第四話 生徒会長と一人の少年
「ステラって一体何者なの?」
「え~と…… それは」
その言葉を聞いたステラは焦りだした。
事の出来事は今から約10分前、生徒会長のことを話したのが間違いだった。
約10分前 第一特別棟4階
「本当に大丈夫か?」
「うん、大丈夫よ。ステラがついてきてくれるから安心」
「///」
ステラは顔を隠した。
(アメリアさん…… 可愛いすぎだろ)
家族以外の女性と面識がないステラだったが、間違いなくこの学園でトップクラスの可愛さだった。
「ステラはあの生徒会長のこと、知っているの?」
「あぁ…… 知っている。あれだろ、学園最強の称号を持つ生徒会長だろ。確か二つ名があったよな。〈女帝〉だったかな」
「そうよ。学園最強の称号と二つ名を持つこの学園の生徒会長は、どんなことでも逆らってしまったら、容赦なく退学送りになる。過去にも彼女に逆らって退学になってしまった生徒が、何人かいたと思う」
「そうだったんだ……」
ステラは立ち止まり首を傾ける。
「どうしたの?」
「いや~ 僕の知っている生徒会長と今の生徒会長の印象は全然違うような」
「え? それって……」
「……」
(この先の事を考えるなら…… でも……)
不安でしかなかった。もし彼女がスパイだったら、間違いなく終わるだろう。
(彼女の力になるって言ったんだ)
ステラは拳を握りしめ、決心した。
「今から話すけど、絶対に他の人に言わないこと。いい」
「うん。分かった」
ステラは再び歩きだし、過去の生徒会長について話した。
「あれは僕がまだ、4歳の時の頃のお話だ」
僕は昔、家の都合で屋敷の外から出られない日々が続いてた。毎日剣や魔法、軽い運動をする以外は外に出てはいけないから、苦痛を感じていた。
そんなある日、父の紹介で生徒会…… いやジュリカが、僕の家に来たんだ。その時見たジュリカは、とても明るくて優しい子だった。
以降、ジュリカは毎日のように僕の家に来た。
毎日のように遊んだり笑ったり、時には喧嘩もした。ジュリカと出会ってからは毎日が変わったように思えた。ずっと続いてほしい、このままでいたい。そんなことを思っていたけど長くは続かなかった。
ある事件をきっかけに、ジュリカは家に来なくなった。
それは……
〝王太子暗殺未遂事件〟だ。
その事件に関与していたのが、ジュリカの父ゲルト・カルトス・ザ・オルトフォートだったんだ。
いち早くその情報に気づいた父は、すぐにオルトフォート公爵家の出入りを禁止したのさ。
それが原因で、オルトフォート公爵と戦争になってしまった。
多分アメリアさんも知っている、ネフェリル神聖王国史上最悪の内戦〈ラフェスタ内戦〉が、始まってしまった。
それが始まったせいで、しばらく続いた手紙のやり取りも途切れてしまった。それ以来、内戦が終わるまではジュリカとは一度も会っていない。
3年後、内戦は反ネフェリル政権派の降参により終わった。
その情報を聞いて僕は、父にジュリカの家に連れて行くようにお願いをした。敵派閥のジュリカに会いに行くのは、父が許すはずがないと思っていた。でも父は優しい手で僕を、オルトフォート公爵家領に連れて行ってくれたんだ。
オルトフォート公爵家領で見た光景は、焼け崩れた大きな屋敷と焼け野原が広がっていた。
少し歩いていたら、オルトフォート公爵家領の町の人から手紙をくれたんだ。差出人は…… ジュリカだったんだ。
〝親愛なるステラへ
この手紙を見ていると言うことは、私は生きていないと思います。
この1年間、貴方といる毎日はとても大切な時間でした。決して忘れられない思い出だと思います。
父の正体を隠していたことは本当にごめんなさい。貴方はきっと、怒っているでしょう。
でも、貴方を大切に思っていることは嘘じゃありません。本当ですよ。
たとえ私が生き延びたとしても、決して探さないでください。貴方を悲しませることになるから。
最後に、これだけは言わしてください。
本当にありがとう
ジュリカ・フォメス・ザ・オルトフォート〟
僕はその手紙を見て思わず涙を流したんだ。とても悲しい気持ちになったんだ。
もう2度とジュリカとは会えない。
だけど、それからしばらく経ってある噂を聞いたんだ。オルトフォート公爵家はどこかで生きているらしいって。僕はそれを聞いて、ネフェリル神聖王国中に使者を送った。
でも結局見つからなかった……
「それから5年後の今、ようやく彼女を見つけたんだ。でも明るかったジュリカがまるで、人が変わったかのように思えてしまった」
「それって違う人なんじゃないの?」
「違うわけないと思う。髪の色も、持っていた剣も昔のままだし」
確かに別の人かもしれない。
でもあの魔力の量…… 間違いなくジュリカだった。
「そうなんだ…… じゃあ今の話を整理すると、ステラはあの生徒会長のことが好きだったのね」
「ちっ、違うから。なんか誤解していないか?」
「違うの…… でも今の話は完全に恋話だけど」
「違う! 全然違うから」
ステラは手で顔を隠した。
「だけどありがとう。アメリアさんに話せてよかったよ」
「いやいや、私はただ聞いていただけだから。そうだ、一つ疑問に思っていたことがあるんだけど」
「何だ?」
「ステラって一体何者なの?」
ここで先程の質問が来る。
今の話だと完全に正体を言っているような……
「僕が何者かって?え~とそれは…… あ、ついたぞ」
「ちょ……」
ステラはアメリアから少し距離をとった。
(あぶね~ 危うく言いそうになった)
深く息を吐く。
こうして、ステラとアメリアは生徒会長室の目の前までやってきた。
「準備はいい?」
「ああ」
アメリアは扉を3回ノックした後、「入れ」という言葉が扉の向こう側から聞こえ、一礼して生徒会長室に入っていった。
ステラもその後に続いて入った。
「失礼します」
「まさか変わり者の〈Underachiever(劣等生)〉が来るとはな。想像もしなかったよ」
アメリアはジュリカの前に行った。
「約束どうり来ました」
「そのようだな…… お前らは下がれ」
数人の護衛が生徒会長室を出ていった。
「では本題に入ろうか」
するとジュリカはアメリアに、ある資料を見せてきた。
「これは何でしょうか?」
「これはだな…… 君の個人情報が書かれた資料だ」
「私の個人情報……」
普通なら個人情報を詮索、追求することはこの国では違法とされているが、公爵家の地位があると捕まらない。
結果、オルトフォート公爵家は生きていたのだ。
「この個人情報を見ると、ここだけどうしても引っかかるんだよな。なぜ君は、エレファンの名前を使って入学手続きを行っていたのか。説明してくれないか」
(なんだと…… アメリアさんが僕の家の名前を使っていた……)
ステラは自分の耳を疑った。
「エレファン侯爵様の名前を使っていた理由は2つあるわ。一つ目は私たち新ネフェリル政権派のトップである、エレファン侯爵様の名前を使うことで男爵家の私でも入学できたこと」
アメリアは資料を置いた。
「二つ目は今年エレファン侯爵様の三男である、ステラ・フォン・エレファン様が入学すると聞きました。その従者役を条件に名前を使って良いと言われたからです。ですがステラ様の姿が見えなくて…… ステラ様はこの学園にはいないのですか?」
その瞬間、ジュリカの顔が怖くなった。
「何…… あの、ステラ・フォン・エレファンがここに入学しているだと。だが今年の入学報告書によると、そんな名前のやつはいないのだが」
ジュリカは大量の名前が記載された紙を見た。
「でも、入学したと聞きましたが」
「そうか…… 後でもう一度、全生徒の名簿を見ておこう。話は以上だ。君の身元が判明した以上、退学させる理由はない。しっかりと学園を楽しんでくれ」
「は、はい! ありがとうございます!」
アメリアは何度も礼をした。
「下がっていい」
「失礼します」
アメリアが生徒会長室から出ていった後にステラも出て行こうとした。
「僕もこれで……」
「ダメだ。お前は少し残ってもらおうか」
「え……」
ステラはジュリカに呼び止められて、手に汗が滲んできた。
(もしかして…… バレたかな……)
アメリアが生徒会長室を出てしばらくして、ジュリカはこんなことを言い放った。
「お前…… どこかで会ったことがあるよな」
(やばい、本当にばれそう)
ステラはすぐに逃げれるように、魔法陣を展開する準備をしていた。
とりあえず否定してみる。
「いや~生徒会長とお会いしたのはこれが初めてですよ」
「8年ぐらい前だったかな。だが私もあんまり覚えていない。多分記憶違いかもしれないか」
「か、勘違いだと思いますよ」
「そうか」
ステラはすぐに生徒会長室を出ようとした。
しかし……
「お前、なぜ劣等生のフリをしている」
「試験を受けていないから、劣等生になるのは当然だと思いますが」
「再試験もあったのだぞ。普通なら不合格のはずだが」
「それは…… なぜでしょうかね~ ですが、一つだけ言わしてもらいます。あんまり僕のことを知らない方が身のためですよ。貴方を悲しませることになるかも。それでは失礼します」
バタン
「チッ…… なんだと。おい、ラント。今の生徒の個人情報を入手してこい」
「分かりました」
「覚悟しておけ…… 劣等生」
生徒会長室を抜け出したステラは、手を胸に当てた。
(ひとまず安心だな)
しばらく歩いていると、アメリアを見つけた。
「アメリアさん、ここにいたのか。どうしたの?」
「ねえ…… 貴方本当にステラ・ゼロなの?」
「あぁ…… もしかして、さっきの話聞いてた?」
「うん、ごめん」
アメリアは廊下から聞いていたらしい。
「別にいいよ。あの話をしたらきっと、僕の本当の正体がバレると思ったから」
「さっきの生徒会長と貴方の関係のお話?」
「あぁ、この際だから君に全部話すよ。僕はステラ・ゼロではないんだよ。本当の名前は…… ステラ・フォン・エレファン」
「嘘でしょ……」
アメリアは少々驚いた顔をしていた。
「本当だ」
「本当なのね」
アメリアの優しい手がステラの手を握る
「やっと会えた」
「泣かないで…… 可愛い顔が台無しだよ。ほらハンカチ」
「ありがとうステラ」
ステラは初めて女の子を泣かせてしまった。
彼女にとってステラがステラ・フォン・エレファンと知って嬉しいのだろう。
でも彼女の瞳に映るステラの姿は、少し不安そうな顔をしていた。