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de anima~死人倣いの異世界奇譚~  作者: 各務クギヒト
一章 ウルフェムラ編 後編
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第二十六話 俺のことなんて

 カミラ・グランブルグ、自らの祖国を滅ぼし、ウルフェムラ国王に拾われて以降、その国を祖国として数百年もの間戦場で無敗を誇った大魔女。

 全ての魔法の祖である暁彁(ぎょうか)の魔女アラディアに選ばれた、五星魔女(ペンタグラム)の一人としても名高く、幾つもの異名がその偉大さを表している。

 普段の彼女は十代半ばの少女の姿でソニアとして暮らしていたが、戦場では本来の姿を露にして他の追随を許さぬほどに暴れまわった。

 その恐ろしさは各国で伝えられており、表舞台に姿を表さぬようになった今でさえ、その国一番の戦士が名前を聞いただけで震え上がるほどの存在である。

 そんな彼女は今、呪いによって力を封じられていた、全霊を解放してさえ、全盛期の五割の力が精々である。

 だが、その五割の力であって尚、国ひとつであろうと滅ぼせることに変わりはない。

「それにしてもソニア……なんというか、目に毒ね。せめて肌着が残ってるのが救いだわ」

「あのなぁ、これを見ての感想がそれって……やっぱ大物になるぜお前は」

 ソニアの全身からは燃え盛るような熱気と、目の前にしただけで立っていることが不可能になるほどの鬼気が迸っている。

 常人なら腰を抜かしてへたり込むところを、リィナはあっけらかんと言ってのけた。

 確かに、彼女の衣服は今殆どが燃え落ちてしまっており、残されているのはサイズの合わなくなったキャミソールと下着の二枚のみである。

 自身の意思とは無関係に熱を発してしまう彼女は、本来耐火性を施した衣服を着用しているが、今となってはその必要もないので念のため肌着のみそれを使用していたのだ。

 だが長い手足と豊満な身体は余すところなく強調されているものの、恥ずかしげのない振る舞いがそれを感じさせない。

「今のうちに候補生の奴らんとこに行っとけよ。ダフの相手はあたしがしておく、本当はこの姿にはなりたか無かったんだがな」

「ええ、そうね……ごめんなさい、力不足で」

 リィナは再度宝石から作成した杖を合わせボードを形成し、それに乗ってダンジョンの入り口へと向かう。

 しかし、ひとつ気がかりでもあるかのように立ち止まり、ソニアへ振り返った。

「ソニア、油断しないでね」

「はぁ? この状態のあたしが負けると思って────」

「思ってない、その後のこと」

 思わせぶりなリィナの言だが、ソニアはそれを聞いて合点がいったようだった。

「……ああ、そうだな、分かってるよ」

 そう口にすると、彼女は自身が蹴り飛ばしたダフの飛んだ先へ視線を向け、リィナには後ろ手をひらひらと振る。

 リィナはそれを見届けると、ボードに点火してダンジョンの中へ入っていった。


            ◇


 ダンジョンの最奥、キズナたちは泥の王(グーラ・レクス)の放つスライムたちの、新たな姿に対峙していた。

「色が変わった……? 大きさなんかは前と同じみてえだけどよ」

「なんか、合体してたね。おかげで数は数体まで減ったしむしろ助かったり……?」

 リュウヤが拳を構えたまま怪訝な顔をする。

 ラクの言った通り、それまで常に数十体で襲い続けてきたスライムの群れは今、五、六体程度までその数を減らした。

 場合によってはこちらの方が楽かもしれないなどと、ラクは楽観的な考えを持とうとする。

 しかしそれも、その次の瞬間に自分の隣にいた筈のダインが、その黒い個体の体当たりで吹き飛ばされるのを見るまでの間であったが。

「ダイン!!」

 キズナは吹き飛ばされたダインの方へ視線を向けようとするが、直後に嫌な予感がして片足を引く形でしゃがみこんだ。

 すると、その頭上を黒いスライムが高速で通りすぎていく。

 その個体は地面へと触手を伸ばして勢いを殺し、躱した筈のキズナへと間髪いれずに襲いかかる。

 キズナは寸分の狂いもなくそれに合わせ剣を振るうが、あろうことかその黒個体は直前でまた地面へと伸ばした触手で自らの軌道を変え、彼の振るった剣を躱してしまった。

「ぐぁ!?」

 キズナが黒個体の一体に苦戦していると、視界の端でリュウヤがその体当たりを頭に受けて転がっていくのが見える。

 すぐさまラクがカバーに入るが、彼も四腕の二本に持った剣で身を守るのが精一杯のようだった。

「くそ、なんだこいつら!?」

「今までのやつとも速さが桁違いだよ! 目に追うのさえ精一杯だっ……!!」

 立ち上がったリュウヤもどうにかそのうちの一体を受け持ち格闘しているが、翻弄されるばかりで拳を当てることが出来ずにいる。

 キズナの剣は黒個体の身体を捉えてはいるものの、うまく躱されて核の破壊が出来ない。

 そして、ラクとリュウヤ、キズナでそれぞれ一体ずつとなれば、当然残った個体は、その後ろに控えている候補生たちへも襲いかかることとなる。

「きゃああああ!!」

「うわぁ!?」

 後ろから悲鳴が聞こえてくる。

 キズナでさえたったの一体に翻弄される相手だ、特に主戦力ではない候補生たちでは相手にならない。

「ぐぎゃあ!!?」

 キズナは視界に捉えた、黒個体に胴体を貫かれ、腹に大きな風穴を開けられた候補生の姿を。

 彼は、先の愚猿戦でキズナが助けた男だ。

 立ち上がるのを手伝うために手を引いた時の安心した顔は、驚愕と恐怖で歪み、血の気が引いて虚ろになっていた。

「みんな、慌てないで! 数は多くない、固まって身を守って!」

 後方の要であるマナカが指示を飛ばすが、候補生たちにはうまく伝わらず一人、また一人と餌食になっていく。

「くそッ……ダメだ、集中しろ」

 キズナは後方で繰り広げられる惨劇に乱された呼吸を鎮め、自身の相手取る個体に意識を集める。

 この黒個体は確かに素早く、また触手の扱いもそれまでのものとは違っている。

 だが、決して彼が捉えられない程の速さではない。

 飛来して突撃してきたところを躱し様に無理矢理剣の腹で吹き飛ばし、強制的に距離を確保する。

 そして、剣を腰の鞘に納め、彼は居合の構えを取った。

 黒個体は、あくまで体当たりでこちらの体勢を崩そうと直線的に飛んでくる、それを捉えきれない理由が、地面へと伸ばし軌道を変える触手だ。

 ならば、その触手の方を狙えばいい。

「────そこッ!!」

 飛んできたスライムをまず、横なぎに一閃。

 だがこれはフェイクだ、実際に剣は走らせない。

 黒個体はフェイントの動きに誘われ、横なぎの剣が来ると考えて地面へと触手を伸ばした。

 そこを狙って、タイミングをずらした居合い抜きで触手を切り払う。

 黒個体は地面へと伸ばした触手を失うことで軌道を変える手段を失い、更には横向きの力が加わることで突進の勢いと平衡感覚を削がれる。

 そこに、刹那の切り返しで返す刀の二撃目を放つ。

 黒個体は回避を行えずに、そのまま中心の核ごと真っ二つに切り裂かれた。

「よし……まずは一匹」

 キズナはリュウヤとラクの方に目をやり、彼らがまだ苦戦している様子を確認する。

 一瞬、まずは彼らの方へ向かうべきかと考えたが、そのタイミングでまた候補生の悲鳴が聞こえた。

「先に後ろへ行ったやつらを何とかしねえと……」

 キズナは後方に向かって走り出した。

 後方に向かった個体は、どうやら三体ほどのようだ。

 そのうち一体はマナカが友人たちと組んで押し止めており、もう一体はダインの連れてきた部隊員が数人がかりで囲んでいる。

 ダイン本人は先ほどの一撃で負傷した様子で、壁の後ろで治療を受けているのが壁の隙間から見えた。

 そして、先ほどから候補生たちを襲っているのが残りの一体だ。

 候補生のみならず、ダインの連れてきた部隊員にも被害が出ているようで、捉えられないように隙間を縫って移動しながら、隙を見つけた相手に触手で攻撃していた。

「いい加減に……しろ!!」

 キズナは黒個体のいる地面に剣を投げつける。

 黒個体は当然のごとく躱すが、空中に跳び上がる形であり、そしてその足元はキズナが投げた剣で砕け飛んでいる。

 キズナはそこに、足元にいた候補生の死体から拝借した槍を、間髪いれずに投げつけた。

 黒個体は、近づいてくる気配には敏感でも、遠くにいる相手が何をしているかまでは察知できないようだ。

 そのまま、投げられた槍に核を貫かれ、猛威を振るっていたそれはその身体を崩壊させる。

 キズナは、地面に投げた自分の剣を拾い上げ、崩壊した黒個体の死体を確認する。

 どろりと、粘性を持った身体は徐々に地面へと吸い込まれていく。

 まるで脊髄液に包まれた巨大な脳が地面に潰れているようにも錯覚し、キズナは得体の知れない感覚を覚えて気分が悪くなった。

 通常の個体がほとんど水のような質感であったことを考えると、やはり合体した分性質が変わっているようだ。

「それにしても……やっぱり視覚とか普通の五感は持ってないんだな。魔力か何かを察知してるのか? いや、今は考えるのは後か」

 魔物としての性質を考察したところで、キズナは自身に突破口を見つけられるとは思えなかった。

 何故なら、視覚や聴覚がなかろうと、彼らが普通の生き物よりも鋭敏な感覚を見せていることに変わりはないのだから。

「はぁぁぁあ!!」

 キズナからあまり離れてはいない場所で、マナカの声が聞こえた。

 彼がそちらに視線を送ると、たった今彼女が黒個体の一体を、槍から迸る紫の炎で仕留めたところだった。

「やった! すごいよマナカ!」

「みんなが隙を作ってくれたおかげ、喜ぶのはまだ早いよ、全然終わってない」

 喜びを伝えるユウカにも、汗を拭いながら厳しい顔でマナカが答えている。

 普段の彼女なら見せない顔だ、それだけ余裕がないということだろう。

 後方で戦う候補生たちがここまで全滅せずにきたのは、キズナたち四人が前線で数を減らしているのもあるが、彼女が先導して被害を抑えているのも大きい。

 つまりはそれだけ、負担の方も大きいということだ。

「大丈夫か、少し休んだらどうだ」

「あ、キズナくん……そうしたいけど駄目だよ、私が抜けたら多分後ろが保たないから」

 マナカの言葉に、ユウカたちがその表情を暗くする。

 彼女たちにとっても悔しいのだろう、マナカにばかり比重が行ってしまっている現状が。

「ごめんね、私たちが弱いから」

 ユウカが弱々しくマナカに伝えると、マナカははっとしたように顔を跳ね上げて謝罪をする。

「ごめん、みんなの事を悪くなんて言ってないよ! わたし、ちゃんとみんなと一緒に帰りたいから……!」

「マナカ……ごめんね、頑張ろうね」

 ユウカが目に涙をためながら伝え、それを見たマナカも涙をこらえながらユウカを抱き寄せる。

「わたし、みんなの中では一番お姉ちゃんだもん。ちゃんと守ってあげるからね」

「一個しかちがわないよぉ……」

 ついには泣き始めてしまったユウカを宥めながら、マナカはキズナにも声をかける。

「キズナくんも、キズナくんこそあんまり一人で頑張ろうとしないで。無茶したらわたしが止めるからね」

 思わぬ言葉をかけられてしまったキズナは、喉をつまらせたような表情をしてしまいながら、どうにか言葉を返す。

「わ、かってるけど……俺が気張らなきゃしょうがねえだろ。ダインも負傷したんだ」

「それでも、だよ」

 マナカは赤らんだ目で、真っ直ぐとキズナを見つめる。

 済んだ空のような青の瞳が、あまりにも力強く見据えてくるものだから、キズナは思わずたじろいでしまった。

 だからなのか、思いもしないことを言ってしまったのは。

「俺の事なんて……どうでもいい、お前らは自分の身を守ることを考えろ」

 キズナはそう言い放って、前方のラクたちのもとへ向かっていった。

「どうして……」

 後ろ髪を引かれるような思いを紛らわすように。

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