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盗人

豪雨とカプチーノ

作者: 横瀬 旭

 あれは三日前、雨の日だった。暴力みたいな雨が降っていた。たゆたうなんてもんじゃない。雨粒が傘を殴りつけていた。


僕は駅前の牛乳屋でカプチーノを買い電車に乗り込んだ。次の駅から地下鉄日比谷線に入るが、南千住までは地上にプラットホームがある。


電車は大雨の東京をゆっくり走る。北千住に到着し、ドアが開く。事件が起きたのはその時だった。


 人が殺された。雨の音で掻き消され、音もなく殺された。


八丁堀の辺りで乗客が車内の異臭を駅員や車掌に訴え、電車は運転を見合わせた。


殺された人間の死臭だった。そんなに早く臭うものなのだろうか。僕にはわからない。


容疑者は殺された人間と仲良く喋っていたという。容疑者が手に持っていた飲み物を殺された男が飲むと、すぐに眠ってしまったという目撃情報があった。


容疑者は電車を乗り継いで代々木まで行き、夜汽車に乗って逃亡したそうだが、誰がそんな戯れ言を言ったのだろう。


 次の日、僕は牛乳屋で昨日と同じカプチーノと新聞を買い、駅には向かわず家に帰った。


八十年近く前のことを未だに取り上げる老害の記事にうんざりしながら新聞を捲ると、昨日僕が起こした事件が地域面に小さく載っていた。


 殺したのは僕の親友だった男だ。カプチーノに毒を入れて飲ませた。彼は僕のギターを借りたまま返してくれなかった。


「ギター返して」とメールを送っても無視をされた。


世界中の音楽家は連日の暴力みたいな雨に打ちのめされて吹き飛んでしまえと思う。音楽家はみんな盗人だ。人の楽器も、作った作品も盗んでしまう。


 僕は今日、自首しようと思っている。君達は、この文章を読むまでこの事件があった事すら知らなかっただろう。僕は存在感がない。犯罪を犯したとしても、犯人だと思われることもない。


殺された彼は、ギターが僕の物だということも忘れていたのだろう。


警察署に向かう道の途中、下山国鉄総裁追憶碑の前に立ち、東京拘置所の上に屹立する入道雲を眺めた。


気づけば蝉が鳴いている。蝉の鳴き声を聞くのは、久しぶりだった。

取り調べにて犯人の供述


「彼を作文の中で殺せればあとはどうでもよかった。

申し訳程度のパクりも、ダジャレも、知識のひけらかしもただの字数稼ぎ

小菅にローソンはないし、夕方で大雨だと北千住と言えど人は少ない。

カプチーノに毒を入れたことはないし、そもそも人を殺したことはない。

さらに言えば、あそこから拘置所は見えない」


犯人はフィクションを主張している。

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