2月25日:甘い宝石の実験の日
「ねえ、お父さん!」
フィオナが工房に勢いよく入ってきた。テーブルの上には、いろんな形のナッツとカラフルなチョコレートが所狭しと並べられている。
「今日は“甘い宝石の実験の日”でしょう? ナッツにチョコをコーティングして、味や食感がどう変わるか試したいの!」
アストルは苦笑いしながら工具を片付ける。
「おまえの実験魂はいつも全開だな。危なくないように頼むぞ」
「大丈夫よ。今回はそんな大きな魔法は使わないし」とフィオナ。
そこにレオンが鼻歌まじりでやってきた。
「へへ、チョコレートならオレも手伝いたい! こないだ母さんが買ってきたスパイスも混ぜたら面白そうだし!」
ルミナはキッチンの隅で薬草を束ねながら笑う。
「そうね、せっかくなら風味もいろいろ試してみようか。わたしは回復術士だけど、美味しいものを作るのも大好きよ」
クリスは椅子によじ登ってナッツを見つめている。
「フィオナ、これ、どんな味になるの? スノーも食べられるかな?」
スノーは棚の上からクチバシで翼を整えながら、そっぽを向いて一言。
「ボク、甘いもの、別に興味ない……」
「まあまあ、出来上がったら一口だけ味見してよ」フィオナが笑って返す。
実験は順調に進むかと思いきや、フィオナが取り出したのは怪しげな小瓶。「ブレンドコート・エクスパンション」という、チョコの膜を伸ばすためのへんてこ魔法液らしい。
「これを少し垂らして……よし、ナッツを浸してみましょう」
フィオナが慎重に作業を進めると――ボコッ!
チョコが急激に膨れ始め、隣のナッツまで吸い込んでしまった。
「わ、わわっ! まだ全然固まってないのに、チョコの海になりかけてるよ!」レオンが慌てて叫ぶ。
「うそ、こんなに広がるはずじゃなかったのに!」
フィオナが魔力で抑え込もうとするが、コーティング魔法が暴走し始め、チョコが液体のまま足元にまでじわじわ広がっていく。
「やだ、床がチョコまみれ!」ルミナが頭を抱える。
「ここまできたら回復魔法じゃどうにもならないわね……」
するとアストルが、「待ってろ、昔集めた『甘味封印の札』があったはずだ」と宝物庫を漁り始める。
「これだ! いくぞ――“封印の呪ッ!”」
札をぺたりと貼り付けると、チョコの広がりはピタッと止まり、床一面に広がりかけたチョコが縮んで元の塊に戻っていった。
「ふう、助かった……」フィオナは額の汗を拭う。
「でも、ナッツとチョコはくっついたまま、謎の巨大な固まりになっちゃったわね」
「あら、これはこれで面白い形じゃない? ちょっと宝石っぽくも見えるわ」ルミナが笑顔で固まりを眺める。
「な、なんだかゴツゴツのチョコ塊だけど……食べられるのかな」レオンが恐る恐る割ってみると、中には香ばしいナッツがしっかり閉じ込められていた。
「案外イケるかも。ほら、クリス、ひとかけら食べてごらん?」フィオナが渡すと、クリスは嬉しそうにかじってみる。
「わあ、甘くておいしい!」
一部始終を見ていたスノーが、棚からひらりと飛び降りてアストルの肩にとまる。
そして、ツンとした声でつぶやいた。
「……まったく。ドタバタ作るお菓子は、甘くても苦い教訓ばっかり、だね」




