2月2日:グラウンドホッグの影占いの日
「ねえ、今日はグラウンドホッグの影占いの日だよ!」
朝食の席で、レオンが大きな声を上げる。テーブルにはパンと卵料理、そして湯気の立つスープ。フィオナは新聞代わりの魔導端末をのぞき込みながら、興味津々に目を輝かせた。
「えっ、もうそんな時期? あの土地神の化身が地面から出てきて、その影を見て季節を占うのよね」
ルミナがスープをすくいながら言う。アストルは「ふむ、修理依頼も最近は増えてきたから、やっぱり春が近いのかなあ」とのんびり口を開いた。
「春が早く来るか、まだ寒いか、グラウンドホッグ次第ってわけね。面白そう!」
フィオナはさっそく立ち上がる。「よし、学院の友達に先に自慢しよっと。あの広場に行けば見られるんでしょ?」
「おれも行く! 春が早く来たら、外で剣術の練習もはかどるし!」
レオンが椅子から飛び降りると、クリスが小さな手を挙げて笑った。
「グラウンドホッグさんって、どんな顔してるのかな。ほんとに神さまなの?」
ルミナは笑いながら、「それは行ってみてのお楽しみね。みんなで見に行こう」と声をかけた。
昼前、街はにわかに活気づいていた。中央広場には簡易ステージが組まれ、大勢の人たちが集まっている。アストルは工房の休憩を早めに切り上げて合流した。
「ところでフィオナ、変な魔法はやめとくんだぞ」
アストルがにこやかに注意すると、フィオナはにやりと笑う。
「大丈夫大丈夫。今日は“影変換”魔法をちょっと試すだけだから。ほら、実験レポート用にデータ取らなきゃいけないの!」
「嫌な予感しかしないんだが…」
ルミナは苦笑い。レオンはわくわくした表情。
やがてグラウンドホッグが地面からひょこっと姿を見せる。思わず拍手が起こるなか、フィオナが目を輝かせながら杖を振った。
「いくよ、“シャドウチェンジ”!」
次の瞬間、グラウンドホッグの影がふわっと宙に浮かび、まるで生きているかのようにぐにゃぐにゃ動き出した。観客たちが「おお?」と驚きの声をあげる。ところが、影はフィオナの予想以上に暴走。広場の床や建物の壁を這いまわり、あちこちでびっくりさせる。
「ちょ、ちょっと! こんなに力が強いなんて聞いてない!」
フィオナが慌てて呪文を止めようとするが、影は街灯に化けて揺れだすわ、屋台の看板と合体して奇妙な文字を描き出すわ、大騒ぎになってしまった。
「おいおい、あれは予定外すぎるぞ!」
アストルは苦笑いしながらもすぐに対処に入る。ルミナは回復術士仲間を呼んで、影を和らげる封印補助を試みる。
最終的にグレゴールが広場に駆けつけて、厳かな声で封印用の結界を敷くと、やっと暴れ回る影が落ち着きを見せた。グラウンドホッグ本人(本獣?)はすっかり驚いて穴に戻り、結局その姿をきちんと見られた人はほとんどいなかった。
「まったくもう、せっかくの占いが台無しじゃないか」
レオンが肩を落とすと、フィオナは平謝り。アストルは苦笑いしながら、「ま、これも一種の思い出ってことで」とフォローを入れ、ルミナは「街のみんなにお詫び回りしないとね」と気合いを入れる。
すると、頭上からスノーの声がした。
「…ハッ。ドタバタもほどほどに。あたしの昼寝まで邪魔するとはね。まあ、退屈しないから許してやるけどさ…ベ、別に心配なんかしてないんだからね!」