3月1日:風精霊感謝の日
「おはよう、みんな!今日は『風の精霊感謝の日』よ!」
ルミナが朝食の席で陽気に声を上げると、フィオナがパンをかじりながら顔を上げた。
「春の嵐が始まる時期だから、精霊にお供えをするんだよね?」
「そうそう。風の精霊たちが、災害を和らげてくれるようにお祈りするの」
ルミナが微笑みながら説明する。
「へぇ~、じゃあ今日は何か特別なことするの?」
レオンがスープをすすりながら尋ねる。
「そうね。お供えを準備するのと、あとで風の祭壇までお参りに行くわ」
「へええ、楽しそう!」
クリスがスノーを抱えながらぴょんぴょん跳ねる。
「スノー、風の精霊さんって、どんな姿してるの?」
スノーはクチバシを鳴らしながら、つまらなそうに言った。
「風、見えない…たぶん、ボクより静か…」
「スノーが風の精霊だったら、嵐ばっかりになりそうね」
フィオナがくすっと笑うと、スノーが「フン」と鼻を鳴らした。
午後になると、家族は風の祭壇へ向かうことにした。
「お供えは準備できた?」
ルミナが確認すると、アストルが大きな籠を抱えて頷いた。
「風の実、香草、あと精霊が好む香りの花も入れておいた」
「おれ、剣も持って行こうかな!風の精霊にカッコイイ剣技を見せるんだ!」
レオンが木剣を肩に担いでいる。
「いや、今日戦う必要ないから」
フィオナが呆れながら言うと、レオンは少しシュンとした。
祭壇に着くと、風が心地よく吹いていた。
ルミナが祭壇の前で手を合わせ、フィオナとクリスも真似をする。
「風の精霊さん、今年もよろしくお願いします!」
レオンは真剣な顔で木剣を掲げ、
「おれの剣さばきを見てくれ!」
と勢いよく振った。
すると、突然強い風が吹き上がり――
「うわぁぁ!?」
レオンの木剣が風にあおられて飛んでいった。
「ちょっと!? 精霊さん、そんなお返しは聞いてないわよ!」
フィオナが叫ぶが、風はさらに強まり、祭壇の上の供え物がふわりと舞い上がる。
「キャーッ!」
クリスが歓声を上げる。
「ねえねえ、精霊さん、お供え食べてるの?」
「いや、これは単に風が強すぎるだけじゃ……」
アストルが冷や汗をかきながら答える。
「風の精霊、食いしん坊?」
スノーが低く飛びながら呟いた。
供え物はあちこちに飛び散り、レオンの木剣はどこかへ消えてしまった。
「ど、どうするの!? せっかくのお供えが全部風に……」
ルミナが焦る。
「ちょっと待って、これはもしかして“風の遊び魔法”が発動してるのかも!」
フィオナが閃いたように叫んだ。
「なにそれ?」
レオンが目を輝かせる。
「昔、風の精霊が気に入った人間と遊ぶために、お供えを舞い上げるって話を聞いたことがあるの」
「えっ、じゃあ精霊さん、私たちと遊びたいの?」
クリスがワクワクして手を振る。
すると、再び風が強く吹き、ふわふわと舞い落ちてきた供え物が、家族の周りに円を描くように流れていく。
「おお、これ……風のダンスってやつか?」
アストルが目を細める。
「せっかくだから、一緒に踊っちゃおうよ!」
レオンが嬉しそうに叫ぶと、フィオナも苦笑しながら頷いた。
「はぁ……しょうがないわね。じゃあ、お供えが落ちてくる前にキャッチしましょうか!」
家族みんなで、風に舞う供え物を楽しみながら受け取る。
なんだか不思議な感覚だった。
「いや~、いい運動になったな!」
レオンが息を切らしながら笑う。
「風の精霊さん、私たちと遊んでくれてありがとう!」
クリスが祭壇に向かって手を振ると、ふわっと優しい風が吹いた。
「なんか……精霊さんの“お返し”だったのかもしれないわね」
ルミナが微笑む。
「まあ、災害を防いでもらえるなら、ちょっとくらい遊びに付き合うのも悪くないか」
アストルが肩をすくめる。
スノーは、家族の肩にとまりながら小さく呟いた。
「……精霊と遊ぶのもいいが、あんたたちは普段から十分ドタバタしてる……」




