呉越同舟
扉の中はテニスコート2面分ほどの大広間となっていた。
バロック調を基本とした煌びやかな室内は、俺が今まで見たどんな王室や宮殿をも凌ぐ華やかさと荘厳を兼ね備えている。
天井には絢爛豪華なシャンデリア。
床は深紅の絨毯が敷き詰められ、そこに金糸の刺繍が芸術的な幾何学模様を描いている。
大理石の壁には幾つものアルコーヴが彫り込まれ、その中に名匠のものと思しき彫刻が並んでいる。
もう一方の壁には、これまた目の覚めるような絵画が掲げられいた。
【鑑定眼】のスキルも持つ俺には、これらの美術品の一つ一つが城一つ、下手をすると小さな国でも買えてしまう程の価値を持つ、とんでもない代物だという事が見て取れた。
美術品だけではない。大広間の中央に設けられた、直径10mはあろうかという翡翠の円卓を始め、この大広間にある調度品は全て目玉が飛び出るような超絶高級品だ。
円卓の上に幾つも並べられたデカンターやゴブレットの一つですら、そこいらの上流貴族が全財産をはたいて買えるかどうかというぐらいの価値があるのだ。
香炉からの良い薫りが鼻孔をくすぐり、なんとも心地良い。
ただ、しかし……芳香にかすかだが、妙な匂いが混じっているような気がするのは気のせいだろうか?
大広間には既に十数人が待機していた。
奴らは皆、それぞれの分野でトップクラスの実力を見出された『選ばれし戦士達』だ。
翡翠の円卓の中央付近の席では、眼鏡をかけた物静かな青年が本を読んでいた。
プラチナ製のボタンに凝った刺繍が入ったダブレットを身に纏い、袖口にはターコイズのカフスボタン。
黒真珠の如き輝きを放つ、エナメルの靴を履いている。
身なりの良さから見て、おそらく貴族の出身だろう。
そこから右に数席分離れた場所では、細身の女性が目を閉じ、静かに瞑想していた。
象牙を思わせる透き通る程白い肌に、服装は薄手のローブのみ。
流れるようなエメラルドグリーンの髪から、エルフ特有の長い耳が飛び出してる。
左に数席分離れた場所では、僧侶と思しき女が祈りを捧げていた。
これから始まる罪深き所業への懺悔の積りか、はたまた自身の勝利を神にでも祈祷しているのだろうか?
眼鏡をかけた貴族の青年のちょうど真向かいの席では、真っ黒な服を着た幼女が、どうやって持ってきたのか、山と積まれたお菓子をモグモグと食べていた。
ゴスロリ風の真っ黒な衣装は、よく見たら喪服らしい。
身長も1mと少ししかないその小さな体と出で立ちとが相まって、遠目からはまるで人形に見える。
正しく幼女だ……が、この幼女からは子供特有の可愛げというか、あどけなさというものが全く感じられなかった。
蝋の様な血色の悪い肌に、闇の深淵を覗くか如く深い漆黒の瞳からは、底知れぬ老獪さを感じさせる。
(もしかすると見た目に反して、歳は何百歳という、所謂ロリババアなのかも知れないな……)
俺はそう思った。
大理石で出来た柱の傍らでは、白銀の鎧に身を包んだ剣士が剣を立てかけて屹立していた。
背丈は180cm半ば。顔立ちは非常に整っていて、絶世の美貌と言っていい。鎧と同じく輝く様な長い銀髪が整った顔立ちによく似合い、中性的な美しさを醸し出しているが、同時に男らしい雄壮さも併せ持っている。
ただ立っているだけなのにその佇まいは、まるで高速で回転する独楽の様な静かだが、凄まじいエネルギーを内包していた。
大広間の少し奥に入った壁際では、少々異様な光景が広がっていた。
陣羽織に袴姿という異国の剣士が、何十本という刀剣を並べて、その手入れをしていたのだ。
なんだコイツは、刀剣のバーゲンセールでも開く気か?
そのさらに奥では、ビッタリとしたタイツの上から袖の無い拳法着を纏ったポニーテールの少女が、指一本で倒立をしていた。
指一本での倒立など、伝説の格闘家マス・オオヤマですら不可能と言われた離れ業だ。
彼女は身長150cm程と小柄だが、むき出しになった大腿や前腕から、鍛え抜かれた筋肉がはちきれんばかりに隆起している。決して見せかけだけではない、使う為の筋肉だ。
顔はまだ少女のあどけなさが残る、整った端正な顔立ちだった。
(キレイな顔をしてるな……今まで殆ど打たれた事が無い証左だな)
経験から言って、傷顔は見かけこそ怖そうだが、意外と弱い奴らが多い。
本当に強い者は敵の攻撃を受ける事もなく勝利するのだ。俺や彼女の様に。
「ハッ!!!!」
彼女は倒立したまま指一本でジャンプして宙に舞うと、一回転して着地した。
「ホッ!! ヤッ!!」
そして掛け声と共に、武術の型をやり始めた。
……いや、やってる事はスゴイが、これじゃこの場にいる全員に「わたし徒手空拳で戦う武闘家です」って喧伝しているようなもんだぞ。
顔はなかなか可愛いだが、頭は悪いのか?
「これは名工ラメ・ルドリルケスが晩年手がけた遺作……ザトギスト戦役で失われた筈だったけど、まさかのこの目で見られる時が来るとは……こっちは名画彩雲を駆ける聖天使……」
なにやら博士服を着て眼鏡をかけた女が、室内の美術品を鑑定している。
年齢は20代半ば。銀縁の眼鏡が知的な雰囲気を醸し出している大人びた女性だが、彼女も参加者なのだろう。
「これは凄い……!!希代の大賢者ド・ラヴィアスタルの失われた手書きの書記……学問を志す者なら、誰もが一度は開いてみたいと夢見る稀覯本が10巻まるまる揃ってるなんて……」
彼女は1メートルはあるかと思われる巨大な本を手に取ると、目を輝かせてそれを開いた。
どうやらこの部屋の物を品定めしているのは、純粋な知的好奇心らしい。
美術品を陳列している大広間の一角に設置してあるカウンターバーでは、身長2mはあろうかという大男が、グビグビ酒を呷っていた。
腰から2本の手斧をぶら下げ、革ジャンに肩パット、胸部、脚部にはプロテクターの世紀末ファッション。
筋骨隆々とした体つきに、とどめはモヒカン頭という、如何にもヒャッハーといった感じの極悪面した大男だ。
そいつがカウンターに備え付けられてあったアルコール度数の高い火酒を、グラスにも注がずにラッパ飲みしている。
床には既に何本か空のボトルが転がっているが、モヒカン男は全く酔った様子はない。
「ぷっは~~~~~~~」
5本目のボトルを一気飲みした後、モヒカン男は6本目のボトルを手に取ると、ネックを指でピンッと弾いた。
するとネック部分が弾け飛び、まるで刃物で切られたみたいなキレイな切り口となった。所謂、瓶斬りだ。
モヒカン男はそこからまたグビグビと火酒を呷るのだった。
壁際に置かれたソファーの上では、ボロボロのコートを着た男が、これまたボロボロのチューリップハットを顔に被せて、寝息を立てていた。
……寝てるのか?
いや、どう見てもこれは寝入っている様子だ。
今ここで誰かに不意打ちでもされたらひとたまりもないぞ。
何考えてんだコイツ、余裕か?それとも何らかの思惑があっての事なのか?
まあ、尤も、その不意打ちを敢えてやろうという者もいないようだが……
その他にも、如何にも呪われていそうな鎧に全身を覆った奴だとか、全身に気味の悪い刺青を刻み込んだシャーマン、自分の背丈よりバカでかい剣を持った奴。
怪しげな念仏を唱えながら、宙に浮いている坊主までいた。
(成程……どいつもこいつも、なかなかクセの強そうな奴ばかりだ)
果たしてこの中に、俺を満足させるぐらいの戦いが出来る者がいるだろうか。
勿論、俺の目的は優勝して叶えられる「1つだけの願い」であって、戦いそのものではない。
だが、最後に一度ぐらいはこころゆくまで、存分に戦ってみたいという欲求はある。
そう、最後に一度ぐらいは……
いきなりキャラがいっぱい出てきましたが……どうか混乱なさらず読み流してください。
どうせ半分ぐらいはすぐ死にます。(笑)
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