3月27日:仮面演劇の日
「今日は『仮面演劇の日』よ!」
朝からルミナの明るい声が家中に響き渡った。
「え?仮面演劇って何するの?」
レオンが朝食のパンを頬張りながら尋ねる。
「街中で旅芸人や劇団が仮面をかぶって演劇をする日なの。みんなも仮面をつけて参加するのよ。心を隠して、素直に演じる楽しみがあるのよ」
フィオナが目を輝かせながら答えた。
「へぇ〜、楽しそう!」
クリスがにこにこと笑った。
アストルは自慢げにうなずく。
「実はな、俺が昔冒険者だった頃に手に入れた不思議な仮面があるんだよ」
「また変なものを出してきて!」
フィオナが苦笑しながらツッコミを入れたが、アストルはすでに宝物庫から怪しげな仮面を取り出していた。
その仮面は銀色に輝き、不思議な魔力を帯びていた。
「この仮面はな、かぶった人の『心の声』を言葉にしてしまう魔法がかかっているんだ」
「えーっ!?そんなの困るよ!」
レオンが驚きの声をあげる。
「でも面白そうじゃない?」
フィオナはニヤリと笑いながら仮面を掴み取る。「こんな面白そうなの、試さないわけにはいかないでしょ!」
「ちょっと待って、フィオナ!」
ルミナが慌てて止めようとしたが、フィオナはもう仮面を顔につけてしまった。
瞬間、フィオナの口から勝手に言葉が溢れ出す。
「ああ、ほんとは新作ポーションの調合、昨日失敗しちゃって…恥ずかしくてみんなに隠してる!」
「ぷぷっ、何それ!」
レオンが大笑いすると、フィオナは真っ赤になりながら仮面を引き剥がした。
「うわ、これは危険な仮面だわ!」
フィオナは赤面しつつ、仮面をアストルに押し返す。
「やっぱりやめた方がいいか…?」
アストルが考え込んでいると、グレゴールが地下室からゆっくりと姿を現した。
「いやいや、むしろ今日はこれを使って街の演劇に参加してみたらどうじゃ?」
祖父の提案に、家族はぎょっとした。
「だって、心の声が筒抜けだよ?」
レオンが恐る恐る聞く。
「そうさ、だからこそ本音で話せば、面白い劇になる。これは心を通わせる仮面だからな」
グレゴールは飄々と笑った。
一家は迷ったものの、好奇心には勝てず、結局仮面を持って街の広場へと出かけることにした。
広場は仮面をかぶった人々で溢れかえり、劇団が次々に即興の演劇を披露していた。
「さあ、次はこの仮面をつけて誰か参加しませんか?」
司会者がアストルの仮面を見て興味を持ったらしい。
「うーん、じゃあ俺が…」
レオンが仮面を手に取り、思い切って舞台に上がった。
仮面をつけるとすぐに、彼の口が勝手に動き始めた。
「ほんとはおれ、剣よりも魔法が得意になりたいんだ!でもなかなか言い出せなくて…」
「えっ?レオン、そうなの?」
観客席のフィオナが驚いて声を上げる。
レオンは顔を真っ赤にして仮面を外した。
「うわぁぁ、恥ずかしい!でも…スッキリしたかも!」
会場は暖かい笑い声と拍手でいっぱいになった。
次はフィオナが仮面をつける。
「ああ、実はお父さんの修理の技術に憧れてるの。でも素直に認めるのが恥ずかしくて…」
アストルが驚きつつも嬉しそうに頬を緩ませる。
「そうだったのか、フィオナ。お前ならきっと素晴らしい職人になれるぞ!」
家族は交互に仮面をつけ、自分たちの知らなかった本音を聞いて笑い合い、会場は優しい空気に包まれた。
夕方、家族は笑いながら家路についた。
「たまにはこうして本音を話すのもいいね」
レオンが照れくさそうに言った。
「そうね、素直になれるのも仮面のおかげかもしれないわ」
ルミナも笑顔で頷く。
クリスがスノーを見上げて小声で囁いた。
「ねぇ、スノーも仮面つけてみる?」
スノーはぷいっと顔を背け、翼をパタパタさせながら呟いた。
「バカ言うな。ボクはいつでも本音しか言ってないぞ」
少し間をおいて、スノーは小さく、
「まあ、あんたらのドタバタには、付き合うのも悪くないけどな」




