2月21日:空中回廊体験の日
「うおおおおお!!」
レオンの叫び声が、空高く響き渡った。
「ちょっ……レオン、そんなに暴れないで! 落ちるわよ!」
フィオナが必死に手すりを掴みながら、横で暴れる弟を押さえつける。
「だって! この観覧車、普通じゃないんだもん!」
レオンの目の前には、宙に浮かぶ透明な回廊。魔法で作られた空中通路が観覧車のゴンドラと繋がり、まるで空の上を歩いているようだった。
「これが《空中回廊魔法》ね。観覧車と連動してるから、私たちの動きに合わせて足元の透明な床も動く仕組みみたい」
フィオナが感心したように説明する。
「ふーん……まあ、確かに幻想的で面白いけど……」
ルミナが横で腕を組みながら、ちらりと下を覗く。
「ああ、やっぱりちょっと怖いわね。うっかり足元を見たら吸い込まれそう」
「今すぐ視線を前に戻した方がいいよ。そうじゃないと――」
「ひゃああああ!!」
フィオナの忠告が遅かった。ルミナは完全に足がすくみ、アストルにしがみついた。
「ルミナ、大丈夫か?」
アストルは落ち着いた声で言いながら、妻を支える。
「だ、大丈夫じゃないわよ! こんなに高いところで、透明な床を歩くなんて聞いてない!!」
「そういうアトラクションだからな」
アストルは苦笑いしながら、自分も慎重に足を踏み出す。
一方、クリスは大はしゃぎ。
「わーい! スノー、ほら見て! お空の上をお散歩してるみたい!」
クリスは透明な回廊をぴょんぴょん跳ねながら進んでいた。
「……調子に乗ると危ないぞ」
スノーがフィオナの肩にとまり、警戒するように言った。
「ねえ、パパ、この回廊ってどれくらいの高さなの?」
レオンが気になって尋ねると、アストルは軽く天を仰いだ。
「ふむ、たぶん地上から……百メートル以上はあるな」
「えええっ!? そんなに!?」
レオンの顔が一瞬で青ざめる。
「うふふ、でも魔法で支えられてるから安全なんでしょ?」
ルミナが必死に自分を落ち着かせるように言う。
「もちろんだとも。とはいえ……」
アストルは観覧車の動きを見ながら、何かを察知したような表情をする。
「うん? なんだか回廊の魔法の光が、さっきより少し弱くなってる気が……」
「えっ?」
「……ん? まさか」
その瞬間、ふわりと床の透明な光が揺らぎ、足元がふっと軽くなる。
「きゃあああああ!!!」
「うわあああああ!!!」
家族全員が、一瞬ふわりと浮き上がるような感覚に襲われた。
「ちょっ……おい、大丈夫か!?」
アストルが必死にバランスを取る。
「たぶんだけど、魔法の持続時間がそろそろ切れかけてるんじゃない!?」
フィオナが叫ぶ。
「ええ!? そんなの聞いてないよ!!」
レオンが泣きそうな顔で手すりにしがみついた。
「落ちる!? 落ちちゃうの!?」
クリスが目をまん丸にしてスノーを見つめる。
スノーは羽をバサリと広げ、「フン……仕方ない」と言った。
「風魔法で、ちょっとだけ支えてやる」
次の瞬間、スノーが小さな旋風を起こし、家族の足元をふわりと押し上げた。
「おお、すごい! スノー、ありがとう!」
レオンが歓声を上げる。
「ふん……感謝はいいが、早く観覧車のゴンドラに戻れ」
「そ、そうね! さっさと戻りましょう!」
ルミナが勇気を振り絞って、ゴンドラに向かって駆け出した。
「わーい! スノーの風、気持ちいい!」
クリスは楽しそうにくるくる回っていた。
「クリス、遊んでる場合じゃないわよ!」
フィオナが手を掴みながら、急いで全員をゴンドラへ誘導する。
そして、全員が観覧車のゴンドラに戻ると同時に、空中回廊の魔法はふっと消えた。
「はあ……助かった……」
アストルが額の汗をぬぐう。
「危なかったわね……」
ルミナはまだ膝が震えていた。
「ふー、スリル満点だったね!」
レオンは興奮しながらも、ほっとした表情を見せる。
「次は……もうちょっと安定した魔法でお願いしたいわね」
フィオナはため息混じりに呟いた。
その時、スノーがふわりと飛び立ち、窓の縁にとまると、冷静な声でこう言った。
「……まったく、ドタバタ家族にスリルは不要だ」




