ʏ( 四 )ʏ 見える子
そのあとわたしは家の外に出て町を飛び回ってみた。自分の住んでいる町でいつもと変わらないはずだけど、こうやって小さな妖精の体になったら何もかも大きくて巨人の町に見えちゃうよね。
いまこうやって飛べるからあまり困らないけど、もしハネを持っていなければただの小人になって小さな足で普通に歩いたらきっと大変なことになるだろう。
高く飛んでいたらものすごい高さでこわくて心細い気もするけど、こうやって町をふかんできることでわくわくして楽しいという気持ちのほうが大きい。それにこれは夢だし?
「え? これは……妖精……かな? お母さん、妖精だ」
小学生低学年らしい男の子はわたしに視線を向けながらそう言った。
「はい? 何言ってるの? あそこに何もないよ?」
「いるよ。小さな妖精さんだ!」
「……?」
どうやらこの子はわたしのことが見えたけど、なぜかこの子のお母さんはわたしのこと見えないらしい。
「……うぎゃー、うぇーん……!」
もう少し飛び回り続けたら今回は泣いている赤ちゃんの声が聞こえた。
「ミナリコ、泣くなよ! お願い泣かないで。もうどうしよう……」
その赤ちゃんをだっこしている男の子が困った顔をしている。彼はわたしより少し年上に見えて、たぶん中学生くらい。この子のお兄さんか何かかな?
わたしも妹がいるから泣いている小さな子どもを見たら放っておけないって気持ちになってしまった。
「ね、泣いているそこのきみ」
わたしは赤ちゃんの目の前まで飛んで話しかけてみた。もちろんたやすくつかまえられないようにちゃんと赤ちゃんのうでの長さより少し遠いきょりを取っている。いくら赤ちゃんだからっていまのわたしより体が大きいから、手や足でもつかまれたらわたしはていこうすることなんてできないだろう。ニンギョウやおもちゃなどだと見なされちゃいそう。
「……ん?」
赤ちゃんはわたしのことに気づいて目を向けてくれた。
「わたしは妖精さんだよ? ほら、空を飛んでいるよ」
そう言いながら周りを飛び回っていたら、赤ちゃんも視線でわたしを追ってきたり手をのばそうとしたりして、そのうちに泣き顔から笑顔に変わっていく。
「え? ミナリコ? 何を見てるの?」
お兄さんらしい男の子は赤ちゃんの反応を見てわけのわからないようで不思議そうな顔をした。どうやら彼はわたしの姿が見えないみたい。
「まあいいか。それよりミナリコが泣くのやめて助かった」
どうやら彼は何となく納得できてよかった。
「バイバイ。ミナリコちゃん」
わたしは手をふってあいさつしたら赤ちゃん……ミナリコちゃん? も笑ってわたしを見送った。
「ミナリコ、ゆうれいでも見ているのかな? なんちゃってね」
と、お兄さんが……。ゆうれいだなんて、もう……。でもやっぱりわたしのことが認識できない人はそのように思うのね。
とりあえずいまわたしっていいことをやった? あまりたいしたことではないと思うけどね。
そのあともっと飛び回っていたら何となくわかってきた。どうやらわたしの姿が見えるのは子どもだけみたい。だいたいわたしみたいな小学生かそれより幼い子どもね。中学生くらいの人はわたしのことが見えないらしい。
妖精は子どもしか見えないとかいう話は聞いたことがある。まさにそれだろうね。
「あ、スズメさん、おはよう!」
こっちにスズメが飛んできているところを見たらわたしは手をふってあいさつした。そうしたらスズメさんはいっしゅんわたしのほうに視線を向けてちらっと見てから過ぎ去っていった。
どうやら小さな動物たちもわたしのことを認識できているようだ。スズメの他にもハトやネコとかもそう。
次はちょっと動物と遊んでみてもいいかも。
「妖精のことが人間の大人は認識できない」という設定は最近読んだ『フェアリー・キス ~人間になった妖精は人間社会になじめますか?~』(https://ncode.syosetu.com/n6609dy/)という作品からのオマージュです。わたしはこの作品が推しなのでおすすめです。
人間が妖精になったり、逆に妖精が人間になったりする、こういう話は好きです。




