1月31日:愛しき人への感謝の日
「ねえ、今日は“愛しき人への感謝の日”だけど、何か特別なことするの?」
フィオナが工房の扉をノックしながら覗き込むと、作業机に向かっていたアストルが顔を上げる。
「もちろん。今夜は小さな光の儀式をやろうと思ってな。昔冒険中に手に入れた“カンシャノランプ”を直してみたんだが…うまく点くかどうか」
「カンシャノランプ? また怪しい道具を宝物庫から引っ張り出したのね」
ルミナが笑いながら入ってくる。
「あら、そういえば夕食後にみんなでやる儀式のために、私も回復魔法をちょっとアレンジした“ハートビーム”を練習してみたの。光と癒やしを同時に出すのって、意外と難しいのよ」
レオンが玄関から飛び込んできて声を張り上げる。
「“ハートビーム”って強そう! 撃たせてよ!」
ルミナは笑って手を振る。
「これは回復術士が使う優しい光なの。危ないことはしないのよ」
夕食後、居間のテーブルを囲むフレイメル一家。アストルは修理したての“カンシャノランプ”を中央に置き、スイッチを押す。
「さあ、感謝の気持ちよ、光となって――」
バチバチッ!
突然、あやしい青白い光が飛び散り、ランプの上部から小さな雷が飛んだ。フィオナが慌てて火の玉を作り出す。
「え、なんで雷!? っていうか火で対抗できるわけないでしょ!」
「パパ、修理失敗したの?」
レオンが目を丸くして後ずさる。アストルは苦笑いを浮かべながらランプを叩く。
「大丈夫、大丈夫…昔の“カンシャノランプ”ってやつはちょっと扱いが難しいんだ。ほら、ここをこうして…」
バチン! 今度はランプから不自然なピンク色の煙が吹き上がり、レオンの鼻先にハート型の泡がぶつかる。
「な、なんだこれ! なんか甘い匂いがする!」
「ふふふ、“感謝の気持ち”が暴走してるのかもね」
ルミナは笑い転げながら慌てて魔力を送り込む。
「はいはい、“ハートビーム”で整えてあげるわ!」
少し派手なピンク色の光が室内を包み、そのまま“カンシャノランプ”の暴走エネルギーを吸い込み始める。
「おお…すごい」
アストルが感心する中、フィオナが手を叩く。
「これであとは落ち着くはず…あっ!」
瞬間、ランプの先端から“ポンッ”という軽い破裂音とともに、豆電球ほどの小さな光が宙に浮かんだ。部屋を優しい輝きが満たす。
ルミナがほっと息をつきながら微笑む。
「やった。ちゃんと感謝の光になったみたい」
「ありがとう、家族のみんなに…いつも感謝してるよ」
アストルが穏やかに笑うと、レオンも恥ずかしそうに首をかしげる。
「お、おれだって…みんなに感謝してるんだぞ」
フィオナは手を合わせて目を閉じる。
「いつも支えてくれてありがとう。これからもよろしくね」
すると、白い鷹のスノーが音もなく降りてきて、居間のテーブルにとまり、片方の翼を払う。
「…フン。愛と感謝で騒ぎすぎ。…ま、嫌いじゃないけどね」