第十九話 新剣フレスグレズ
「いらっしゃいませ。何をお探しで…… おや、これはステラ様ではありませんか」
後ろを振り向くと、服を着ていても筋肉のつきかたがわかる体をした男性が立っていた。
「久しぶり、ジェバルトさん」
お互い歩み寄り握手を交わす。
「隣の方は……」
「初めまして。私はアメリア・アフォルト」
「アメリア様ですね。ステラ様からお話は聞いております。私はここの武器屋のオーナー、ジェバルト・ダミアンと申します」
アメリアも握手した。
(この人の手……)
ジェバルトの手は想像していた以上に大きく、岩のように硬かった。
そして、挨拶を終えた二人は本題に入った。
「今回は直して欲しい剣があってきたんだ」
「なるほど…… では、その剣を見せて頂けますかな?」
「これよ」
アメリアは手に持っていた袋を机にひろげた。
「これは…… 相当やばい状態ですな」
「やっぱり……」
「ちなみに、この剣は試合中に折れたものですか?」
「いや、試合後だ」
「試合後ですか…… 少しよろしいですかな」
「もちろん」
ジェバルトは剣の破片を手に取り、手から綺麗な丸の輪が描かれた魔法陣を映し出した。クロウとは違う魔法陣のように見える。
専門的な鑑定魔法と、ステラは思った。
それから数分が経過し、ジェバルトは眉間に皺を寄せながら破片を置いた。
「何か分かったの?」
「えぇ…… その前に一つ質問させてください。この剣は普通の剣ですか?」
その質問は違和感を覚えるような質問だった。
「いや、私の紋章に対応した魔剣だけど」
「なるほど……」
ジェバルトは魔法石を《フレスグレズ》の横に置いて、何か確かめる。
「これで確信しました。これを見て頂けますかな」
ジェバルトは掛けていた眼鏡を外し、ステラとアメリアとアメリアの前に魔法石を置いた。二人はその魔法石を覗く。
見たところ普通の魔剣に見えるが……
「この魔剣にはあるものがないんです」
その言葉でステラは気づいた。そう、魔剣にはあるはずのものがない事に。それは……
「〝核〟か……」
「その通りです」
魔剣には核と呼ばれる魔力の中枢がある。この核を通して魔剣を強化したりできる。
そして最大の特徴として、魔剣だけ核が存在し、聖剣や普通の剣のように魔剣以外の剣には核がないというのが挙げられる。
「つまり、壊した犯人が核を奪ったと言うわけか……」
「そうだと思います」
「犯人はすぐに見つけられるの?」
「いや、難しいな……」
犯人は魔剣を所持していることが分かる。だが学園には沢山の魔剣があるため、犯人を見つけるのは至難の業だ。
それに、魔剣に吸収された核を見つけ出すのはほぼ不可能と言えるだろう。
「だったらどうしたらいいの?」
「今は、生徒会長の返事を待つのみかな」
「それがいいと思います」
「分かったわ」
無闇に動いたら犯人も姿を現さないだろうと、ステラは考える。とにかく今は待つのみ。
「そうだジェバルトさん。核のない状態の壊れた魔剣は直せるの?」
「残念ながら、直したとしても魔剣としての機能は果たせませんな」
「そんな〜〜〜」
無理もない。
いくら形を元に戻しても核は元には戻らないため、核がない魔剣は普通の剣と同じだ。
「ですが……」
ジェバルトは棚にあった木箱を開ける。
中に入っていたのは、魔剣の核が入った瓶だった。
「新しく作り上げるのは可能ですよ」
「ても、私が使っていた剣じゃなくなるわ」
「大丈夫です。アメリア様の剣と同じ仕上がりになります」
「本当に?」
「はい」
そう言って、案内されたのはお店の奥にある工房だった。
工房には様々な道具が置かれていたが、中でも一番大きい道具の前に三人は立っていた。
「アメリア様、ここに折れた剣を全て置いてくれますか」
「分かったわ」
折れた《フレスグレズ》は道具の土台に置かれ、同時に木箱の中に入っていた瓶を隣に置いた。
一体何が始まるのだろうか…… ステラはただ見つめていた。
「それでは始めます…… 〝蘇生〟」
次の瞬間、《フレスグレズ》は光に包まれた。剣が元に戻っているのが分かる。
そして、数秒もしないうちに綺麗な刀身が光から現れた。
「「……」」
唖然とする二人。
「どうしたのですかな」
驚きのあまり固まっている二人を見て、ジェバルトは声をかける。
「魔剣ってそうやって直すのって思って……」
「今回は特殊ですからな。この方法で直させていただきました」
ジェバルトは出来上がった刀身を布で拭き鞘にしまった。
「さて、最後の仕上げに入りましょうか」
持っていた剣をアメリアに渡す。
(前よりも少し重い感じが……)
違和感を覚えるが、そこまで気にするようなことではなかった。
「アメリア様、紋章を発動してください」
「分かったわ」
アメリアの右手には、滑らかな曲線が複雑に交わった紋章が浮かび上がる。
「完成しましたな…… 鞘から刀身を抜いてみてください」
アメリアは鞘から刀身を抜く。白藍色に染まる刀身はまるで宝石の剣のようだった。
鞘から《フレスグレズ》を抜いたアメリアは一振りする。
「こんなに軽くなるの……」
握っている本人は驚いた表情を見せた。
「はい。今回、アメリア様に合った素材を配合させていただきました」
「どんな素材を使ったの?」
「ヒスイ輝石とフレスグレズに使われた鉄を使いました」
(ヒスイ輝石? 一体どんな素材なんだろうか……)
質問しようとしたが、ジェバルトは工房に戻ってしまった。
「そろそろ、帰ろっか」
「そうね」
二人は帰る準備をする。すると、ジェバルトは工房から戻って来た。
「お帰りになるのですね」
「あぁ……」
ステラはお金をジェバルトに渡した。
「今日は本当にありがとう」
「直せて良かったです。また何かあったら来てください」
こうして、二人は武器屋を後にした。
「今日はありがとう」
「僕は何もしてないけど…… でも、直せて良かった」
「そうね。本当に良かった……」
「これで明日から戦えるわ」
「そうだな。頑張ろう」
二人は夕日が照らす大通りを歩いて寮へと向かっていった。
男子寮
ステラは小型魔法石からメール欄を開くが……
「……」
結局、ジュリカからの返事は来なかった。




