2月24日:正義の仮面舞踏の日
「今日は“正義の仮面舞踏の日”だよ!」
朝からレオンが声を弾ませてリビングに駆け込んできた。どうやら街で伝説の仮面ヒーローを讃えるショーがあるらしく、子どもたちは大盛り上がりだ。
「そりゃ楽しそうね。お父さん、あなたも行くんでしょう?」
ルミナがキッチンでスープをかき混ぜながらアストルに声をかける。アストルは愛用の工具を整理しつつ、微笑んだ。
「もちろんさ。工房の修理が一段落したから、せっかくだから家族みんなで見に行こう。仮面ヒーローショーなんて久しぶりだな」
「おれ、仮面ヒーローみたいにカッコよくなりたい! 剣を持って大悪人を倒したいんだ!」
レオンはテーブルの上で小さな木の剣を振り回す。するとフィオナがすかさず指摘した。
「ちょっと、レオン、その剣は危ないからやめなさい。家の中で振るものじゃないでしょ」
「えぇ~、だってヒーローみたいにキメたいんだもん!」
そこにクリスがひょっこり登場し、「スノー、見て! 『仮面ごっこ』して遊ぼうよ!」と話しかける。彼女の手には紙で作った小さな仮面がいくつもあった。
「ボク、興味ない…」
スノーは相変わらずツンとした態度で目をそらすが、クリスは嬉々として仮面をスノーの頭に乗せようとする。
「まぁまぁ、スノーも付き合ってやれよ。今日は特別だからさ」
アストルが笑いながら言うと、スノーは仕方なさそうに翼をぱたつかせた。
――昼ごろ、家族は街の広場へ向かった。そこでは仮面ヒーローに扮した人々がステージで殺陣を披露し、観客は大歓声を上げている。
「すごい! 本当に悪役が出てきてるみたい!」
フィオナが袖を引きながら興奮気味に話す。レオンも「勝手に入って戦っていい?」と言い出す始末だ。
「ダメに決まってるでしょ!」
ルミナは苦笑いしながら息子を引っ張り、なんとか客席に戻す。
そのとき、アストルの目が怪しく光る。“正義の仮面”と似たデザインの壊れた仮面を宝物庫で見つけていたのを思い出したのだ。
「実はさ、ちょっと面白い魔法を仕込んだんだ。『仮面同調魔法』っていってね。仮面に触れた相手と、動きがシンクロするらしい」
「へぇ~、どんなもの?」
レオンが興味津々で仮面を手に取る。そこへ「面白そう!」とフィオナも乗り出してきて、二人同時に仮面の裏を覗き込んだ――瞬間!
「うわっ……?」
二人の身体がピクンと震え、一斉にクルッと回転。まるで鏡を見ているかのように同じポーズを取り合う。
「お、おもしろい! でも勝手に動いちゃう!」
フィオナが困惑顔のまま踊り始めると、レオンも同じ動きを止められない。
「これ、何か解除方法はないの?」
ルミナは目を白黒させる。アストルは慌てて仮面を取り上げようとするが、仮面がさらに暴走。二人はステージに飛び乗ってしまい、仮面ショーの悪役役者たちと入り乱れる形になった。
「うわー! 何だあのペアダンス!? めっちゃ華麗だぞ!」
観客が盛り上がる中、フィオナとレオンは必死に「こんなの聞いてない!」と叫びつつ、コミカルな動きで悪役と追いかけっこをしている。
「ちょ、笑いすぎてお腹痛い……」
クリスは涙を流して大笑い。スノーはステージ脇で大きく羽を広げ、「フン、こいつら目立ちたがりだな……」と呟いている。
最終的にアストルが勇み足でステージへ上がり、“修理屋の技”を駆使して仮面の魔力を解除。フィオナとレオンは倒れこむようにステージから飛び降り、会場からは拍手喝采が起きた。
「はあ、もうぐったり……でも、ちょっとヒーロー気分味わえたかも」
レオンがヘロヘロになりながら笑い、フィオナも「バカだけど、ちょっと楽しかったわね」と肩をすくめる。
するとスノーが、観客の喧騒が少し落ち着いたタイミングでスッと飛び降り、一言。
「……あんたたち、派手に踊りすぎ。ま、退屈はしないけどね」




