ʏ( 二 )ʏ 大きな妹
朝の天気はいいね。いまこうやって飛べるからさらにここちよい。
「アキネも起きたのか?」
わたしは自分のへやの窓のとなりにある窓に向かって飛びこんでみた。ここはわたしの妹……妖咲精音のへやだ。
「え? 妖精さん……?」
中に入ったら、そこには巨大な幼い黒髪ツインテールの女の子が不思議そうな顔でわたしを見つめてきた。
いや、『巨大』と言ってもそれはいまのわたしから見ればの話だな。彼女はわたしの2つ下の妹で、いま小学3年生で本来わたしより小さいはずだから。
「アキネ、おはよう。わたしだよ」
自分をはっきりと見せるためにわたしはアキネの顔の近くまで飛んできた。その顔はやっぱりわたしの体より大きいし。そして彼女の巨大な目はわたしをながめてきて……なんかちょっとおっかない気もする。
「もしかしてお姉ちゃん……?」
「うん、そうだよ」
やっぱりわかってくれたんだ。こんなに体がちっちゃくなってハネも生えているけど、外見はいつものわたしの姿のままだからすぐわかるだろう。
「なんでこんなにちっちゃくなって……? それにハネも?」
「わたしだってよくわからないけど、朝起きたら妖精になっていたの」
「そうか。なんかすごい……。ちっちゃくて可愛い。ハネもきれい。飛べるなんてうらやましい」
そう言って彼女はこっちに手をのばして……。
「うわっ!」
自分の体をまるごとつかめそうなくらいでかい手のひらがこっちに向かっているところを見たら、なんかむしょうにおじけがついてわたしは反射的によけてしまった。
「なんでにげちゃうの? お姉ちゃん!」
アキネは不満そうな顔でわたしをつかもうとしたけど、わたしはまたよけた。安心できるように今回アキネの手が届かないくらい高く飛び上がった。
「あんな高いところまで飛ぶなんてずるい……。いいな。わたしも飛べたいな」
くやしそうな顔で文句を言いながらアキネはジャンプしてまたわたしのところまで届こうとしている。
「やめてよ。いまのアキネはなんか大きくてこわいの」
「わたしが大きいって? ただお姉ちゃんが小さいからでしょう?」
「それはそうだけど……」
こんなにちっちゃい体になるとアキネみたいな幼い子どもも巨人に見えて、どうしてもこわく感じてしまうんだよね。それにアキネはニンギョウで遊んだときよくニンギョウをこわしているからさらに不安だ。
ちょっとアキネのベッドのほうに目を通してみたらあそこにはメチャクチャ破られたニンギョウの姿が……。いまの自分もそのニンギョウと同じくらいのサイズらしいし。もしアキネにつかまれたら……とか思うと……。
「とりあえずわたしはお母さんのところにも行ってくるね!」
そう言い残してわたしはちょうど開いているへやのドアを通ってアキネのへやから出ていった。
「あ、お姉ちゃん、待って! わたしと遊んで!」
後ろからアキネの声が……。でもごめん。遊びたいのは山々だけど、いまの体で巨大なアキネの遊びにつき合える自信はないの。ついアキネのことはおにのように見えてしまっている。普段は小さくて可愛い妹だったのにね。




