第22話『古からの声』
【主な登場人物】
『師匠』
名前:マナ・アスター
性別:女性
種族:ハイエルフ(絶滅危惧種)
年齢:400歳オーバー
容姿:身長140cm エルフ耳 色白 華奢な体型
紫がかった白く長い腰まである髪 金色の瞳
服は白系のワンピースタイプの服が多め
外出時はその上に黒のローブとツバ広の魔女帽子
備考:一人称は「ワシ」 天才魔法技術者、及び魔術師。別名魔術おばけ。
王宮直属の魔術研究機関に勤めていた過去を持ち、数え切れないほどの魔術やそれに関する技術を開発した。
しかし、ものぐさな上に人嫌いであり、面倒事に巻き込まれる気配を察して逃げるように研究所を退職。
それ以来、研究者時代に稼いだお金で買った土地と森で、ダイナを拾うまでは悠々自適な一人暮らしをしていた。
未来から来たという大人になったダイナの話を聞いて強い後悔と責任感を覚え、共に未来を変えようとしている。
『弟子』
名前:ダイナ・アスター
性別:男性
種族:幻魔族(絶滅済みとされていた)
年齢:12歳
容姿:身長152cm(ケモミミを含まない) 狼のような黒い獣耳と尻尾 浅黒い肌 可愛い系な顔立ち 標準体型
赤みがかった黒色で前髪長めの無造作ショートヘア こめかみ辺りからは灰色で小ぶりな巻角 赤い瞳
冬以外は半袖半ズボンで居る事が多い 中でもドラゴンが刺繍された赤いシャツがお気に入り
学校へ行くときは、その上から学校指定の黒いフード付きローブを着用
備考:一人称は「僕」 マナの弟子にして、古に絶滅したとされる幻魔族の末裔の少年。
ある雨の日に、母親からの手紙と共にマナの家の前に置かれた籠の中に入れられていた。
12歳になって学校に通い始めるまで森の外に出たことが無く、少し世間の常識とはズレている所がある。
好きな事は読書と料理、マナに教えてもらう魔術の勉強。最近はそれに学校へ行くことも追加された。
マナの事はもちろん好きだが、その感情の正体や意味を本人はまだ完全には理解していない。
ずっと怪しんでいたデュオスの事を現在は「未来から来た自分とマナの子供」だと勘違いしている。
『もうひとりの弟子』
名前:デュオス(未来のダイナ)
性別:男性
種族:幻魔族
年齢:不詳(見た目は20代後半くらい?)
容姿:身長178cm(ケモミミを含まない) 狼のような白い獣耳と尻尾 浅黒い肌 すっかり大人の顔立ち がっちり体型
ストレスで真っ白になった長いやつれ髪 こめかみ辺りからは黒色で立派な巻角 本来赤の瞳はマナと同じ金色に偽装している
時間遡行の影響で部分的に真っ黒に変色してしまった身体を隠すため、長袖長ズボンでいる事が多い
外出時には、こっちに来てからマナに買い与えられた黒いロングコートを身に纏う不審者スタイル
備考:一人称は「俺」 マナと結婚した未来から来たというダイナ。
ある雷雨の日に落雷と共に全裸で家の前に現れ、不審者だと思ったマナに拘束・保護された。
同じ時間軸に現在と未来の同一人物が存在するという時間的矛盾の発生を回避するために、過去の自分であるダイナには記憶喪失という事で通していたが、現在はダイナの思わぬ勘違いによって2人は父子という事になっている。
未来から来た理由は、この先に待ち受ける最悪の未来を変える為だという。
地下資料庫から戻った後、マナはソフィエルから依頼された仕事の報酬の前払いとして、資料庫内に保管されていた遺物の1つを受け取った。
それは古の時代に悪獣と呼ばれていた者達が使用していたとされている物であり、当然外への持ち出しなど許されるはずもないのだが、あろうことかソフィエルはそれを自らの胸の谷間へと隠す事でまんまと運び出す事に成功していたのだ。
斯くしてそんな物を報酬として受け取ってしまい、もはや仕事を放棄する事もできなくなってしまったマナは一度、可愛い弟子達の待つ我が家へと帰宅するのだった。
「──ここまでは良い?父さん。」
「な、なんとか……。」
ダイナの部屋で、向かい合うように互いのベッドに腰掛けながら何か真剣な話をしている様子の弟子達。
マナが出かけている間にデュオスは、ダイナへと未来の出来事についての説明をしようとしていた。
もちろんそれは、何割かの嘘も交えてではあるのだが。
「だから師匠……母さんを今度こそ守れるくらいに、父さんには強くなってもらわないといけないんだ。」
「師匠を、僕が守れるくらいに……。」
自らが師匠を守れるくらいに強くなる、という途方も無く高いハードルを示されるも、とてもそんな姿を想像できないダイナは思わず不安そうな表情を浮かべる。
今までずっと守られる立場だったのに今度はいきなり守る立場になれと言われているのだから、当然の事と言えば当然だ。
「僕にできるでしょうか……。」
そんな当然の不安をダイナが口にした途端それが癪に障ったのか、デュオスは激昂したように突然立ち上がる。
「できるか、じゃねぇよ!やらなきゃならないんだよッ!!……っと、ごめん……。」
「い、いえ……!そう、ですよね……僕が、やらなきゃ……。」
あまりに弱気な過去の自分の態度に思わず声を荒げて怒鳴ってしまったデュオスではあったが、すぐにハッと冷静になってダイナへと謝罪する。
その自分の弱さ、そして甘さが原因で大切な人を守れなかったのだと、身を持って知っているデュオスは、不安そうに俯くダイナへと遠い日の自分の姿を重ねる。
正直に言ってデュオスは、マナにかなり甘やかされて育っていた。
もちろん何でも我儘を聞いてもらえたとかそういう話ではないが、それでも困った時ピンチの時には最終的に師匠が全て何とかしてくれて、それが当たり前だと思っていた。
だがそれでは、ダメだったのだ。
「だからその為に、俺はこの時代に来たんだ……。今度こそ、誰も死なせないために……。」
「デュオスさん……っ。」
強く拳を握って震わせ、誰にでも無く言い聞かせるように語るデュオスの姿に、彼の父親として心を動かされたらしいダイナは、意を決したように立ち上がる。
大切な人との大事な未来を守るため、そして未来から来た息子の想いに立派な父親として応えるために。
「僕、やりますっ!どんなキツい修行でも、勉強でも……師匠を守るためならっ……!」
「それでこそだ、父さん……でも──。」
使命感に燃え上がり、強くなる為にどんな試練にも立ち向かう決意を表明したダイナを見て、デュオスは小さく笑う。
しかしその為にはもう一つ、押さえて置かなければならない重要なポイントが存在していた。
それは──。
「……俺がこの話をしたところ、母さんは父さんをそういう危険な事に巻き込みたく無いって考えてるみたいなんだ。」
「それは……でも、それだとダメ、なんですよね?」
今までもそうして守られてきた立場のダイナとしては、そのマナの親心とも呼べる考えは十分に理解できる。
そしてそうやって頼り切りで甘やかされた結果が、良くない未来に繋がってしまう事も。
「ダメなんてもんじゃない……最悪の場合、師匠は……母さんは父さんと結婚してくれなくなるかもしれない。」
「……えぇっ!?で、でもそれって……そしたらデュオスさんは──!」
ダイナを危険から遠ざけるためにいずれマナがダイナから距離を置き始めるとしたらそれは、本来結ばれる筈の2人が結ばれなくなってしまう可能性を意味している。
さらにそれだけではなく、その間に生まれる筈だった子供の存在そのものさえもが危ぶまれるのではないか、とダイナは考えたのだ。
もちろん、子が生まれる前に親となる人物が消えるとどうなるか、という親殺しのパラドックスの結果がどうなるかなど、現状唯一の時間遡行者であるデュオス自身にも知り得ない事なのだが。
「……ああ、だから何があっても父さんには、絶対に母さんと結婚してもらわないといけない。わかった?(そうしないと、少なくともキャロルは産まれてこれないしな……。)」
「わ、わかりました!何があっても僕、師匠と結婚……け、結婚……師匠と……え、えへへ……。」
「(本当に大丈夫かこいつ……?)」
愛娘の誕生という最低条件を満たしたいデュオスの念を押すような問いかけに、力強く返事を返事をしたのも束の間、ダイナは自分で自分の言葉に照れてしまったらしく、いずれ来るであろうマナとの日々を妄想してニヤニヤし始める。
当人からすれば、大好きな師匠と結婚できる可能性がある事が、未来から来た息子の存在によって証明されたも同然の状態であり、ましてやその息子に絶対に母さんと結婚しろと念押しまでされてしまったなら、まだ見ぬ幸せな夫婦生活を想像してしまうのも、無理からぬ事だ。
そんなだらしない表情を見せる過去の自分に、少しばかり心配になったデュオスが呆れたような目でダイナを見つめていると、突然玄関扉が開く音がして、弟子達の耳が同時にその方向へと向いた。
「師匠、帰ってきたのかな……あっ、デュオスさん!?」
「……師匠っ!おかえりなさいっ!」
「──ぬぁ!?な、なんじゃいきなり……!」
抜け駆けのように先に部屋を飛び出したデュオスが、帰ってきたマナに飛びついて持ち上げ抱きしめる。
熱烈な歓迎に困惑気味なマナを置き去りにして、デュオスが全力でその匂いと温もりを堪能していると、遅れてダイナが階段を慌ただしく降りてくる。
「おかえりなさい、師匠……!。」
「ん、ただいまじゃダイナ。……ほれデュオス、お主はいつまでそうしとるつもりじゃ、さっさと下ろさんか!」
「痛いっ!?」
頑として離そうとしない大きな弟子の腹部へと、脚をばたつかせたマナの痛恨の蹴りが入り、デュオスは渋々と言った様子でようやく彼女を下ろす。
すると今度はダイナが駆け寄ってきて、マナに思い切りハグをした。
「ダ、ダイナ……?(デュオスの真似か……?)」
「師匠っ!僕たち、ずっと一緒ですからね……!」
「……ああ、もちろんじゃよ。(少し不安にさせてしまったか……?)」
やけに興奮気味な様子で唐突にそんな事を言い始めたダイナに、何か勘違いしたらしいマナが力いっぱいにダイナを抱きしめ返した、その時。
「──んっ!?」
「師匠!?」
「!?」
マナの懐に仕舞われていた何かが突如として振動し始めて、彼女の身体を震わせる。
それに彼女が慌てて懐からそれを取り出すと、それはソフィエルから前払いとして貰った円盤状の遺物だ。
円盤は中央にはめ込まれた宝石のような部分から謎の光を放っており、やがて空中へと何かを映し出し始めた。
「……これは何かの、幻影……か?」
それはこの円盤の中に封じられていたであろう、何かの記録映像のようだった。
光を放ち続ける円盤を慎重に机の上へと置いたマナは、光へ恐る恐る羽ペンを何度か当ててみて、それに実体が存在しない事を確認する。
しかしその映像は長い年月によって劣化してしまっている為か音は無く、浮かぶ像も酷く乱れノイズ混じりの状態だ。
「……あっ、師匠!誰か映ってますよ!」
獣耳をぴこんと立てて真っ先に反応を示したダイナが、映像の中の人影らしき物を指差す。
そこに映し出されていたのは、長い青髪にダイナ達と同じような獣耳と、頭部に2本の角を持った成人女性らしき人物だ。
古い時代のエルフ達が悪獣と呼び恐れていたらしいその姿は、マナの目には良く見知った幻魔族のものに見えた。
その幻魔族らしき女性は片側の角が折れてしまっていて、酷く体調が悪そうに時折咳き込んだりしながらも、必死に誰かに何かを伝えるように口を動かしている。
「……?何を喋っているんでしょうか……?」
しかし肝心の音声が入っていないため、その女性が何を伝えようとしているのかまではわからない。
それでもノイズ混じりの映像の後ろの方で、屋内の壁か何かが激しく燃えているような様子からして、尋常ならざる状況下において記録された物である事は確かなようだ。
そして再びその女性が酷く咳き込んだのを見て、マナは何かを察したように一瞬顔を顰めた。
「……師匠、これって──。」
「ああ。……ダイナ。」
「はい?どうしました──か?」
少し遅れてその映像が何を映した物であるかを大凡理解したらしいデュオスは、少し緊張したような声色でマナへと確認するように問いかける。
するとマナは短く返事をしてダイナへ声をかけると、振り向いたダイナを突然強く抱きしめ始めた。
「し、師匠……っ!?」
「……、……。」
「っ……。」
突然の事に困惑気味なダイナをしっかりと抱きしめ離さないようにしながら、マナはその映像の続きを睨みつけるようにしっかりと目に焼き付ける。
三度激しく咳き込んだ女性の、目や鼻そして口から流れ出始める赤い液体。
彼女はもがき苦しむように首をかきむしり、やがて泡を吹いて倒れ込むように映像からフレームアウトする。
ああ、これがソフィエルが話していた件の毒かと、マナはその映像から全てを理解した。
そのあまりに惨い光景に、何かがこみ上げるような気持ち悪さを覚えたデュオスが、口元を押さえ思わず目をそらした、その直後。
突如として燃える室内へ、扉を蹴破るようにして新たな人影が現れた。
「……!」
人影の特徴的なシルエットにマナは僅かに目を見開く。
最初に映っていた女性の物とは明らかに異なる、横に長く伸びたような尖った耳の形、それは明らかに見慣れたエルフ種の耳だ。
口元をマスクのような物で覆い、粗雑な革製の鎧らしき物に身を包んだそのエルフ男は、手にしていた剣を地面へ向けて振り下ろすと、鎧が飛沫によって赤く染まる。
それから、男は何かを確認するように何度か剣で地面を突付いた後で、円盤の存在に気がつくと、その翡翠色の瞳で訝しげに円盤を覗き込んだ。
「(この瞳の色……まさか──。)」
どこかで見覚えのあるようなその瞳に、マナが一つのある可能性を考えた、その時。
円盤の中央部にはめ込まれていた青い宝石に突如として亀裂が走り、同時に放出していた光が明滅を始め、やがて映像と共に消えてしまう。
「師匠……あの?わっ!?」
「……デュオス、円盤をワシの部屋に。」
「はい、師匠……。」
不思議そうに首を傾げて机の方を振り向こうとするダイナの顔を、両手で掴んで自分の方へと固定すると、マナはデュオスへと短く命じる。
これを見せるには、ダイナはまだ幼すぎると判断したからだ。
デュオスが円盤を持っていったのを確認した後、マナは少し涙ぐんだような瞳でまっすぐにダイナを見つめ始める。
「……師匠?」
「っ……すまぬ。なんでもない……なんでもないのじゃ。」
「……??」
涙に揺れるマナの瞳につられて、わけもわからず不安げに揺れるダイナの赤い瞳。
そんな小さな弟子の表情に少し冷静さを取り戻したマナは、一度強く瞼を閉じると再びダイナを抱きしめる。
この子だけは何があっても自分が守らねば、と強く決意を固めるように。




