漫才「カレー」
漫才「カレー」
配役:ボ……ボケ
ツ……ツッコミ
ツ「どうも~、よろしくお願いします」
ボ「開口一番、カレーの話するよ」
ツ「どうした、いきなり。でも幸い、僕もお客さんも水筒にカレー入れて持ち歩いているからね。話続けて」
ボ「無性にカレーを食べたくなる時ってない?」
ツ「あるね。カレーなんて小さい頃から大好きでたくさん食べてきたし、今でもしょっちゅう食べているね」
ボ「そうそう。ウチはさ、お母さんが作ることが多かったけど、お父さんのもおいしかったな。お母さんのは甘口で野菜がたっぷり入ってるんだけど、お父さんのは辛口でお肉たっぷりの男のカレー。それでどっちもうまい」
ツ「両親で作るカレーが違うのね」
ボ「そうそう、それで実家のカレーが無性に食べたくなる時があるんだよね。でさ、家の近所に、その欲求を完璧に満たしてくれるカレー屋を見つけてさ。ナマステって名前なんだけど」
ツ「絶対インドじゃん。インドカレーじゃん」
ボ「そうだよ? 実家の味じゃん」
ツ「どんな実家だよ。インドカレーで育ってきたってこと?」
ボ「というか、インドカレーって何? カレーにインドも日本もないだろ」
ツ「いやいや、あるよ。日本のカレーは普通にカレーとかカレーライスっていうけど、インドのはインドカレーっていうじゃん」
ボ「もしかしてお前、広島風お好み焼きとか言っちゃうタイプだろ? 敵をたくさん作りそう」
ツ「言ってないし、お好み焼き関係ないだろ。日本のカレーってのはいわゆるカレールーを使ったドロドロのスープで、野菜とか肉がゴロゴロ入っている感じだよ。家で作るカレーはこれが定番じゃないかな?」
ボ「ドロドロスープならお母さんのカレーがそうだな。ドロっとしていて緑色の、サグパニールカレーね」
ツ「なんだよそれ、聞き取れなかったよ」
ボ「Saag paneer」
ツ「発音を良くしても分からんよ、ネイティブじゃないから。緑色のカレーってすごいね」
ボ「ほうれん草のペーストが入っているんだよ。サグがほうれん草、パニールがチーズって意味なんだ」
ツ「濃厚でおいしそう」
ボ「そう、うまいんだ。オススメするよ、作るの簡単だし。ヘルシーで、そこらへんの草入れてもいいし」
ツ「雑草入れんなよ。もしや、ネットの面白レシピを参考にした?」
ボ「母さん直伝のレシピだよ。家庭の味っていうか」
ツ「カレーが家庭の味ってのは分かるよ」
ボ「でも、時々味がぶれることがあったな。苦かったり酸っぱかったり、熱が出たり、河童と出会えたり」
ツ「雑草以外の草入っているだろ。ヤバイ家庭。もはや、ぶれているのは味じゃないし、病気になってるし。最後は幻覚だし」
ボ「今思ったけど、カレーが実家の味って、よく考えると変な感じしない? まだ日本に入ってきて100年そこらなのに定番になっていてさ。インドとかネパールの本場と肩を並べちゃったよって感じだね」
ツ「急に正論」
ボ「でもさ、具とか全然違うよね。インドではジャガイモやニンジンを入れるけど、日本ではマトンやサグを入れるよね」
ツ「逆逆。さらっと言っているけど違和感すごいよ。実家の味に引っ張られて常識がグチャグチャだよ。話戻すけど、君のお父さんは肉たっぷりのカレーを作るんでしょ? どんな感じなの?」
ボ「やわらかく煮込んだお肉がたくさん入っていて、ルーはサラサラで辛口。マトンカレー」
ツ「やっぱりインドじゃん。母は北インドで、父は南インドじゃん」
ボ「詳しくない? インド料理のこと」
ツ「カレーファンだから当然。ちなみに、うちの実家のカレーは、辛口と甘口のルーを合わせているんだよね」
ボ「なるほど、複数の組み合わせでコクを出しているのね」
ツ「そう。そしてさらに、隠し味にコーヒーと蜂蜜を使うんだよ」
ボ「カレーライスの上にコーヒーと蜂蜜をかけるとか、どんな神経しているの?」
ツ「かけないよカレーライスには、皿の中がびちゃびちゃドロドロだよ。作る過程で入れるに決まってるじゃん」
ボ「トッピングなのかと思ったよ。福神漬けみたいにさ」
ツ「なるほどね。トッピングはするけどさ。福神漬け好きだし、カツカレーも好きだし」
ボ「あとね、納豆。これがね、意外にマッチするんだよ」
ツ「納豆入れる人がいるのは知ってたけど、まさか君だったとはな」
ボ「これ騙されたと思ってやってみな、うまいから。やり方教えるね。まず、ナンを一口サイズにちぎります」
ツ「やっぱりナンなのね、米じゃなくて」
ボ「次に、ナンにほうれん草とチーズのカレーを付けます」
ツ「はい。ナンに緑色のうまみ液が付きました」
ボ「最後に、十分混ぜた納豆を乗せます」
ツ「はい、台無し。インドカレーは日本の地で魔改造されてしまいました」
ボ「というのをね、今度インドカレー屋さんに行ったら試してください」
ツ「絶対やらないよ。もういいよ」