、1つはっきりしたな。」
「……エクデスの事、ですよね。」
エルフ達による非道な謀反の最中、ひとりの幻魔族の女性によって難を逃れたという子供たちは、確実に裏切り者達への強い恨みと憎しみを抱いていたであろう。
そんな彼らも大人になり、やがて新たな世代を紡いでいく。
だがそれでも決してその憎しみの炎は消えること無く、子々孫々と受け継がれ復讐の為の牙を研ぎ続けていたのだとしたら──。
「ああ、何としてでも奴を止めるぞ。この時代で、確実に。」
「はいっ!師匠!」
「……ちょっと良いかしら?」
師弟は強く手を握り合って、復讐の為の鬼として生まれ育ったであろうエクデスの裏工作と未来での凶行を食い止める事を固く決意する。
するとそこへ、何かがどうしても気になったらしいミィオが小さく手を上げて、口を開いた。
「要するにその幻魔族の人達って、私達みたいなエルフをものすっごく恨んでるワケよね?」
「なのにどうして例の男は、わざわざラギル王子に兵器の設計図なんて渡したのかしら?」
「もちろん支援欲しさではあるのだろうけど……それにしてはちょっとリスキーじゃない?」
確かにミィオの言う通り資金的援助を受ける目的であれば何も兵器などという、いざとなったらこちらに銃口を向けられてしまうような危険な物ではなく、もっと他の遺物技術に関する物でも良かった筈だ。
それなのにわざわざそんなリスキーな物を、エクデスがラギルへと提供したのには理由があった。
「……恐らくそれは、野心家であるお兄様を利用して、その兵器を量産させる事が目的かと。」
「そして、目的を達成した後は……。」
「裏切って殺す、か。」
若き頃より腹の中にずっと強い野心を秘めていたラギルは、かねてより国土の拡大──つまりは他国への侵略を夢見ていた。
しかし未だ王子という立場でしか無いラギルの力では、国の軍事を動かすにも限界がある。
何よりも、戦って勝てる保証が無いのにわざわざ自分から戦争をしかけるのは、あまりに愚策だからだ。
だからこそラギルは欲したのだ。
国を自由に動かせる王という最高権力と、他国を圧倒できるようなパワーを持った最強の新兵器を。
その先に待つものが、自身の破滅だとも考えずに。
「と、いう事はそのラギル王子って、自分が取引してる相手が幻魔族だって知らないんですかね?」
「どうじゃろうな……。知った上で利用をしておるのなら、大した度胸じゃが。」
「詳しいことは直接本人に聞いてみないと、だわね。」
エクデスが復讐へ走った動機も、ラギル王子を利用して何かを企んでいる事もわかったが、詳しいことを知るにはやはりラギル本人に聞いてみるしか無いようだ。
問題はどうやってそれをするかなのだが──。
「はぁ……仕方ないの。では襲うか、彼奴の馬車を。」
「えっ!?本気ですか師匠!?」
「アンタねぇ……?!」
「私も、できる限りご協力致しますわ。」
小さくため息を零しとんでもない事を言い始めたマナに、それぞれ様々な反応を見せる。
兎にも角にも今どうにかすべきなのはエクデスよりもラギルの方だという事だ。
そうしてマナ達の次の目標は、ラギル王子から毒薬の現物を手に入れ、そしてできればエクデスに関する情報を聞き出す事、となったのであった。
◆◆◆
大人達が物騒な会議をしている頃、2人きりで家に残された学生達は──。
「うぅん……。」
もはや朝というよりは昼に近いような時間になって、ようやく目を覚ましたらしいダイナは、自分の腕の中にあるやけに柔らかくて温かい何かの存在を感じながら、やがてゆっくりと重い瞼を開く。
すると彼の眼前にあったのは、どこか幸せそうに静かに寝息を立てている半獣人の少女、ミナの顔だった。
「あぇ……?」
昨晩はマナのベッドで眠ったはずの彼女が何故かここにいる状況に、寝起きのダイナの頭は追いつけない。
それから温かな誘惑に負けるようにもう一度瞼を閉じて彼女をぎゅっと抱きしめれば、ふと香ったのは嗅ぎ慣れた師匠の匂い。
「(そうだ……昨日はミナさんは師匠のベッドで──。)ッ……!?」
ぼんやりとそう考え始めた所で、ようやく何かがおかしい事に気がついて、ダイナは慌てて目を覚ます。
そして頭だけを動かして周囲の景色を観察すると、そこが自室である事を確認した。
「(ここは僕の部屋だ……って事は僕が寝ぼけて師匠のベッドに潜り込んだわけじゃない、けど──。)」
状況的に考えるのなら、ミナがダイナのベッドへと潜り込んできたと捉えるのが自然だったが、彼にはその理由が理解できない。
以前にも学校での昼食後、昼寝から目を覚ましたら彼女がダイナの腕の中に居た事は確かにあった。
しかしその時とは決定的に違うのは、彼女もまたダイナにしっかりと抱きついている事だ。
つまり2人はいつのまにか、互いに抱き合って眠っていたという事になる。
「……。(夜、寒かったのかな……?)」
そんな的外れな予想を立てながら、ダイナはミナの背に回していた手をそっと離す。
しかしダイナが今更手を離した所で、彼女の両腕はしっかりとダイナの腰をホールドしているため、2人が離れる事はできない。
その事に気がついたダイナは少し困ったような顔をして、小さく苦笑した。
「(……もうそろそろ、起こしても良い……よね?)」
しばらくそんなミナの寝顔を見ていたダイナだったが、外はもうすっかりと日も昇っているようなので、流石に彼女を起こそうかと考え始める。
そうして、布団とはまた違ったその確かな温もりの誘惑についつい二度寝したくなる気持ちをこらえながら、ダイナはそっと彼女の肩を揺さぶった。
「ミナさーん……起きてくださーい……朝ですよー……。」
起こすのが目的であるにも関わらず、何故かひそひそとした声で呼びかけるダイナだったが、ミナの獣耳はそれでもその声に反応を示し、ぴこぴこと動く。
だが彼女は起きる事をを拒否するかのように、ダイナの首筋へと深く顔を埋め始めた。
「っ……ちょっとミナさん?くすぐったいですよ──ぉっ!?」
ミナの寝息が首筋を刺激してダイナがくすぐったそうに笑った、直後。
明らかに吐息のそれではない、まるで何かに強く吸い付かれるような感触を覚えて、ダイナはびくりと体を強張らせた。
「……ミナさん?起きてますよね?!」
突然の不意打ちに変な声を出してしまい、少し恥ずかしそうなダイナは顔を埋めたままのミナへ確認するように問いかける。
しかし彼女からの返事はなく、ただ布団の中で楽しげに尻尾を揺らしているだけだ。
「もうっ、起きてくれないなら……明日からのお弁当、作ってあげませんよ?」
狸寝入りを続けるミナへ、ダイナは少し意地悪をするようにそんな軽い脅しをかける。
するとそれは嫌だったらしい彼女がようやく顔を上げて、まだ眠たげな瞳でダイナをじーっと見つめた。
「……飛び級くんは意地悪だなぁ。あんなに美味しいお弁当の味をボクに教え込んでおいて今更そんな事言うなんて……よよよ。」
「なっ……!?」
言われてみれば確かにその通りではあるのだが、まるで被害者のように顔を両手で覆ってわざとらしい泣き真似をし始めるミナに、からかわれているのだとは理解しつつも冷たく突き放すことなど到底できないダイナ少年は、慌てふためく。
「なーんて、ふふ……冗談だよ?飛び級くんはそんなヒドイ事しないもんねー?」
「っ……もう、良いから起きてください……。」
悪戯っぽい笑みを浮かべるミナに完全に弄ばれていると感じたダイナは、少し疲れたように小さく息を零して仰向けになる。
そこでようやく起きる気になったらしい彼女が、上体を起こすとぐぐーっと伸びをした、次の瞬間。
「……えっ?」
「ふふーふ……。」
一瞬気が付かないほどの自然な動きでダイナの体の上へと跨ったミナは、彼の胸に両手を置いて不敵な笑みを浮かべた。
彼女のそんな突然の行動に、呆気にとられたように小さく口を開けたまま固まるダイナだったが、それもまたからかわれているのだと理解すると、少しむっとしたように顔を背ける。
「もう……今度は何の冗談ですか?」
「……なんだと思う?」
「っ……!?」
呆れたような口ぶりで尋ねてくるダイナに意味深に問い返したマナは、ゆっくりと身体を前へと倒そうとする。
しかし彼女のその表情から何らかの危険を察知したらしいダイナは、咄嗟に両手で彼女の身体を止めようとするの、だが──。
「……あれ?もしかして、ボクの方が力強いかも?」
「え、あ……!?(いや本当に力、強っ……!?)」
阻む両手を逆に捕まえ、指を絡めるようにしっかりと握り込んだミナが軽く力を込めれば、意外にも押し負けてしまいそうなのはダイナの方で、それぞれかなり驚いたような表現を浮かべる。
例え同い年で男女の差があろうとも、獣人という運動能力お化けの血を引く彼女には、ダイナは筋力で勝てないという事だ。
比較対象が筋力最弱のマナくらいしか居なかったのもあるが、それまで誰かに力負けした事の無いダイナにとって敗北はかなりの衝撃だった。
「ふぅん……そっかぁ……?」
「っ……このくらい!」
両手を握ったまま何か納得したようにニヤニヤとした笑みを浮かべるミナの態度に、自分の中の負けず嫌いな男の子の部分を刺激されたダイナは、目一杯に力を込めて彼女を押し返そうとする、しかし──。
「わっ……!」
「あれっ……!?」
本気を出した彼の力が強かったのか、はたまたミナが力を緩めたのか、ダイナは押し返すだけに留まらず勢い余って逆に彼女を押し倒すような形になってしまう。
そのまま驚いた顔で二人が見つめ合うこと、数秒。
気がつけばミナは顔を真っ赤にしていて、どこか気不味そうに目を逸らした。
「ご、ごめんなさい……!すぐ離れ──っ!?」
「……。」
ダイナは慌ててミナの上から退こうとするが、まるで万力にように手を握りしめながらも、どこか熱っぽい瞳で見つめてくる彼女がそれを許さない。
両手を捕まえられ離れるに離れられず、かといってこのまま身体を前に倒すわけにも行かず、ダイナが軽いパニックに陥りかけた、その時。
「おーい、いつまで寝てるんだー?そろそろ起きて──。」
先ほど帰ってきたらしいデュオスがノックもなしに扉を開けて中へ入ってきて、ベッドの上の2人を状態を見て言葉を失う。
友達だと言っていた彼女を押し倒しているダイナ、そしてそんな彼に押し倒され満更でも無さそうに顔を赤くしているミナ。
若い男女が家に2人きり、しかも同じベッド、何も起こらない筈もなく。
デュオスが勘違いをしてしまうには十分だった。
「あっ、デュオスさんっあのこれは──!」
「──何やってんだお前ぇッ!!?」
そうして事情を説明する間もなく、理不尽にデュオスに一発ぶん殴られる事となったダイナは、その日ミナが帰るまでずっと拗ねていたのであった。




