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ʏ( 五 )ʏ 栗とリス

 「リスさん、みっけ!」


 神社に入ってきたら木の枝の上にリスを発見。以前もここに来てリスをもくげきしたことがあるから今回来て当たりね。


 何というかれんな生き物。きれいな茶色でもふもふな毛並みで、いまのわたしと同じくらいの大きさ。2本あしで立って両()で……いや、動物だから『前足』と呼んだほうがただしいか? でもまあ『手』でいいか。いまのサイズ感で人間みたいな感覚だから。その両手でクリの実を持ってかじって食べている。おいしそうに……たぶんね。実際リスのことは詳しくないから。ほっぺたパンパンふくらんでなんか可愛らしい。


 そういえばリスってクリを食べるんだな? 知らなかった。リスが食事をしているところを見るのも初めてだし。


 クリとリスか……。そうだ。たしかに『リス』(栗鼠)って漢字で書くと『クリ』(栗)と『ネズミ』(鼠)だったね。つまりリスはクリを食べるネズミということね。なんか意味深い。ネズミはちょっとこわいけど、リスはやっぱり可愛くて好き。


 この町でリスをもくげきしたこともあるからめずらしいわけではないけど、いつもならわたしが近づいたらすぐにげてしまうから、こうやってじっくり見るのは新せんだ。リスから見て人間はとんでもなく大きいからこわがるのはしかたないよね。でもいまのわたしならだいじょうぶだろう。わたしはいまある程度のきょりからながめて、リスもわたしのことに気がついてこっちを見ているようだけど、にげるけはいはない。たぶんいま自分は人間ではなく妖精で体の大きさも同じくらいで全然こわくないからだろう。


 「ね、リスさん、となりでいいのかな?」


 わたしはリスのとなりに飛び降りた。ここは小さな木の枝だけどいまのわたしにとってまるたみたいで大きくて安定で立てるらしい。木に登ったことないからちょっと不安だけど、ハネも持ってさっきからずっと高いところを飛び回っていたから、いまさら当然のように木の上なんて全然平気。


 リスさんはわたしを見てもにげないものの、なんかちょっとけいかいのようすを見せて、クリを持っている手をわたしの立っているほうから遠ざけようとした。


 「別にクリをうばったりするつもりないよ。もう……」


 たしかにこんな巨大なクリなんて初めて見て興味がわいてくるけど、一応「かってに木の実を拾って食べてはダメ」ってお母さんに教わったし。


 「そんなことより、ね、もふってもいい? ちょっとでいいから」


 こんなもふもふそうなものを近くで見て何もせずにガマンできるはずがない。さわったらどんな感覚か? きっとすごく気持ちいいだろうね。こんなサイズで全身乗ってもふもふもできそう。そんなふうに想像してみたら……もう限界だ。わたしはえんりょがちながらも勢いでうでを広げてリスさんをだきつこうと飛びこんだら……。


 『グルルル!』


 と、リスさんが鳴き声を出しながらクリを持ったままにげて去っていってしまって、わたしがいまつかみ取れたのはただの空気だった。


 「待って! 行かないで! わたしのもふもふ天国!」


 せっかくこんなに近づくことができたのにもう少しだけ……。ちょっとあせりすぎたせいかな……。


 よく考えてみると、食事のときにじゃまされたらわたしだっていやだと思うよね。だからいまやっぱりわたしが悪かった。わたしのアホ!


 「おじゃましちゃってごめんなさい……」


 しょんぼりしたままわたしは神社から出ていった。


 自分の夢(?)の中なのに、絵本やアニメみたいに小さくなって動物たちとお友達になれるかと思ったらやっぱり世の中そう簡単ではないか……。


 「まあいいか」


 この夢(?)はまだこれで終わってわけではなさそうだし。他にもっと楽しいことを探そう。


 そう考えてわたしはすぐ立ち直れて飛び立つのだ。

クリとリスの関係は最近知ったことです。なぜ『栗鼠』は『栗』と『鼠』という漢字なのか調べてみたらやはり由来はそのままです。クリを食べるネズミと似た動物だから。リスはドングリを食べるというイメージの方が強いようですが、クリも好物らしいです。


ちなみにこれは漢語で元々由来は中国語だけど、現代中国語ではリスのことは普段『栗鼠(ㄌㄧˋ ㄕㄨˇ)』よりも『松鼠(ㄙㄨㄥ ㄕㄨˇ)』と呼ぶのは一般的です。

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