2月1日:魔法鎖解放の日
「おはよう、みんな! 今日は魔法鎖解放の日だ!」
朝食の席でルミナが元気よく声を上げると、レオンはスプーンをくわえたまま首をかしげた。
「魔法鎖解放の日って何する日? 呪鎖がどうのって聞いたけどさ」
「古代王朝がかつて魔術師たちを縛りつける“呪鎖”を使っていたんだ。その鎖を解き放った記念日なんだよ」
父のアストルが、まるで昔の冒険談を語るように言った。
フィオナは目を輝かせてテーブルを軽く叩いた。
「つまり“自由”を祝う日でしょ? 私たち魔法使いにとっては大切な記念日よね」
祖父のグレゴールは古い新聞をぱらぱらめくりながら相槌を打った。
「自由を享受できるのはありがたいことじゃ。さて、今日は何をして過ごすつもりかな?」
「僕、学校で“魔法鎖解放コンクール”に出す絵を描かなきゃいけないんだ。だけど上手に描けないんだよなあ」
レオンがぼやくと、クリスが席を立ち上がってにこにこしながら手を挙げた。
「じゃあ、あたしが“へんてこなペタペタ魔法”で手伝うよ! ぺたっと描きたい絵を壁に貼りつけて、お手本にしたらいいんだ!」
「へんてこなペタペタ魔法?」
フィオナが半信半疑で聞き返す。
クリスは嬉しそうにぽんっと胸を叩き、スノーの方をチラリと見た。
「うん、園で教えてもらったんだ。魔法紙を出して、ぺたんと貼ると絵が浮き出てくるんだって!」
「それ、失敗すると大変じゃないか? 家の壁中が絵だらけになりそうだ」
アストルが苦笑いしながら言うと、ルミナも手で口を押さえて笑いをこらえた。
「ま、今日はお祝いの日だからいいじゃない。あとで私が回復術……じゃなくて、汚れ落としの魔法をかけてあげるわ」
その後、居間ではレオンが描いたドラゴンやら騎士のスケッチがあちこちに“ぺたぺた”と貼り付けられて大賑わい。
「あはは! おいレオン、そこのドラゴンの角が私の顔にかぶさってる!」
フィオナが笑って腰をかがめる。
「待って、動かそうと思ったらこの紙、全然はがれないんだけど!」
「えっ、嘘だろ? ペタペタ魔法が強すぎる!」
「お父さん! ちょっとこれ修理……じゃなくて解除してよ!」
「ま、まかせて。こういうトラブルのために“はがしの呪文スクレイバー”ってのがあったはず……あれ、どこにしまったっけ?」
みんながばたばたする中、スノーは部屋の隅の棚からひょいと一枚の呪文札をくわえて、アストルの目の前に投げた。
「ス、スノー、ありがとう!」
「ふん…役に立ったなんて言われても…別にうれしくない…」
スノーはツンと顔を背けるが、かすかに尻尾を振っている。
そして貼りついた絵も無事にはがれ、家の中は笑い声に包まれた。
「これぞ“自由”の象徴だねぇ。なんだか呪鎖を断ち切ったみたいに、家中がスッキリしたよ!」
ルミナが晴れやかな顔で言うと、レオンも照れくさそうに頭をかく。
「ちょっと騒がしかったけど、いい思い出になったね」
フィオナが微笑むと、スノーはそっぽを向いたまま、すました声で口を開いた。
「やれやれ…世話の焼ける家族だね…。ま、嫌いじゃないけどさ…ふん!」