2月15日:純白の契約更新の日
「おや、今日は“純白の契約更新の日”か。つまり、自分と向き合う日ってことだな」
アストルが工房で図面を広げながらつぶやいた。
「みんなで過ごすのもいいけど、自分だけの時間も大事よね」
ルミナが薬草の束を抱えながら、楽しそうに言う。
「えー、じゃあ今日は一人でこっそり新作の調合やってみようかな。『ひとりっきり炎ポーション』なんて面白そうじゃない?」
フィオナがにやりと笑い、さっそく魔法書をパラパラめくっている。
「おれは一人で黙々と剣の素振りのほうがいいな! ……けど、ほんとはスノーと遊びたいかも」
レオンが照れたように目をそらすと、ソファの背もたれにとまっていた白い鷹のスノーが「フンッ」と小さく鼻を鳴らした。
「ねえパパ、今日は自分を見つめ直す日なんだって? それならクリスも『一人ボッチかくれんぼ』する!」
クリスが目を輝かせ、すでに幻影魔法をチラつかせている。
「まあまあ、みんな自由にやってくれればいい。ただ、オレは少し試したい魔具があってな。『ひとりだけ没入結界ランプ』を修理していて……」
アストルが怪しげなランプを取り出すと、フィオナが目を輝かせた。
「いいね、それ! どんな効果があるの?」
「中に入った人の周囲に、外界を遮断する結界を作る魔具さ。気が散らないから勉強や作業に集中できるってわけだ」
「パパ、それ動かしてみようよ!」
レオンが興味津々でランプに手を伸ばす。
「待て待て、まだ調整中だ。そっと――」
アストルが止める間もなく、レオンが触れるとランプからまっ白な光が飛び出した。
「えっ、なんだこれ!?」
部屋いっぱいにモヤが広がり、アストルの周囲だけすっぽり透明なバリアが展開。アストルだけ別空間に入ったような状態だ。
「パパ! 声は聞こえる? あれ、こっちの声は…?」
フィオナが大声で呼びかけるが、アストルはオロオロ口を動かすだけで聞こえていないらしい。
「仕方ないわね。お母さんが結界解除の回復術を試してみるわ」
ルミナがさっと魔法陣を描き、光の帯を伸ばす。
「……効いてない?」
何度か照射してもバリアが消えない。
「こういうのは私に任せて! 実験燃えるー!」
フィオナが炎の呪文を唱え、軽く火の玉をぶつけると、結界はパリンと割れる音を立てて消滅。アストルが膝から崩れ落ちた。
「ふう、まいったな。やっぱり修理はまだまだだな……」
アストルは恥ずかしそうに頭をかきながら、ランプをそっと棚にしまう。
「パパ、自分と向き合うより先にランプと向き合わなきゃね!」
レオンが大笑いし、クリスも「うふふ!」と楽しげに笑う。
「よし、もう少し落ち着いてから調整するよ。今日はみんな、それぞれ好きなように過ごしていいぞ。オレはもう十分、ひとりの世界を味わったからな」
「アハハ、パパらしいや」
フィオナは自室に戻り、新作ポーションの調合に取りかかる様子だ。
「じゃあわたしは庭の薬草に水やりしてくるわ。みんな、また夕飯で集合ね!」
ルミナが笑顔で裏庭へ向かっていく。
部屋に残ったスノーは、ひょいと翼を広げてアストルの肩にとまり、小さく嘆息した。
「…まったく。世話がやける家族ダナ。」




