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女子高校生の恋愛事情  作者: 斯波@人質聖女コミック②発売中
赤いパーカーから始まる恋
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6.

 ――そして放課後。

先輩は約束通り、教室まで迎えに来てくれた。

「途中までになっちゃうけど、持つよ」

「これくらい持てますから……って、あ!」

「無理しない」

「無理じゃないのに……」

 まだ体調が悪いと心配してのことなのか、わたしのほとんど物が入っていないカバンを掻っ攫ってしまう。


自分で持ちますから! と手をのばしても身長差が30cmはあるだろう、円城先輩が上に持ち上げてしまえばわたしの手なんて届くはずがない。


せめてもの救いは、みっちゃんの提案により置き勉しておいたことだろう。


「こんな時くらい置き勉して帰りなよ。先生だっておこらないって!」

 その言葉に少しだけとまどったけど、みっちゃんは強引にも、お弁当箱に筆記用具、それに宿題に必要なものと、ルーズリーフホルダー以外のものをカバンから抜き出してしまったのだ。


「なんか言われたらわたしが言い返してあげるから!」

 グッとこぶしを固めるみっちゃんに「でも……」なんて言ってはみたものの、今では感謝しかない。


 ありがとう、みっちゃん。


 心の中で一番のお友だちに感謝の念を送っていると、わたしの右手はなにやら温かいものに包まれる。妙に落ち着くそれは、朝にも感じたのと同じもので。


「先輩、なんで手……」

「だってアコちゃんがふらついたら危ないでしょ。本当は負ぶってあげられたらいいんだけど……」

「それはやめてください!」

「友だちに止められたからさ。……って、そんなに強く否定しなくてもいいんじゃない?」

 先輩はわざとらしく唇をとがらせる。

「す、すみません」

「大丈夫。アコちゃんが嫌がることはしないよ。安心して。それとも手をつなぐの、イヤ?」

「イヤ、じゃないですけど……」


 わたしだって、出来るものならこのまま繋いでいたい。

けれどまだ校門からも出ていないこの場所でこんなことをすれば朝の出来事の再来は避けられないわけで。


すでに朝のような騒めきはないけれど、それでも視線は朝の倍以上だ。

その中にはクラスの子の温かい眼差しも含まれてはいるけれど、ほとんどが興味本位。


 そりゃあ学園の人気者がさえない女子と手をつないで歩いていれば気になるよね!

渦中の人としては恥ずかしいばかりだ。思わず俯いてしまうわたしに対して、先輩は全く気にしている様子はない。


慣れているんだろうな……。


「アコちゃん。また具合悪くなった?」

 それどこ廊下わたしを気遣う余裕さえあるほど。やっぱり住む世界がちがう。

たしかに手はつながっているはずなのに別の空間と接続しているような……。

 けれど先輩にお似合いの人は世界どころか日本の中でも何人もいるはずで。そんな人にわたしといい関係になっているなんて誤解されたら先輩だって迷惑だろう。


「先輩」

「なに?」

「こんなことしたら誤解、されちゃいますよ?」

 勇気を出して出た言葉は思いの外小さくて、こんなんじゃ先輩にちゃんと伝わるか分からない。心配になって顔をあげてみれば、そこには顔を赤くした先輩の姿があった。


いつもはわたしが顔を赤くして、先輩はニコニコ笑っているのに。


「おれは誤解、されてほしいなって思ってるんだけど、アコちゃんはおれと噂になるのイヤ?」

「イヤ、じゃないです」

「そっか!」


 先輩はひまわりみたいに温かい笑顔をうかべる。


「じゃあ行こう」

 つないだ手を再びやわらかく握られて、先へと導かれる。胸の鼓動が高なってドキドキと激しく響き渡る。けれど恥ずかしいなんて思わない。だって耳を赤く染めた先輩の胸も同じくらい激しく動いているだろうから。


「明日の朝、みっちゃんに『アコちゃんとお付き合いさせてもらいます』ってごあいさつにいかないと」

 きっと明日、学園中が騒ぎになっているだろう。

けれど恥ずかしいとか、人に見られるのがイヤとはもう思わない。だって隣に先輩がいてくれるから。きっとみっちゃんは喜んでくれることだろう。


「やったね、アコ。初彼氏おめでとう~」

 そう言って笑う姿が目に浮かぶ。


 先輩と駅まで歩く。わたしと先輩はどうやら乗る電車が逆方向のものらしい。どちらかの電車が来るまでの時間はそんなに長いものではない。けれど少しでも長くいたくて、意味もなくホームを歩く。すると自然と2人そろって同じ場所で足を止めた。


「アコちゃんと出会ったのってこのベンチだったね」

「はい。体調の悪いわたしに先輩がパーカーを貸してくれて。そのおかげでこうして今、いっしょにいられています」


 それから返すために色んな人に『赤いパーカーを着てる人知らない?』って聞きまわって、そして先輩にたどり着いた。


あの時は恋バナじゃないよ! って否定したけど、今じゃあ立派に恋のキッカケになっている。 


「運命の赤い糸って有名だけどさ、おれとアコちゃんの場合は赤いパーカーだったみたい」

 『運命』なんてちょっぴり恥ずかしいけれど、先輩と出会えたのは特徴的な真っ赤なパーカーのおかげだから。

「赤いパーカーに感謝しなくちゃ、ですね」

「そうだね」


 2人で顔を合わせて笑うと、ちょうどわたしの乗る電車が到着するアナウンスが構内に流れる。

「じゃあ、アコちゃん。また明日」

「また、明日」

 電車に乗ってドアが閉まっても、先輩はずっとわたしを見つめて手を振ってくれている。

 先輩が見えなくなった後で口元を隠してふふふと笑えば、胸の中からあふれた幸せが手の中にもいっぱいたまっているような気がした。


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