ʏ( 十 )ʏ 実は……
「……あれ? わたしは? ここは?」
気がついたらわたしは自分のへやで目覚めていた。いつもの体で、昨日着ていたねまきの格好。
「やっぱり全部夢だったね」
うん、知ってたよ。夢だからようやく覚める時間が来るのも当然ね。でもなんか頭の中よく覚えている気がする。いい夢だったから簡単に忘れられなくて、これからも一生覚えているかもしれないね。
なんかこのへやはせまく感じてしまったね。妖精のときすごく広く感じていたから。いま体が重い気もする。
時計を見たら、いまの時間は9:37になっている。ゆうべ目覚まし時計を設置していないからずいぶんとおそい起床になっちゃったな。きょうは日曜日だから別に問題ないと思うけど。
「お姉ちゃん……」
妹のアキネがドアを開けて中に入ってきた。
「あ、また寝てたの?」
起きたばかりの姿のわたしを見てアキネはあきれたような顔をした。
「いま『また』って言った? わたしは起きたばかりのはずだけど」
「あれ? だったらさっきのちっちゃな妖精の姿のお姉ちゃんは何なの?」
「あ、あれは夢……。え? ちょっと待って! なんでアキネはそんなことを?」
あれはただわたしの夢だろう。だったらアキネは知らないはず。
「はい? さっきわたしのへやに入った妖精は本物のお姉ちゃんでしょう? もしかしてちがうの?」
「それは……たぶんちがわないけど、あれはただわたしの夢のはず」
「夢? 何を言っているの? お姉ちゃん寝ぼけている?」
「まさか……。そんな……」
そんなわけないと思ってわたしは体を起こしてベッドから下りてへやを見回って調べ始めた。そして机の上に『妖精』と書いてある紙を見つけた。これってわたしが小さな妖精の体になっていたときにがんばって巨大なえんぴつを持って書き上げた文字だ。
「やっぱりあれは夢ではなかったのか……」
ってことはさっきの出来事は全部……。わたしが妖精になって飛び回ったことも、リスさんをもふろうとしたことも、マユユキくんのへやにもぐりこんだのも、巨大なケーキを食べたのも、そして告白して……ちゅうをしたのも……。
あんなだいたんなことをわたしが……。だって、夢だと思ったらつい調子に乗って……。
わたしはマユユキくんのことが好きって言った。そして彼もわたしのことが好きって言ってくれた。それはすごくうれしいのだけど……。
「や……やだっ!!!」
「え!? 何? お姉ちゃん落ち着いて。お母さん、お姉ちゃんはいま大変なことに!」
こうやってよくわからないけどわたしの不思議な朝の体験は終わりを告げた。
ただ、今後どんな顔をしてマユユキくんと会えばいいの……?
おしまい
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
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