堕落
最初は趣味だったと思う。
いや、趣味以前のものだっただろうか。
俺は、親にも世間にもあまつさえ自分にも甘え続け家に引きこもり続けていた。
そんな毎日が無限に続いて欲しいと思いながらも日々を退屈に感じていた。
今はネットで読書ができる時代だ。俺にとって読書は趣味になった。
初めは面白い本に出会えた。しかし、飽き性な性格が邪魔をしてすぐにつまらなくなっていった。
俺がつまらないなら自分で書けばいい、と考えに至るのにそう時間は要らなかった。
最初の作品は雑だった。雑という1文字でも表せないくらい雑だった。これは文豪やそれに準ずる全ての文筆家にとって冒涜になりかねない作品だったと言える。
今なら俯瞰してそう思えるが、その時の俺は知らなかった。
そして公開した。今の時代はネットでいくらでも素人の書く小説は転がっている。そこに転がす方法もネットを使えば簡単に調べられる。
俺はそうしてネットに投稿した。そして瞬く間に大ヒットした。
そこからはまさにとんとん拍子。大手の出版社からの書籍化のメール、アニメ制作会社からのアニメ化の打診。グッズ化をした頃には既に懐は十分過ぎるほどに潤っていた。
社会現象になった頃には都心にマイホームを買った。高級車を何台も買って高級ブランドも買い込んだ。
もちろん自分への評価は賛否両論だった。
小説家にとっては「冒涜だ」という人間もいた。しかしこれまでで膨れ上がった自尊心にとってその言葉は自分へと嫉妬だと思い、よりいっそう膨らませることしか無かった。
しかし、その生活も長くは続かなかった。
財布の潤いは一時的なものでそれ以上入ってくることはなかった。これ以上維持できないために車もハイブランドも売り払った。
(もう一度書こう。なんせ雑に書いたものがあそこまで評価されるんだから。同じようにヒットさせれば問題は無い。)
しかし逆転は2度も起きなかった。
実家にまた引きこもり、何度も夢を見て、何度も投稿する。
次第に俺はネットで一発屋のレッテルを貼られた。
自分への葛藤や苛立ちを殴り書きした紙が部屋の壁一面にびっしりと貼られていた。
ここ最近は寝れなくなってきた。
不眠が原因で体調を崩してもなお考えて書き続けた。
次第に視界がぼやけてきた。今になって涙が出てきた。悔しい。この感情はどこに向けるべきなのか。
椅子から崩れ落ちてうずくまる。
胸が苦しい、次第に呼吸が乱れてきた。
薄れゆく意識の中で俺は死を悟った。
俺は天国に行けるのだろうか。
そんなわけがないだろう。
身勝手でわがままで飽き性で気分屋で。
全てに甘えながら生きてきた。
だから俺は「堕落」この二文字にさえ甘えながらどこまでも堕ちてゆく。
今日からほぼ毎日、この程度の小説を考えようと思ってます。
良ければお付き合いいただけると幸いです。