3月23日:気象魔術師の日
朝から窓の外をぼんやりと眺めていたレオンが大きくため息をついた。
「なんだよ、この天気。『気象魔術師の日』だってのに、朝から土砂降りだなんて……」
フィオナが魔法学院の本をパタリと閉じ、呆れ顔で言った。
「あんたね、今日がなんの日だか知ってるなら文句言うより感謝しなさいよ。この雨は魔術師たちが農作物のためにわざわざ降らせてるのよ」
「でもさ、今日は外で剣術の練習する約束だったんだ? 土砂降りだとつまんないじゃん」
するとルミナが台所から顔を出し、明るく笑った。
「まあまあ、今日は気象魔術師さんに感謝を伝える日だもの。ちょっとくらい我慢しなさい」
そんなやり取りを聞いていたアストルが工房から顔を覗かせた。
「そういや昔、冒険者仲間にも気象魔術師がいたな。風雨を操ってモンスターの群れを散らしたり、畑を潤したり……あれはすごかった」
レオンは目を輝かせて飛び跳ねる。
「ねえ、父さん! オレにもそんな魔法できるかな?」
「お前はまず普通の呪文をちゃんと覚えろ。日常の小さな呪文が苦手なんだから」フィオナが横槍を入れ、レオンはむっとして肩をすくめた。
「いやいや、今日はせっかくだから家族で『ありがとう』を伝えようじゃないか。ルミナ、例の魔法ポーションは完成してる?」
アストルの問いかけにルミナが笑顔で頷いた。
「もちろんよ。『感謝の雫』を調合したわ。これを庭で空に向けて撒くとね、感謝の気持ちが気象魔術師さんに届くらしいの」
「面白そう! 早くやってみようよ!」クリスがスノーを抱きかかえ、嬉しそうに言う。
庭に出て、ルミナが瓶の蓋を開けると、透明な雫がふわりと空に浮かび上がり、雨粒と混じり合って美しい虹を作り出した。
「うわぁ、すげえ!」レオンが興奮して叫ぶ。
「ふふ、これなら気象魔術師さんにも私たちの気持ちが伝わるかしら?」ルミナは微笑みながら虹を見上げる。
フィオナも感心したようにうなずいた。「うん、いい感じね」
すると突然、空から小さな手紙がひらひらと舞い降りてきた。フィオナが拾い上げると、そこにはこう書かれていた。
『感謝の虹、受け取りました。あなたたち家族の笑顔が見られて嬉しいです。――気象魔術師一同より』
家族は顔を見合わせて思わず笑った。
すると突然、クリスが大きな目を輝かせて言った。
「ねえねえ、この雨、幻影魔法でお花とか動物にできたらもっと楽しくならない?」
フィオナは目を輝かせて頷いた。「それは素敵なアイディアね!試してみましょう!」
二人は早速杖を取り出し、小声で呪文を唱え始める。すると雨粒が次々と小さな幻影のお花や動物に姿を変え、庭を色とりどりに飾りはじめた。
「すごい!まるで夢の世界だ!」レオンが感激して走り回る。
スノーがそんなレオンを見下ろし、羽を少し広げて言った。
「まったく、いつもドタバタしやがって。お前たちのおかげで、ボクは落ち着いて休めないな」




