第29話『ねこのきもち(中編)』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『おさぼりキャット』
名前:ミナ・ホロス
年齢:12
種族:半獣人
性別:女性
容姿:身長152cm 健康的な肌色 小柄ながらすらりとした体型
ふわふわ灰色ショートヘア 猫目 灰混じりの青瞳い 猫系の耳と尻尾 毛色も灰
基本的に学校では学校指定のローブに、ズボン姿で居る事が多い
備考:一人称はボク 中性的でミステリアス サボり魔
母がエルフ、父が獣人 魔術より身体動かすほうが得意 鶏肉が好物
同い年にも関わらず上級クラスに通っているというダイナに、少し思う所があるらしい。
とある一件以来、やけにダイナとの距離が近くなっている。
ダイナへの淡い恋心を秘めながらも、今はまだ1人の友達としてダイナの家へと遊びに来た半獣人の少女ミナは、彼の家族であるマナやデュオスとの顔合わせを終えた後、ダイナと共に森へと遊びに出た。
やはり獣人の血を引くだけあり駆け回る事が好きなようで、ミナはダイナもついていけない程の速さで森を駆け回るのだった。
「っはぁ……っはぁ……は、速い……。」
「ほらほら飛び級くん!こっちこっち!」
肩で息をするほどに息を切らしながらも、なんとか小走りペースでミナの後を追うダイナに対し、ミナはランナーズハイのような高いテンションで呼びかけてくる。
かれこれ30分近くはそんな調子で走り続けていて、どちらかといえばインドア派なダイナはもう既に疲労困憊の様子だ。
もちろん学校にも校庭などの運動スペースはあるのだが、ミナの性格上走り回っている所を他の生徒にあまり見られたくないらしく、さらに平坦に整備された校庭では半獣人という運動能力に優れた種族的には物足りないのだろう。
「ちょっと……っ休憩、しませんかぁ……っ!」
「えー?もう疲れちゃったの?しょうがないにゃあ……。」
もはや足も震え始めてしまったダイナは必死に声を振り絞ってミナへと嘆願する。
するとミナは渋々と言った様子で足を止めたかと思えば、森の木々を足場に軽々と飛び跳ねて、あっというまにダイナの元へと戻って来た。
同じ獣の特性を併せ持つ半獣人と幻魔族ではあるが、やはり運動能力で言えばより獣の特性が色濃い半獣人の方に軍配が上がるようだ。
「はぁ……ミナさん、すごく元気ですね……?」
「これくらい普通だよ?そういう飛び級くんは、ちょっと体力無さ過ぎなんじゃない~?」
膝に手をついて何とか息を整えようとする既に汗だくのダイナとは対照的に、まだ汗一つかいていない様子のミナは、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながらダイナの顔を覗き込む。
瞬間、赤と青の正反対の瞳同士がばっちりあってしまって、互いに少し気恥ずかしそうに目を逸らした。
普段は校舎の屋根上で昼寝をしているミナの姿しか知らないダイナには、これほどまでに活発的に彼女が動き回る事など想像もしていなかった。
しかもお世辞にも動きやすいとは言えないワンピース姿で、何なら運動靴ですら無く彼女は現在裸足だ。
「そ、そうですかね……?はぁ……ふぅ……ちょっと、座ってもいいですか?」
「いいよ~、じゃあ休憩しよっか!」
へろへろになりながらも、近くにあったちょうど良さそうな切り株を指差したダイナの手を、ミナは掴んで引っ張り誘導するように連れて行く。
一緒に座るには少し小さくて、お尻とお尻がくっついてしまう程の大きさしかない切り株に仲良く並んで座った2人は、爽やかな森の風を感じながら少々の休憩タイムへと入る。
ダイナ自身も読書少年になる前はよく虫などを捕まえに森の中を駆け回っていた筈だが、いまそこで俯きながら必死に息を整えている彼の姿からはとても想像できない。
今日は良く晴れ少し暑いくらいではあるが、森の中は木々によって程よい日陰が形成されており、とても過ごしやすい環境だ。
「はふ……少し落ち着いて──っ!?」
「……。」
ようやく息を整え終えたらしいダイナが顔を上げ、ふと隣のミナの方を見る。
するとそこには麦わら帽子を胸に抱えながら小さく口を開け、どこを見ているのかわからないような表情のまま固まっているミナの姿があった。
当然、そんな彼女の謎の表情の意味を理解できないダイナは、困惑したような反応を見せる。
「ミ、ミナさん……?」
「……え?あ、ごめん、ボクは大丈夫だよ。」
恐る恐る呼びかけるダイナの声に少し遅れて、ハッとしたように目の焦点が戻ったミナはどこか恥ずかしそうに目を逸らして誤魔化すように笑うが、尚もすんすんと鼻を鳴らしている。
どうやらさっきのは獣人などに時折見られる、匂いを嗅いだ時の生理現象の1つだったようで、今回は汗だくなダイナの匂いに反応してしまったらしい。
「……?……あ、もしかして僕、汗臭いですか!?ご、ごめんなさ──!」
ミナが鼻を鳴らしているのを不思議に思い、ダイナはまさかと慌てて離れようとする。
しかし、そんな立ち上がろうとするダイナの尻尾へと、ミナは何も言わず自分の尻尾を絡みつけて引き止める。
その無言の圧とも言うべき行動に、ダイナはまた困惑しながらも大人しく切り株に座り直した。
それからしばらく、形の違う尻尾同士を絡めたまま互いに何を言うでもなく過ぎていく、少し気恥ずかしく気不味い時間。
獣人や半獣人同士が尻尾を絡める意味をミナはもちろん知っているが、ダイナがそれを知らないであろう事もまた、知っていた。
「あの……ミナさん?」
「んー?」
やがて沈黙に耐えきれなくなったダイナが、遠くを見つめるようなミナへとそっと話しかけると、彼女は返事をしながらほんの一瞬だけ横目でダイナの方を確認して、またすぐに視線を遠くへと戻す。
相変わらず尻尾は絡まったまま、むしろさっきよりより複雑に交わっている気さえした。
「えと……ミナさんのご家族ってどんな人、ですか?」
「家の家族ー?……気になるの?」
「え、ま、まぁ……?(あんまり聞かれたくない事だったかな……?)」
話しかけたは良いものの話題を考えていなかったらしいダイナは咄嗟に、前から気になっていたミナの家の事について聞いてみる。
その問いかけに対し逆に問い返すような反応を見せるミナに、話題の選択を誤ってしまったかと思いながらも、ダイナはとりあえず肯定する。
「家はねぇ……ママがエルフで、パパが獣人なんだけど……。」
やがてゆっくりと話し始めたミナの話に、ダイナは真剣に獣耳を傾けて聞く。
一見同じような獣耳であっても、ミナの物とダイナの物では微妙に形が異なる。
それは単純に親や祖先となった獣の違いによる物だが、基本的に現代においてはどのような形であろうと獣人、半獣人と一括りにされている事が殆どだ。
「パパは元々、ママの使い魔……あー、なんていうか……従者?みたいな感じで──。」
ミナ自身、自分の家の話をするのはあまり慣れていない事のようで、少し言葉を選びながらも一生懸命に説明をしてくれる。
曰くミナの父は魔術師であるミナの母に長らく従者として仕え、その末に結婚してミナをもうけたが、自身が獣人であるが為に魔術の扱いが不得手であった事がコンプレックスで従者時代にも相当な苦労をした為、せめて娘であるミナには、という気持ちでアステリア魔法学校へと入れたのだという。
しかし彼女自身は魔術にあまり興味が無く、入学したのも父からの懇願があっての事だった故に授業へのモチベーションという物がそもそも低く、居づらさを感じてサボりがちになってしまっているらしい。
「だからさー、1年くらいしたらボク、学校やめちゃおっかなー……って思ってたんだけど……。」
「えっ!?」
くすぶり続けていたそんな思いを吐露しながら、ミナはその灰色がかった青い瞳で隣のダイナをじーっと見つめる。
だが鈍感なダイナがその視線の意味に気がつくわけもなく、むしろせっかく友達になったミナがやめてしまうかもしれない事にショックを受けて、動揺していた。
「……でも今は、もう少しだけ居てもいいかなーって思ってるよ。」
「そうなんですね……!(よかった……!)」
そう言いながらミナは尻尾に力を入れ、ダイナの尻尾を引き寄せるような動きを見せるものの、彼女の言葉にほっと安堵したと同時に喜びを隠しきれない様子のダイナの尻尾が激しく揺れて、ミナは逆に尻尾を振り回される。
当然、ミナが学校を続けようと決めたきっかけが一体何だったか、なんて事はダイナには欠片もわからない。
「ねぇ、飛び級くん……。」
「はい!何ですか?ミナさ……ん?」
家の事を一通り話し終わった後で、少しの間を置いて今度はミナがダイナへと声を掛ける。
そんな彼女の声に獣耳をぴょこりと反応させながらダイナが元気よく返事をすると、突然ミナがダイナの手の上に自らの手を重ね始める。
ダイナはそのミナの行動に首を傾げながらも、特に嫌がるでもなく不思議そうな顔をするばかり。
「あー……えっと……その……っ。」
「はい……?」
一歩踏み込んだ質問をしようとした途端、ミナは急に尻込みしたように言葉が出てこなくなる。
好きな人はいるの?好きなタイプは?歳下と歳上どっちが好き?
なんて、聞きたい事は色々あったはずなのにどうして、こんなに胸が苦しくなってしまうのか、ミナ自身にもわからなかった。
「……好き……っな、食べ物は?」
「好きな食べ物、ですか?えーっと、そうですね……。」
やっと言葉が出たと思ったのに、ミナは結局日和ってしまって当たり障りの無い質問をぶつける。
しかしダイナはそれについてあまり真剣に考えたことが無かったようで、獣耳を忙しなく動かしながらとても真面目に考え始める。
その隣でミナは、トクトクと逸る自らの心音を隠すように、麦わら帽子をぎゅっと胸に抱えた。
今の間に今度こそちゃんとした質問をするべく、覚悟を決めたいと考えながら。
「……あ、それだったら、お肉が好きかもしれません!この間食べたチキンサンドも、美味しかったですよね!」
「そっ、そうだね……あれは美味しかった。……それで、えーと……。」
満面の笑みで答えるダイナに同意を示しながらも、ミナは早速本命である次の質問へと移ろうとする。
どちらかといえばものぐさな性格のミナではあるが、こういう時ばかりは異様なほど慎重なタイプだった。
「じゃあ……すっ……好きな、タイプは?」
「好きなタイプ……うーん、そうですね……。」
外堀から確実に埋めていこうという考えで、ミナは最初に好きなタイプを聞くことにする。
もちろんこれは、好みな異性の系統は?という意味の質問である。
それによって自分にチャンスがあるのか無いのか、また自分がそのタイプになれる可能性があるかどうかを判断できるからだ。
またも真剣に悩んでいる様子のダイナを横目でちらりちらりと確認しながら、ミナはそわそわとした様子で小さく足踏みをする。
「煮込み……いや、焼きですかね。」
「……え?」
「え?」
真剣な表情でそう答えたダイナの言葉に、ミナは一瞬理解できず思考が停止してしまう。
要するに彼は先程の質問を、好きな調理法は何か?という質問だと受け取ったのだ。
最初に食べ物の事を聞いてしまったが故に、料理好きなダイナは完全にそういう質問だと思い込んでしまったのである。
困惑したような反応を見せるミナを見て、ダイナは急に不安そうな表情を浮かべる。
もしや焼き料理はすごくマイナーな調理法だっただろうか?と。
「あ、いや……なるほどね。うん……美味しいよね、焼き鳥とか焼き魚とか。」
「はい!焼き魚はまだ1回しか食べたこと無いですけど……またそのうち食べたいです。」
質問の順番を完全に誤った事を理解したミナは、一旦冷静になって相槌を打つ。
前にマナが買ってきてデュオスが焼いてくれた焼き魚の味を思い出し、ほわほわした表情をしているダイナを見ながら、彼女はここから立て直すための算段を考える。
まずは一旦、料理の話から離れさせる必要があるだろう。
「じゃあ、えっと……っ……す、好きな人は?いる?」
「……あ!好きな料理人って意味じゃないからね!普通に!普通に……!」
少し考えた結果、勇気を振り絞ってストレートな質問を投げつける事にしたミナは、自分の頬が明確に熱を帯びている事を自覚しながら、ダイナへと三度問いかける。
念の為に補足を付け加え、今度こそ確実に聞き出せる筈だと確信を持って。
「それはえっと……やっぱり、師匠……ですかね。(将来、結婚するらしいし……。)」
「お師匠さん……?そうなんだー。(そういう意味じゃなかったんだけど……まぁ、仕方ないか。)」
少し照れくさそうに笑いながらもさほど悩む事も無く、ダイナは真面目に師匠の事が好きだと答える。
だが今度はそれを聞いたミナは、彼が恋愛的な意味ではなく、家族に対する親愛的な意味でマナを好きだと答えたのだと解釈したのだった。
そんな致命的な勘違いをしたまま、やがて2人を昼食に呼びに来たデュオスと共に、ミナは一度マナの家へと戻るのであった。




