ʏ( 一 )ʏ 夢の中?
朝目が覚めたらわたしは大きな大きな……巨人のへやの中にいた。
ううん、『大きい』と言っても実はここって……わたし自身のへやだよね? そのはずなんだけど……なぜか何もかも巨大に見える。
周りには巨大な机やいすや本だなや窓……そしていまわたしが乗っている巨大なベッドの上の巨大なまくら。いまのサイズ感ではまくらというよりソファみたいかも。
「やっぱり……わたし、ちっちゃくなったんだ……」
よくわからないけど、たぶんこういうことだと思う。へやはわたしの知っている自分のへやのまんまで変わっていないし。変わったのはわたしだけみたい。
わたし、妖咲精唯はいま小学5年生でもうすぐ11才になる。まだ小さいけど、それでもそれなりに成長して、最近身長140センチに達したところ。そのはずだったけど、いまはこんなにもちっちゃく……。具体的なサイズはよくわからないけど、とりあえずちっちゃい。きっと赤ちゃんよりもちっちゃい。たぶんニンギョウくらいのサイズ?
「この服は?」
わたしは自分の服の変化に気づいた。いま着ているのはゆうべ着ていたじみなねまきではなく、なんかすごく可愛らしいあざやかな緑色のドレスだった。まるで大きな葉っぱで作られたみたい。きじは軽くて動きやすくてきごこちが悪くない。そではなくてかたとうでは全部あらわになっている。下半身のスカートの部分はひざくらいまでの長さで、すそにフリルがついてはなやか。
「これは……ハネ?」
体に何か慣れないところを感じると思ったら……どうやら自分の背中にハネみたいなものがついているようだ。形はチョウチョウのハネと似ているけど、はんとうめいでドレスと同じ緑色でキラキラに見える。
「動かせる……?」
もともと人間にはない器官のはずだけど、なぜか何となく自分の体の一部としてあつかえる気がする。わたしがこれを動かそうとしたら……あ、動いた! 自然に思ったまま動かせたみたい!
「やった! わたし、いま飛んでいる!?」
試しにハネをはばたいてみたらやっと体がういてきて、いまわたしは空中にういている。これって『飛ぶ』ということね? トリやチョウチョウみたいに。最初はまだ慣れなくてちょっとふらついて落ちそうになっていたけど、しばらくしたらどんどん慣れてきてやっと思ったまま飛べるようになった。
「やっぱりこのへやって大きいね!」
わたしはへやの中で飛び回ってみた。なんか楽しい。いまのわたしはちっちゃいから、もともと自分のへやなのにすごく広い空間に感じてしまう。
「これがわたし?」
わたしは机の上に置いてある手鏡をのぞいて自分のいまの姿を調べてみた。やっぱりわたしはわたしのままで、顔も手足も変わっているようには見えない。まるで自分の体をそのまま縮小化したって感じ。変わったのは体の大きさと、ハネがついているところ、そして服装くらいかな? あ、よく見たらかみの毛にきれいな花みたいなかみかざりがついている。
「まるで妖精……」
人間みたいな姿だけど人間よりずっと小さくてハネがついている生き物、それは『妖精』というものだよね? これは絵本やアニメからの知識だ。
もしかしてわたしは妖精になったの? でもそんなもの本当に存在するの?
幼児園や小学生低学年のころならその存在を信じていたけど、もう5年生になったいまのわたしはさすがに現実世界でそんな生き物は存在するはずないってことを理解してしまったんだよね。それなのに……。
「そうだ。きっとこれは夢ね!」
わたしはこういうのあこがれていたんだよね。空を自由に飛べる妖精ってすばらしい。実はトリとかもいいけど、やっぱりできれば人間の姿でいたいよね。トリはツバサを持って空が飛べる代わりにうでも指もないからいろいろ不便そうだし。だからうでもハネもついている妖精のほうが理想的だと思う。
「14センチかな?」
ちょうど机の上に物差しが置いてあるので、わたしはその上に体を乗せて自分のいまの身長を測ってみたら、こういう結果が出てきた。このサイズはたぶん人間の手のひらと同じくらいかな? やっぱり妖精ならこれくらいのサイズっていうイメージね。
「ということは……ちょうどもとの10分の1くらいね」
14/140 = 1/10で、簡単な分数ね。実はわたし、数学が結構得意だと思うよ。えへん。
「えんぴつが重い……」
物差しのとなりに置いてあるえんぴつを持ち出そうとしたが、いまのわたしにとってまるでまるたみたいに大きくて……。持てなくはないけど意外と重くてあつかいにくい。このえんぴつの長さはわたしの身長よりも長いし。
それでもわたしはがんばってえんぴつを動かしてとりあえず髪に漢字を書いてみた。いま覚えている漢字はまだ少ないけど、漢字を書くのが好きだから毎日がんばって勉強している。
「これでよし!」
ようやく『妖精』という漢字が完成した。これはわたしの名前にも使っている文字だからいつも書いていてかんぺきに覚えている漢字だけど、今回書くのに時間がかかってしまったね。しかもあまり強くおす力がないから線がうすくて、形も整っていなくてあまりきれいとは言えない。
体が小さいと、やっぱり力もの弱くてぎこちなくて不便なところがあるね。夢(?)だからもっと楽だと思っていたのに……。
「ではへやの外も……」
せっかくこんな体になったから外でも遊んでみようかな……。と思ってへやのとびらに向かって飛んでドアノブを回そうとしたら……。
「動けないっ!」
両手でドアノブをしがみついて回そうとしたけど、やっぱりびくともしない。いまの小さな体ではドアノブさえ大きすぎてムリみたい。それにたとえ回せたとしてもこんな巨大なとびらをおし開けるなんてできる気はしない。
「どうしよう……」
へやを出るには普段このドアしかないし。他の方法は……。
「あ、そうだ。窓!」
いまわたしは飛べるのだからいつもよりせんたくしが多いはずだよね。ドアが通れなければ窓を使えばいいだけの話。
さいわい、夜わたしは寝るときいつも窓を少し開けているから。ちょっとせまいけど、いまのサイズならこのすきまから簡単に外に出られるね。
「よし、出られた」
こうやってわたしはへやから飛び出て朝の青空に向かう。妖精としてのちょっとした小さな冒険が始まる。




