バトルロワイヤルの定石
「しかしまあ、アンタ、これでこの場にいる殆どの戦士、敵に回したわよ」
クッキーをボリボリ食べながら、喪服を着た幼女が俺にそう言った。
「最強が必ずしも最良とは限らんからのう……特に今回の様な戦いの場合、一番強い奴を最初に潰しておくのは定石じゃて……フェッヘッヘッヘッヘ……」
ミイラのジジイが不気味な笑い声を上げる。
「流石にこの広間のメンバー全員が結託してタコ殴りにしたら、アンタだってキツイんじゃない?」
喪服の幼女は大理石の円卓に食べかすをボロボロこぼしながら話している。
「何なら……今すぐ始めてみようかのう……お主の血祭を……ヒヒヒヒヒ……」
ミイラジジイが光を失った不気味な瞳を爛々と輝かせた。
喪服の幼女はまるで蝋人形の様な無機質な瞳で俺を見すえながら、お菓子をボリボリと器械的に咀嚼している。
うむ。どうやらこの二人、この俺を全員でフルボッコにする計画でも立てているらしい。
俺はその様子を見て少し安堵する。
(良かった……まだ俺の思惑には気付いていない様だ)
その喪服の幼女とジジイの会話に、博士服の女性が割って入った。
「いや、私はそうは思わないわ……」
彼女はエレガントな仕草で円卓に歩み寄る。
「今の状況で不用意に自分の実力や能力をひけらかすのは愚の骨頂……当然、貴男ほどの実力者がそんな迂闊なミスをする筈がない」
まあ、その愚の骨頂をやった女拳士が、今、広間の隅でスクワットやってるわけだが。
「あのバカが付く程お人好しの勇者や女僧侶なら兎も角、貴男が単なる人助けで、あの双子を救ったってわけじゃないでしょ……」
彼女は俺の隣の席に座ると足を組み、眼鏡越しに怜悧な眼差しを俺に向けてきた。
「ね……、何を企んでるの?教えて……」
大理石の円卓に頬杖をつきながら訊ねる仕草は、妙齢の大人の色香を漂わせる。
しかし……
(この女……なかなか鋭いところまで感付いている。しかし、未だ核心には及んでいないようだな……)
俺はそう思いを巡らせながら、ふと考えた。
(いや、待てよ……ひょっとしたらもう、気付いているんじゃないのか?)
俺は眼球だけを動かして、素早く広間の中を見渡した。
双子の兄は相変わらず妹の容態を心配し、勇者と女僧侶がそれに付き添っていた。
カウンターバーではモヒカン男が酒を呷り、広間の片隅では女拳士が鍛錬に励んでいた。
異国の剣士は黙々と刀剣を手入し、坊主は何やら念仏を唱えている。
他の戦士達も、各々が自分の武器の調整をしたり、いずれ戦う事となる自分以外の戦士達の動向を注意深く観察している。
ただ一人、広間のソファーで大いびきをかいている奴は除いて……
(この博士服の女だけじゃない……ここにいる何人かは、俺の思惑にも、今この広間で起こっている異様な事態にも、とっくに気付いているのかもしれない。気付いていて、敢えて気付かないふりをしているのかも……)
喪服の幼女はとミイラのジジイは相変わらず敵意むき出しの目で俺を見据えている。
「おい、そこのチビスケ」
俺は敢えて挑発する様に、喪服の幼女を呼んでみた。
「ちょっと小腹減ったから、そのお菓子を貰うけど、いいな」
そう言うと俺は、喪服の幼女の前に山と積まれたお菓子の一つに手を伸ばした。
「ダメよ」
喪服の幼女はそれ制止する。
平坦で抑揚のないくせに、妙にドスの利いた声だ。
「このお菓子は私の持ってきた私の私物よ。一つたりともあげないわ」
そして闇を凝縮させた様な瞳を俺に向けて睨んできた。
その漆黒の深さは、かつて天文の賢者から聞いた、遠く星々の彼方にあるという、光さえも飲み込む巨大な黒い穴を思い起こさせる。
(なんつー、眼光だ……生半可な地獄を見てきただけでは、この目力は出せないな。見た目通りの年齢じゃないにしろ、一体どんな人生送って来たんだこのガキは……)
「ちっ……」
俺はわざと聞こえる様に舌打ちをすると、仕方なく備え付けてあったティーポットからカップに紅茶を注ぎ、角砂糖を3つほど入れた。
(美味い……)
最高級のゴールデンチップを最適な温度で淹れてある。
疲れた脳に、角砂糖のブドウ糖が沁み込んでくる様な感覚だった。
俺は紅茶に舌鼓を打ちながら考える。
(……ま、仮に気付かれていたとしても、既に布石は打ってある。いや、むしろ気付いていてくれているぐらいの方がやり甲斐がある。それでこそ……俺の最後の戦いに相応しい!!)
俺は紅茶を一気に飲み干すと、カップを受け皿に置いた。
(こいつ等がどう出るか……先ずはお手並み拝見と行こうじゃないか)
そして改めて、これから始まる戦いへの期待に胸を躍らせるのであった。
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