3月31日:変身祝祭の日(了)
「さあ、ついに今日は『変身祝祭の日』よ!みんな準備できた?」
ルミナが朝からウキウキとリビングで声を張り上げる。
「もちろんよ、母さん!今日は一年で一番ワクワクする日なんだから!」
フィオナは早くも魔法ポーションを並べて興奮気味だ。
「お、おれだって準備万端だぜ!今日は絶対にかっこいい冒険者に変身するんだから!」
レオンは木の剣を振り回しながら、元気いっぱいに叫ぶ。
「レオン、剣を振り回さないの!」
ルミナが笑いながら制止すると、クリスが飛び跳ねながら現れた。
「クリスもお姫さまになる!うふふ、面白い!スノー、あれ見てごらん!」
幻影魔法で蝶を出すクリスを見て、スノーは少しだけ優しく目を細める。
「やれやれ、賑やかなやつらだな…」
工房から出てきたアストルが、みんなの様子を見て微笑む。
「今日は特別だ。昔、冒険者時代に手に入れた『真実の鏡』を使おうじゃないか」
「『真実の鏡』?」
フィオナが不思議そうに尋ねる。
「ああ。人の心の奥にある『本当の姿』を映し出すんだよ」
アストルが得意げに箱を取り出した。
「じゃあ、みんなで順番にやってみようよ!」
レオンが目をキラキラさせながら提案する。
リビングの中央に置かれた『真実の鏡』。
アストルがスイッチを押すと、淡い光が家族を包んだ。
まずはフィオナの姿が変わった。
「すごい……!」
現れたのは炎を自在に操る、美しい魔法研究者の姿だ。
「やっぱり私の本当の姿は、魔法の研究者だったのね!」
次にレオン。
「わあ、かっこいい騎士になった!」
レオンは立派な騎士の姿だが、やっぱり腰にはお気に入りの木の剣がぶら下がっている。
「やったぜ!おれだって、いつか世界を股にかける冒険者になるんだ!」
クリスは小さくて可愛らしい妖精になった。
「きゃー、羽が生えてる!飛べるよ!」
クリスが嬉しそうに飛び回る。
ルミナの姿が変わると、周囲に柔らかな光が満ちた。
慈愛に溢れた優しい女神の姿だ。
「ふふ、やっぱり私は家族を癒す存在なのね」
グレゴールが興味津々に鏡を覗くと、かつての魔術研究員らしい知的な魔術師の姿が現れた。
「ふむ。わしの本質はやはり研究者ということかのう」
「さあ、父さんは?」
レオンが期待を込めて言うと、アストルの姿は魔具を持った職人そのままの姿だ。
「おっと、やっぱり俺は修理屋が天職みたいだな」
家族みんなが笑った。
すると最後にスノーが鏡の前に降り立った。
スノーが光に包まれると、なんと凛々しい翼を広げた白い大鷹の姿に。
「へぇ…ボクもなかなか立派じゃないか」
家族みんなが歓声を上げた。
夕方、一家は街の広場へと向かう。
広場は、竜に変身した少年、虹色の羽を広げる少女、踊る妖精、楽しそうな笑い声と音楽に包まれていた。
「あぁ、なんて幸せな日なんだろう」
ルミナが感慨深げにつぶやく。
「こうして家族みんなで、ほんとうの姿を楽しめるなんて素敵だな」
アストルも静かに頷く。
「ねえ、みんな、写真を撮ろうよ!思い出になるし!」
フィオナが提案すると、グレゴールが小さな魔法陣を描いた。
「写真魔法『記憶の結晶』じゃな。ほら、並んで並んで!」
家族全員が笑顔で並ぶと、小さな光が弾け、美しい家族の姿が魔法の結晶に刻まれた。
夜になり家に戻ると、クリスは眠気に耐えられず、ソファで寝息を立てる。
フィオナとレオンもいつのまにかウトウト眠ってしまった。
静かになった家で、ルミナとアストルは子供たちの寝顔を眺める。
「こうして、家族みんなが自分らしく過ごせる日々が続くといいわね」
ルミナが囁く。
「ああ、きっと続くさ。俺たちは家族だから」
アストルが優しく返す。
窓辺で静かに見守っていたスノーが小さくつぶやく。
「やれやれ、どんな姿になっても騒がしい家族だよ。だけど……」
そしてスノーは、満天の星空を見上げて微笑んだ。
「まあ、それこそがお前たちの『ほんとうの家族』の姿だな。ずっと一緒にいてやるよ、仕方ないからさ…」(了)




