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神になろうとした男

 私の放った神経毒は、既に充満している。

 この大広間で自由に動けるものは、この私だけだ。

 此処にいる者達はまともにやりあえば一騎当千の強者達だろう。この私とて勝ち残れる保証はない。

 しかしそんなものは最早関係ない。

 私は今までの人生で勝続けてきた。

 この勝負も、やはり私の勝ちだ……


 リヒテンシュタインは既に勝利を確信していた。

 カウンターバーで蹲っているモヒカン頭の大男が、物凄い形相で彼を睨み付けてきた。


「上等だぜ、コラ……どうやら最初に死にたいのはオメエらしいな……」


 そう言うとモヒカン男は斧をかまえ、リヒテンシュタインに突進してきた。


「くたばれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 だが、その愚直な突進はすぐに阻まれる。

 

「うぐっ!!?」


 モヒカン男は脚をもつれさせて転倒した。

 毒使いの顔に勝ち誇った冷笑が浮かぶ。


「無駄ですよ……瘴気は私の周囲ほど濃くなるのです。貴方がたは私に近付く事すら出来ないでしょう……まあ、早死にしたい方はいつでもこの私の元へ来てください」


 毒使いはそういうとウエルカムとばかりに両腕を広げて見せた。

 

莫迦(バカ)が!!だったらこうするまでよ!!」


 モヒカン男は斧を振り上げると、トマホークの要領でそれを投げつけた。


「ヒャッハーーーーーー!!!!」


 ドッガァッッッ!!


 物凄い音を立てるも、投げつけた斧は狙いを大きく外れ、毒使いの傍らに立っていた石柱に当たり、そこにくい込んだ。 

 

「クックック……無駄だと言ったでしょう。既に神経毒は皆さんの身体の自由を奪っています。最早投擲も、集中力を要する魔法も使用できません。勿論アンチドーテは効きませんよ……この神経毒は私が独自に開発した猛毒です。解毒剤など、最初から存在しないのです」


 優越感に浸りながら、解説を続ける毒使い。


「この空間において無事でいられるのは、あらゆる毒物に免疫を持つこの私だけです。もうすぐ完全に身体は動かなくなり、数分後には呼吸すら出来なくなるでしょう。貴方がたは戦う事すら出来ずに、ここで人生の終焉を迎えるのです」


 毒使いは自身が認定する「敗者たち」を見渡してた。

 自分は今までの人生でずっと勝者だった。

 今回も例外ではない。

 神に選ばれた戦士達も、自分の前では所詮赤子も同然だったのだ。


「ここで出会ったのも何かのご縁です。皆さんの死出の鎮魂歌(レクイエム)代わりに、私の願いを聞かせて差し上げましょう」


 彼は吐き気を催す程の邪悪な笑みを浮かべて、勝利宣言ともとれる発言をした。


「私の願い……それは人類の選別です」


「何……」


 銀髪の剣士が眉をひそめた。


「この世には“生きるに値しない命”が多すぎます。私はそういった価値のない命を粛清し、私の認める優秀で善良な人間にのみ生きる資格を与える。そして選ばれし優れた人間のみが暮らす、戦争も犯罪もない理想の世界を作り上げるのです」


「……呆れた奴だな、貴様、神にでもなったつもりか!?」


 銀髪の剣士は嫌悪感を露にするが、毒使いにとってそれは最早負け犬の遠吠え程度のものだった。


「ヒャッヒャッヒャッヒャ……大した悪党だな、オメエもよ!!」


 床で蹲っているモヒカン男が下卑た笑い声をあげた。


(下卑た負け惜しみだ……)


 毒使いはそう切り捨てると、睥睨して彼に言い放った。


「フン……特に君みたいな無頼の輩は私の最も軽蔑する人種です。正直こうして視界に入っているだけでも、不愉快極まりませんね。私が優勝した暁には、君の様な悪人たちはまとめて強制収容所に収監した後、人体実験材料にするか、或いは自我を完全に壊して一生単純作業をするだけの生きた機械にしてあげましょう。そういう研究も既に完成済みです」


「ヒャッハーーーッ!!なかなかイカしたアイデアだが、そいつぁ無理だぜ。何故なら、ここで一番最初に死ぬのはオメエなんだからな!!」


「クク……負け惜しみを。君の位置から考えて、もうすぐ心肺も停止する筈です。遺言ならもう少し気の利いた言葉を選びなさい」


「ヒャッヒャッヒャッヒャ……」


 モヒカン男は下劣な笑い声を上げると、ゆっくりと起き上がった。


「ところがそうでもねえんだよな……この俺様の場合はよ!!」


「なに……っ!?」


 驚愕の声を上げる毒使い。


(何だコイツ……この毒気の中を立ち上がれとは……身体がでかいから、毒の効き目が鈍いのか?いや、何か様子がおかしい……)


 そう思った瞬間、毒使いは不意に肩をポンと叩かれた。


「オイ」


「ンなぁ……ッ!!」


 彼は仰天した。

 今のこの空間で、自分に近付ける者などいない。

 いや、いてはいけない筈だ。

 しかしその男はそこにいた。

 この大広間の中で、最も毒気の強い自分の傍らに平然と立っていたのだ。


「お前かよ、さっきから変な臭い出していたのは……」


 それは、最後に大広間に入ってきた男であった。

 年齢は二十歳前後。黒目、黒髪、そして黒のスーツを着込み、どこか達観した冷めた目付きが印象的な人物だった。


「俺はてっきり、誰か屁でもこいたのかとおもったぞ」


 およそ生物と呼べるものは全て死滅させる瘴気の中、その男は何事もない様に平然と呑気なセリフを口にしていた。

次話からまた、主人公目線に戻ります。



読んで頂けるだけでも幸せですが、もし少しでも

「面白そう」

「続きが気になる」

と思われた方がいらっしゃれば、評価ポイント、ブックマークを何卒よろしくお願い致します。


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