プリーズ・プリーズ・ミー
突起した乳首を指先で弾くと、悶えながら言われた。
「スキだよ」
嬉しくなって首元で、オレもだよ、と言った後、はたと思って動かすのをやめた。
「こういうことするのがスキなの?」
彼女は目を閉じたまま含み笑いをして、
「スキな人とするのがスキなの」
と言った。肩胛骨に唇をあてながら、徐々に彼女の口までキスをしようと迫った。唇まであと一歩のところで彼女は目を開け、顔を背けた。
「口はダメ」
口惜しくなって彼女の顔の唇以外の至る所にキスをした。
「彼氏がいる人はみんなそう言う」
酒を飲み過ぎたせいで明け方になって目が覚めた。加えて隣の部屋から聞こえてくる下手な歌い手のカラオケ音が睡眠の邪魔をした。横では彼女が微かな呼吸で眠っている。錆びついた身体を動かし、洗面所に向かった。ボサボサした真新しい歯磨きスティックで汚れた口内と気分を払拭させ、水を、薬を飲むみたいにグイと無理に流し込んだ。
ベットに戻ったが寝付けなかった。眠っている彼女にキスをした。酒臭くて罪悪感の味しかしなかった。
顰めっ面をして瞼を閉じると、余計に耳が冴え、隣の騒音が頭に響いた。低い声の男が裏声を必死に出そうとしている情景だった。どこかで聞いたことのある曲だと思い記憶を探っていると、それがビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」であることを知った。この曲はフェラチオを示唆している、とある専門家は指摘している。
もう一度確かめたくて彼女にキスをした。
(完)