1月28日:魔道具の展示即売会の日
「今日は魔道具の展示即売会の日だぞ、準備はいいか?」
アストルが工房の扉を開け放つと、山積みの小箱やら奇妙な器具やらがごろごろと転がっている。
「パパ、早く行こうよ! あたし、学院の課題で新しい魔法の発動実験をしたいんだ」
フィオナが急かす。彼女の背には小さなキャリーケースがあり、中には謎のポーションやら見慣れない本がぎっしり。
「そんなに急かさないでくれ。ほら、例の“落ちない箒”がまだ試運転できてない」
アストルは箒を手に取って一度跨ぐが、箒の柄が不規則に震えだし、思わず落ちそうになった。
「パパったら、前もそれで壁に激突しかけたのに……。ちゃんと動くの?」
フィオナが呆れたように笑う。
「大丈夫、きっと……たぶん」
そうぼやくアストルに、ルミナが明るい声で呼びかけた。
「ほらほら、みんなで協力すれば間に合うわ。あたしは商品の名札をつけるわね。『自動クリーニング鍋』とか『ボヨンボヨン拡大魔法ランプ』とか、一目で名前が分かるようにしなくちゃ」
「ボヨンボヨン拡大魔法ランプ? なんかへんてこだけど、ウケそうだな!」
レオンが飛び跳ねながら、わざと大声で商品名を繰り返す。するとレオンの声に反応したのか、ランプが軽くピカッと光る。
「やめろレオン、下手に反応して暴走したら大変だ」
アストルが慌ててランプを抱え込む。
「うふふ、面白い!」
クリスがぱちぱちと拍手をすると、彼女の周囲に小さな星の幻影がくるくる回り出す。「スノー、見てごらん!」
「キュー……あ、あぶな、くすぐったい!」
肩にとまっていたスノーがくるりと羽を広げ、風魔法のそよ風を吹かせて幻影を散らす。
「さて、みんな乗れ! 今日は会場までうちの家族用馬車じゃなくて、新しく改良した『浮遊トランクカー』で行こう」
アストルが得意げに言うと、子どもたちは目を輝かせる。
「前の やつ は、車輪が途中で消し飛んだんだよな」
フィオナがこっそりつぶやくと、レオンは笑いをこらえきれない。
「もう大丈夫だ。グレゴールじいさんもこっそり手伝ってくれたからな。ほら、何やら難しそうな呪符がいっぱい貼ってあるだろ?」
アストルが指さした車体の側面には、古代文字がびっしり刻まれた札が貼りついている。
「アストル、そろそろ行くわよ。先に車に乗って!」
ルミナが声を張り上げる。家族がぞろぞろとトランクカーに乗り込むが、乗った途端、車体がわずかに浮き上がり、みんながわっと歓声を上げた。
「うわぁ、こりゃすごいな。ちゃんと浮いてるじゃない!」
「すごいすごい! 早く会場に行こう!」
子どもたちがわいわい騒ぐなか、アストルがエンジン部分に魔力を込める。
「よし、いくぞ……発進!」
軽い浮遊感とともにトランクカーは前へ進み出す。目指すは街の中央広場の特設会場。今日は一体どんな賑わいになるのだろうか。ワクワクと胸を高鳴らせながら、フレイメル家は魔道具の即売会へと向かっていく。
すると、肩に乗っていたスノーが小声で鼻を鳴らすように言った。
「ふん……魔道具がどれほど売れるか知らないけど……まあ、あんたたちがドタバタしてるほうが、退屈しなくて済むからいいんだよ」