2月12日:魔法衣装調整の日
「お父さん、今日って『魔法衣装調整の日』でしょ? 学院の課題があるから、工房でちょっと手伝ってほしいんだけど」
フィオナが魔法学院の課題用に新しく考案した“姿勢自動補正マント”を抱えてアストルに声をかける。
「おお、いいぞ。マントに入れた魔力の流れが不安定なのか? ちょっと見てみようか」
アストルは工房の奥から怪しげな魔導針とクリスタルを取り出す。
「わあ、それかっこいい! なんだかすごそうだね!」
レオンは目を輝かせてマントを掴む。
「レオン、あんまり触らないで。これ繊細なのよ。バランス崩れると予想外の魔法効果が出るから」
フィオナが慌てて止めようとするが、時すでに遅い。レオンがマントをひらりと試着してしまう。
「え、ちょっと……うわああ!」
マントが急にばさっと広がり、レオンの身体が宙に浮く。しかもマントの縁から怪しげな魔法陣が回転し始めた。
「な、なんだよこれ! おれ、なんか足がビリビリする!」
レオンが叫ぶと、勢いよくマントがレオンをぐるぐる回しはじめる。
「フィオナ、このマントどういう呪文を組み込んだんだ? もしかして、へんてこな『重力反転魔法』でも仕込んだのか?」
アストルが額に汗を浮かべて聞く。
「いや、そんな大げさなものじゃないわ。姿勢を直すために軽度の浮遊術を組み込んだだけ……のはずだったのに……」
「おいおい、ルミナ、息子が空中ブランコ状態だぞ。ちょっとケガしてないか見てやってくれ!」
アストルが工房から助けを呼ぶと、ルミナが走ってやってくる。
「大丈夫、いま回復結界を周囲に展開するわ。レオン、落ちても痛くないようにしてあるから安心して!」
ルミナは笑顔を見せ、ささっと手のひらを重ねて結界を張る。
「おもしろーい! レオン、くるくるメリーゴーランドみたい!」
クリスは幻影魔法で小さな星のイメージを飛ばし、レオンの周りを飾って遊んでいる。
「ま、まったく笑い事じゃないってば! おれ、目が回りそう……!」
レオンが白目をむきかける寸前、グレゴールがひょっこり姿を現す。
「ほほう。騒がしいと思ったら、マントの魔法制御が乱れておるな。要するに、魔力バランスの振り子がずれておるんじゃよ」
グレゴールが杖を軽く振ると、マントの暴走がぴたりとおさまる。
「あ、助かった……ありがとう、おじいちゃん」
レオンはへろへろの状態で地面に降りる。
「やっぱり私の調合が甘かったのかな。もうちょっと魔力の流れを学ばなきゃ」
フィオナは悔しそうにマントを抱きしめる。
「研究室で一緒に実験してみるか? 正しい魔術と衣装の融合は奥が深いからのう」
グレゴールはいたずらっぽく笑って杖をくるくる回す。
「じゃあ、その間のおやつの準備とけが人の回復を担当するわ。特にレオンの目まわりケアが必要ね」
ルミナがくすくす笑う。
「ふう、まったく大変だ。でも、これもいい経験だな。魔法衣装は扱いが難しい分、完成したときの達成感も大きいからな」
アストルはレオンの頭をなでながら、優しく微笑む。
すると、肩にふわりと降りてきたスノーが、くちばしをツンと突き出して一言。
「ほら、もうちょっと頑張れば…少しは見られるようになるんじゃない…?」




