第28話『ねこのきもち(前編)』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
【その他の登場人物】
『おさぼりキャット』
名前:ミナ・ホロス
年齢:12
種族:半獣人
性別:女性
容姿:身長152cm 健康的な肌色 小柄ながらすらりとした体型
ふわふわ灰色ショートヘア 猫目 灰混じりの青瞳い 猫系の耳と尻尾 毛色も灰
基本的に学校では学校指定のローブに、ズボン姿で居る事が多い
備考:一人称はボク 中性的でミステリアス サボり魔
母がエルフ、父が獣人 魔術より身体動かすほうが得意 鶏肉が好物
同い年にも関わらず上級クラスに通っているというダイナに、少し思う所があるらしい。
とある一件以来、やけにダイナとの距離が近くなっている。
ダイナがマナに友達を家に連れてくる許可を貰った日から数日後。
ついにデュオスの部屋の増築工事が完了し、少し歪な形になった森の家では、朝から忙しそうにしている師弟達の姿があった。
今日はダイナの学校は休みの日なのだが、これからマナとダイナは学校へと行かなければならない。
何故なら今日はダイナが待ちに待った、友達が家に遊びに来る日だからだ。
「師匠、もうそろそろ……!」
「くふふ……そう焦るな。」
すっかりと出かける準備を整えたダイナが玄関前で小さく足踏みをしながら、そわそわとした落ち着きの無い様子でマナを急かす。
迎えに行く約束の時間まではまだ少しあり、学校までの移動も空間転移の魔術を使うのでそうかからない。
それでも休日に学校の友達に会う、という初めて経験するシチュエーションへの高揚感からか、ダイナは落ち着く事が出来ないでいた。
「よし……ではデュオス、しっかり頼むぞ。」
「はい師匠!任せてください!」
いつもの三角帽子をかぶり出かける準備を整えたマナは、箒を片手にリビングをせかせかと歩き回るデュオスへと声をかける。
この家に来客がある事などあまり無く、あっても玄関先で済ませる事が殆どなので、家に人をしっかり上げるという事は家主であるマナにとっても珍しい事だ。
そこでマナは客人への最低限の礼儀として綺麗に家を掃除をしておこうと考えた。
もっとも、実際に掃除を担当するのはそこで頭に頭巾などかぶっているデュオスなのだが。
「師匠……!」
「あーはいはい、わかったわかった……では行って来る。」
「いってらっしゃいませ!」
待ち切れないと言わんばかりに手を引っ張るダイナに、マナは小さく苦笑してからその手をしっかり握り返す。
それからデュオスに軽く手を振るとそのまま指を鳴らし、ダイナと共に空間転移でミナの待つ学校へと向かうのであった。
◆◆◆
学校へとやってきた2人は、校門前でミナの到着を待っていた。
到着してすぐにダイナがミナを迎えに女子寮へと向かったのだが、その途中でミナに窓から呼び止められ、支度に少し時間がかかりそうだから門で待っているように言われたのだ。
「──それでこの間の授業では、転移魔術の活用法と危険性について……師匠?」
ミナを待っている間に、学校での話を身振り手振り交えながらダイナは一生懸命に話す。
そんなダイナを見てニコニコしているマナを不思議に思ったのか、彼は小さく首を傾げた。
「む?ああいや、何でもない。……学校、楽しそうじゃな?」
「はい!とっても!……あ、でももうすぐ試験があるらしいので、それだけちょっと不安です……。」
満面の笑みで答えたかと思えばまたすぐに表情がころりと変わって、ダイナは獣耳と尻尾を不安げにしょんぼりと下げる。
それは学校で年4回行われている、生徒達の魔術的学力を計測するための大規模な試験だ。
各学年の前半、後半の途中と終わり頃に開催されるのが恒例となっており、時期的に言えば次の試験は前半の終わりの試験にあたる。
そしてその試験が終われば学校はしばらくの長期休暇を迎え、その後に学年の後半の授業が始まるのだ。
「くふ……お主は賢いからな、きっと大丈夫じゃよ。」
「えへへ……そうですかぁ……?」
優しげに笑うマナがダイナの頭をそっと撫でれば、ダイナはデレッとした笑みを浮かべて嬉しそうに尻尾を振る。
するとそこへ、駆け足で近づいてくる一つの人影があった。
遠くからでも良く分かる、麦わら帽子に白い袖なしのワンピースという如何にも夏らしい格好の女子生徒らしき人影。
「む?あれか?お主の友達は。」
「多分……?」
その人影を指差しマナが尋ねるも、ダイナ本人はいまいちピンと来ていない様子。
何故ならいつものミナは学校指定のローブにズボン姿であり、どちらかといえば男性的な服装をしている事が殆どだからだ。
「っはぁ……っはぁ……お、お待たせ……しました。」
「ミナさん!おはようございます!」
そうして四角い旅行カバンを片手に息を切らしながらやってきたのはやはりミナで、顔が確認できてようやく彼女だと認識したダイナが嬉しそうに笑う。
いつもとはかなり違った雰囲気のミナだが、それもその筈。
この格好は、ダイナの家に遊びに行くと決まったその日から、当日はどんな服装で行こうか悩みに悩み抜いた結果だからだ。
もっとも、昨晩もそれで悩んだ結果寝るのが遅くなり、今朝は寝坊をしてしまったのだが。
「お、おはよう飛び……じゃない、ダイナくん。(やらかしたなぁ……印象最悪だよもう……。)」
「師匠!こちらがお友達のミナさんです!」
「うむ……ワシはマナじゃ、よろしく。」
珍しくダイナの事をちゃんと名前で呼んだりしながら、ミナは保護者であるマナの顔色を伺うようにちらりと確認する。
幸いにも彼女は特に怒ってはいないようで、ダイナからの紹介を聞きながら自己紹介をして、ミナへと手を差し伸べた。
「ミナ・ホロスです。今日はよろしくお願いします……えーと、お師匠さん……?(ママと同じエルフの人だ……。)」
「ふ、まぁ好きに呼んでくれて構わぬよ。」
握手に応じながらも、ミナはマナへの呼び方に迷うような反応を見せる。
ぱっと見た感じ明らかに師弟に血の繋がりは感じられないため、素直にお母さんなどと呼んで良いものか、という懸念があったからだ。
それでもマナは小さく笑って、弟子以外の者に師匠呼びされるという何ともこそばゆい感覚を覚えながら、しっかりとミナの手を握った。
「では行くぞ、忘れ物は無いな?」
「は、はい。大丈夫だと思います……多分。」
出発前の最終確認をするマナに、ミナは手を握られたまま少し緊張気味に答える。
自分よりも小さな背格好にも関わらず、穏やかな大人の余裕というか言葉では言い表せない凄みのような雰囲気をマナに感じていたからだ。
「もしあってもすぐに取りに来られますし、大丈夫ですよ!ね?師匠!」
「やれやれ……誰が送り迎えすると思ってるんじゃ?……まぁ良い。行くぞ。」
期待に満ちたような眼差しでそんな調子の良い事を言いながら、2人の握手の上に自らの手を重ねてくるダイナにマナは小さく苦笑する。
それから空いている手でいつものように指を鳴らせば、3人の姿は一瞬にして学校前から消えるのだった。
◆◆◆
無事にミナと合流し、あっという間に森へと戻ってきたマナ達。
ミナを家へと入れるために防犯魔術への許可登録作業を行っているマナの少し後ろで、彼女は小さく口を開け驚いたような表情のままキョロキョロと周囲を見回していた。
海に近い学校から一転して、完全な森の中へと一瞬にして移動してきたのだから、それは無理もない。
「……ミナさん、どうしたんです?あ、もしかしていきなり移動してびっくりしました?」
「い、いやそうじゃなくて……!」
授業をサボりがちなミナといえど、流石に空間転移の魔術くらいは知識として知っている。
それよりもミナが驚いているのはマナの、その魔術の発動形式についてだ。
「さっき飛び級くんのお師匠さん……何も詠唱して無かったよね?」
「え?ああ……あれはえっと、詠唱破棄って奴ですよ。」
何故かひそひそと声を潜めて怪訝そうな表情を浮かべながら、ミナはダイナへ耳打ちをするように問いかける。
するとダイナはくすぐったそうに獣耳をぴこぴこ動かしながらも、特に不思議でも何でも無いようにさらりとそう答えるの、だが。
そもそも魔術師が魔術を行使する際には、口頭での詠唱による術式の起動が一般的とされており、アステリア魔法学校で教えている授業もその基本形に則った物になっている。
そして詠唱破棄というのは、その詠唱という必要工程を最大限にまで短縮して魔術を行使する、熟練の魔術師が持つ高等技術の事だ。
「詠唱破棄……聞いたことはあるけど、あんな感じだっけ……?」
実際ミナの疑いは正しく、彼女がまだ比較的まともに出席していた、1年生クラスのかなり初期の授業で習う事になる様々な魔術の形式についての概要では、詠唱破棄とは通常複数の節に跨って必要な詠唱工程を、冒頭の数節だけで行使できるようにする物、と説明されている。
つまりマナが普段から平然と行っている、指を鳴らすだけで即魔術を発動する等という形式は、もはや詠唱破棄の範疇では収まらないようなデタラメな業なのだ。
「実は師匠って、かなり凄い魔術師なんです……!」
「そ、そっかぁ……。」
得意げに目を輝かせて、自分の師についてふわふわな説明をするダイナに、これ以上は聞いても無駄かと判断したミナはやんわりとした愛想笑いを浮かべる。
かなり凄いとだけ言われても何も伝わらないが、実際にはマナは学校の教科書に載っているレベルの有名魔術師だ。
とはいえ、ダイナ自身も学校に通い始めるまでは師匠のような形式が普通だと思っていた為、自らが普段当たり前に行っている口頭を介さない無音詠唱が一般的には上級技術である事を知らなかったのだが。
「よし、これで入っても大丈夫じゃ。おーいデュオス、戻ったぞ。茶を入れてくれ。」
「ああ、おかえりなさい師匠。はい、すぐに。」
防犯魔術へのミナの許可登録を終えたマナは、扉を開けて中へ入るなりデュオスへと呼びかける。
すると掃除を終えて一息ついていたらしいデュオスがソファから立ち上がってマナを出迎え、彼女の帽子とローブをいつものように預かりながらも、客人であるミナへ小さく会釈した。
「もしかして、あの人が噂の……?」
「はい。デュオスさんです。」
ダイナとどこか似た雰囲気を持ちながらも、髪色や眼の色などは異なるデュオスを見て、ミナは再び耳打ちするように尋ねる。
彼女の中では美味しいお弁当を作っている人という認識でしか無かったのだが、まさかその人までもが自分やダイナと同じ半獣人だとは思っていなかったらしく、少し驚いているようだ。
「荷物はどこか適当に……まぁ自分の家だと思って寛いでくれれば良い。」
「は、はい……ありがとうございます。」
送り迎えという一仕事を終えたマナは小さく息を零して、やれやれと言わんばかりにソファへと腰掛ける。
未だ緊張の抜けない様子のミナは持ってきた旅行カバンを、邪魔にならないように隅の方へと置いて、借りてきた猫のようにその場に大人しく佇む。
「……ミナさん!このソファ座り心地良いですよ!」
「え、あ、うん…………ほんとだ。」
佇むミナの姿を見かねてか、マナの隣へと腰を掛けたダイナがミナを手招きする。
やがて恐る恐るソファへ近づいてきた彼女はそっとダイナの隣へ腰掛けると、小さく笑った。
「ふ……ワシのお気に入りのソファじゃからな。もうだいぶボロくなってきておるが……お主らよりもずっと歳上じゃよ?」
お気に入りのソファを褒められた事と、ダイナがそういった気遣いができる子に成長している事が嬉しいようで、マナは少し得意げな顔をしながらソファの肘置きを撫でる。
マナがダイナを拾うよりもずっと昔からここにあるのはもちろん、なんなら25年後もまだ酷使されている、なんて事はデュオスしか知らない事だが。
「(なんか……ここ、すごく落ち着くかも。)」
「……ところで、お主らはどこまで行ったんじゃ?」
「?」
「ッ──!?」
ようやく落ち着いて来たらしいミナが家の中を少し見回して、ダイナの成長記録が刻まれた柱などを見ていると、マナが唐突にとんでもない質問を投げ込んで来て、場に緊張が走る。
もちろん、その質問の意味をいまいち理解できていないダイナを除いて。
「この間の一件後、まさか何も無かったわけではあるまい?」
「この間の……?ああ!……え?」
追加の質問をされてそこでようやくマナが先日の発情期事件の事を言っているのだと理解したダイナだったが、それと同時に困惑したように硬直してしまう。
何故ならあの日ミナの部屋で起きた事に関しては、内容が内容だけにマナには一切報告をしていない筈なのだ。
「そ、その件については……っ!本当申し訳なく……っ!」
「え!?ミナさん……!?」
何もかもがバレている事を悟ったミナは靴を脱ぎ捨てるなり、ソファの上で身体を小さく畳んで頭を座面に叩きつけるように素早く土下座をし始める。
どうやらミナは大切な弟子に手を出した事について、マナに咎められていると感じたようだ。
「む……?何故頭を下げる?ワシはどこまで行ったのかと──。」
「1回だけキスしましたッ!ごめんなさいッ!」
「ミナさん!?」
「────!?!?」
何故謝られているのかがわからないマナが、再確認するように再度問いかけようとすれば、ミナは食い気味に白状をして座面に頭を埋める勢いでさらに深く頭を下げる。
突然の彼女のそんな行動に驚いているのはダイナと、もうひとり。
タイミング悪く戻ってきて、ミナの衝撃的な言葉に入れたばかりのお茶を全部ひっくり返してしまう程の動揺を見せたもう1人のダイナだ。
「ほほう……で、何をやってるんじゃお主は。」
「す、すいません……すぐ入れ直します……。」
ひとりで賑やかなデュオスへとマナがじとっとした目を向けると、彼はすぐに床に零したお茶を雑巾で拭いて、もう一度お茶を入れにキッチンへと戻っていく。
「……しかしやはり、というところか。くふ……お主もなかなか隅に置けぬのう?ダイナ。」
「えぇっ……?!」
前々からあった疑念が確信へと変わったように、マナは不敵な笑みを浮かべながらダイナを肘で小突く。
件の一件の後、ミナの部屋を訪れた日、帰ってきたダイナの様子がどこかおかしかった事を彼女はずっと覚えていた。
その時はダイナ本人に聞いても何でもないの一点ばりだったのだが、その謎がここに来てようやく繋がった形だ。
「ミナ殿、頭を上げてくれ。別にワシは怒っているわけではないのじゃ。」
「……いえ、ですけど……!」
いつまでも頭を座面に押し付けているミナへとマナがそっと声をかければ、ミナはびくつきながらもゆっくりと顔を上げてマナの顔色を伺う。
もちろんマナの顔色は穏やかで怒ってなどおらず、むしろどこか嬉しそうに笑ってさえいた。
「ワシは嬉しいのじゃよ……ダイナがこうして、友達どころか恋人を家へと連れてくるようになった事がな。」
「恋ッ……!?師匠!?」
「あのっ!?」
生暖かい目で2人の若人を見守るようなマナの発言に、そこでようやくミナもダイナも状況を把握する。
どうやらマナは、既に2人が付き合っていて恋仲の関係にあると思い込んでいるようだった。
「みなまで言わずとも良い。心配せずとも、よ~く似合って──」
「ボクら、まだ付き合ってませんからッ!!」
鼻高々と言わんばかりに笑うマナの言葉を遮るように、顔を真赤にしたミナが必死の訂正を入れる。
その時、キッチンのほうでデュオスが何かを口から吹き出すような音がした気がした。
「そ、そうですよ師匠!僕達別にそういう関係じゃ……っ!ね、ねぇ!ミナさ──!」
「……。」
「!?」
便乗するように恋仲説を否定しながら、ダイナは同意を求めミナの方を向く。
しかしそこには顔を真赤にしながら、何故だか少し悲しげに目を潤ませている彼女の姿があり、その表情の意味を上手く汲み取れないダイナは困惑したように固まってしまう。
「何じゃ、そうじゃったのか……?それは早とちりをしてすまぬな。」
「……しかし、そうなると困ったのう。」
「え……?」
ようやく誤解が解けて一安心かと思いきや、マナは胸の前で腕を組んでため息を零す。
実は今日ミナはこの家に一泊する予定で、その際のベッドの割り振りについてマナはダイナとミナを一緒のベッドにするつもりで居たのだ。
「ベッドの割り振りじゃよ。お主らが一緒なら何も問題は無いのじゃが……別となるとベッドが足らんじゃろ?」
「え?あ、あぁ……確かに……?」
「(ボクは別に飛び級くんと一緒でも良いんだけど……流石にまだ、ダメだよね。)」
ベッドの大きさと体の大きさ、そしてベッドの数を考えるとダイナとミナが一緒になるのを避けた場合、誰か1人はソファで寝る事になってしまう。
かといって客人であるミナをソファに寝かせるわけにはいかず、色々な事を考えた場合、最終的に自分がソファで寝るのがベストだとマナは考えた。
「ではミナにはワシのベッドで寝てもらい、後は各々自分のベッドで──。」
「待ってください師匠!」
これで決定と小さく手を叩いて話を終わろうとしたマナに、お茶を入れ直して戻ってきたデュオスが待ったをかける。
「だったら師匠は俺と一緒に俺のベッドで寝ましょう!師匠は小柄なので行けるはずです!」
「たわけ!ひとりで寝ろ。」
「そんなぁ……。」
自信満々に口を挟んだのに、デュオスの意見は吐き捨てるように一蹴される。
実際デュオスは理由をつけてマナと一緒に寝たいだけなので、当然と言えば当然だ。
そんなやり取り見てこみ上げる笑いに小さく肩を震わせるミナの横で、デュオスにむっとしながらも流石に友達の前では『じゃあ師匠はこっちのベッドで僕と一緒に』なんて事は言えない思春期少年。
「そういうわけじゃから、お主らもそれで良いな?」
「はい、もちろん。」
「わかりました、師匠。」
「ならば良し。遊びに行ってくるが良い。」
かくしてデュオスの意見を完全にスルーしたベッド割りが決定され、一時解散となったダイナとミナは、お茶を飲んだ後さっそく森へと遊びに出かけるのであった。




