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9/10

ʏ( 九 )ʏ 可愛いね

 「もうこれ以上はムリ……」


 数回かんで食べてスプーンの上のケーキが半分くらい減った時点でわたしはおなかいっぱいになった。


 「まだいっぱい残ってるのに」

 「体がこんなにちっちゃいんだからしかたないよ」

 「そうだよね。ではスプーンに残ってるのはぼくが食べるね」


 そう言ってマユユキくんはスプーンを口の中に入れて、こうやって残っているケーキはあっというまに口の中で消えてしまった。


 結局このスプーンのケーキは2人で一緒に食べるという形になってしまったね。まあ、わたしにとっておなかいっぱいの量でマユユキくんにとってただ一口に満たない量だけどね。


 でもそれってその……いわゆる『間接キス』っていうものでは? マユユキくんとキス……。キス……。そう考えたらつい意識してドキドキしてしまった。


 「残っているケーキはどうするの?」


 いま食べたケーキは一回スプーンですくった分しかないから、皿の中にまだいっぱい残っている。


 「ふたたび冷蔵庫にしまっておいてあとでぼくは食べるよ。いま食べてもいいとは思っているけど、まだフレンチトーストが残っているから」


 そう言ってマユユキくんはフレンチトーストを食べ続けていく。そういえばまだほとんど食べ進めていないね。いまさらもう冷めたのでは? わたしが食べるの手伝ったせいでもあるなかな?


 「ごめんね。わたしにかまったばかりでそのせいでマユユキくんの食事もおそくなってしまって」

 「別にいいよ。その代わりにアキユイちゃんが笑顔で幸せそうに食べている姿が見えたから」

 「そうか……。え? ずっとわたしを見ていたの?」


 さっきわたしはずっとケーキを食べることに夢中していたから気づいていなかったけど、そう言われると気はずかしくなった。どういう目で見ていたのかな?


 「そ、それは……。べ、別に……。ほら、妖精を見る機会はなかなかないだろうしね」

 「あ、なるほどね」


 わかっているよ。別にだれでもいいんだ。わたしでなく他の女の子が妖精になっても……。


 「とりあえずありがとうね。ごちそうさまでした」


 ケーキもおいしかったし。何よりマユユキくんにあーんしてもらったから最高のケーキだった。


 「……やっぱり可愛いね……」


 笑顔でマユユキくんはいきなりそうつぶやいた。


 「え? いま何を言った?」

 「あ、いま聞こえたの!?」

 「まあ……」


 さっきマユユキくんが小さな声でつぶやいたつもりのようだけど、わたしはついはっきり聞こえてしまったんだよね。体が小さいと近くにいる人間の声が普段より大きくはっきりと聞こえてしまうから。


 「その……いまのはね……」


 なぜかマユユキくんは恥ずかしくてごまかそうとしているように見える。別にいいじゃないか。わかってるよ。妖精は小さいからニンギョウみたいに、可愛く見えてしまうよね。それだけだよね。別にわたしではなくても……。それでもやっぱりそう言われて喜んでしまった。また聞きたい


 「ね、もう一度言って」

 「え?」

 「さっき言ったのと同じ」

 「なんで? 別にいいでしょう」


 やっぱり直接頼んだら言ってくれないんだね。


 「さっきはただ言いまちがいなの? わたしのこと、やっぱり実は可愛くない?」

 「いや、そんなわけないだろう。もちろん、か、か……かわいぃ……ょ」


 最後の部分がなんか小さくなったけど、わたしははっきりと聞こえている。マユユキくんは困ったような顔をしているけど、やっと言ってくれた。うれしい。


 「それで……わ、わたしのことが好き?」


 ……って、わたしいま何を言った!? なんか口がかってに? うれしくて気持ちが高ぶってつい……。


 「え? アキユイちゃん? なんでそんなことを? その……」


 わたしの質問を耳にしたマユユキくんは困ってもじもじしている。やっぱりごまかさないと……。


 ううん、考えてみればいまはどうせただの夢だからどうでもよくない? どうせなら普段できるはずないことをやっておきたいし。


 ……例えば気持ちをぶつけて告白することとか。


 「実はわたし、マユユキくんのことが好きよ」


 あ! 言っちゃったねわたし! なんでわたしは……? 夢だと思ったら意外と何の不安もなくて口が軽くてつい簡単に言い出してしまったよね。


 「え? アキユイちゃんはぼくを? そんな冗談を……」


 マユユキくんはあまり信じられないような顔でわたしを見つめた。


 「もう! 冗談ではないの。本気だよ! マユユキくんは? わたしのことをどう思う?」


 またとうとうとだいたんなことを言うわたし……。もうここまで来てどうでもなろうって感じになってしまった。


 「実はぼくも……アキユイちゃんのことがす……好きだ!」

 「……っ!」


 しばらくドギマギしたあと、やっと……。


 わたしたち両思いだったね。


 「うれしい! やっぱり大好き!」


 わたしはマユユキくんの顔の近くまで飛んで、そして彼のほほに口づけした。


 「え? アキユイちゃん!?」


 たとえこれが夢(?)でも、わたしは最高に幸せだ。


 やっぱりこれはすばらしい夢(?)だった。

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