3月6日:大冒険の日
「今日は“大冒険の日”だって! 冒険者ギルドで世界一周を成し遂げた人たちを讃えるお祭りがあるらしいよ!」
朝食の席でレオンがパンをくわえながら声を弾ませる。フィオナは魔導端末を眺めつつ、興味津々に顔を上げた。
「世界一周ってすごいよね。父さんも昔は冒険者だったんでしょ? 何かそういう大きな旅をしたことあるの?」
フィオナがアストルを見やると、アストルは苦笑いで首をかしげる。
「いや、俺はそこまで大規模じゃない。山越えや砂漠越えはしたけど、さすがに海を渡って世界一周とはいかなかったな。だけど、冒険者ギルドは懐かしいなぁ」
「ねえ、ちょうどお祭りならギルドに行ってみようよ!」
ルミナが明るい声を上げると、クリスも「スノー、一緒に行こう!」と手を振る。肩にとまっていた白い鷹のスノーは、気だるそうに翼を小さく広げた。
「フン……興味ないけど、退屈よりはマシだろう」
――昼すぎ、家族は冒険者ギルドが特設した祭りの会場にやってきた。広場には各地を巡った旅人たちが集まり、それぞれ冒険談を語っている。
「うわー、やっぱり活気があるね! なんだかワクワクする!」
レオンがそわそわと歩き回る。フィオナは学院の友達に見せようと、ポーションの小瓶をバッグにしのばせていた。
「あら、あっちに展示されてる魔導地図、すごく大きいわね!」
ルミナが指差した先には、立体的に大陸が浮き上がる不思議な地図があった。アストルが少し目を細めて感心する。
「ほう、これは“へんてこ航海再現魔法”が組み込まれた立体地図らしい。昔の船乗りが辿った航路を投影できるんだと」
「へんてこ航海再現魔法!? そんな楽しそうなもの、試してみない手はないね!」
フィオナが立体地図に触れると、淡い光が漂い始める。
「ちょ、ちょっと待ってよ、フィオナ。また変なことになるんじゃ……」
アストルが止めるまもなく、地図から突然大量の水しぶきが飛び出した。さらに小さな船の幻影が会場をぐるぐる走り回り、あちこちにぶつかる。
「うわっ、足元が濡れる! っていうか、船が勝手に走ってる!?」
レオンが必死に船の幻影を追いかけるが、船は一瞬にして増殖し、小さな波しぶきまでまき散らし始めた。
「まさか“増殖航路バグ”でも起きてるのかしら……! ちょっと誰か止めて!」
ルミナが焦って周囲を見回す。ギルドのスタッフが呪文書を手に駆け寄るが、船の動きは予想以上に速い。
その時、クリスがすっと手を挙げた。
「わたし、幻影魔法で船の動きごと止めてみるよ!『イタズラ停止の渦』!」
クリスの小さな呪文が放たれると、波や船の幻影が吸い寄せられるように一塊になり、ふわりと宙で静止した。
「すごいじゃないか、クリス!」
アストルが驚きと喜びの声を上げると、クリスは得意げに微笑む。
「えへへ、いつも家でイタズラして怒られてるけど、ちょっとは役に立つでしょ?」
かくして場は落ち着きを取り戻し、ギルドスタッフたちは船の幻影を丁寧に回収していく。フィオナは申し訳なさそうに頭を下げ、レオンは「いやー、でも本物の冒険みたいで面白かった!」と大はしゃぎ。
「はあ、やっぱりフレイメル家のやることは一筋縄じゃいかないわね……」
ルミナが苦笑いすると、スノーが柱の上から冷ややかに一言。
「大冒険でも、ドタバタ確定。ま、退屈はしないけどね…」




