4.
「沙織ちゃん、もうすぐで人の波抜けるから。そしたら少し段になったところから初香ちゃんを探そうか」
「うん」
まるで子どもだ。
高校生にもなってこんなことを心配になるなんて。それぐらいわたしにとって『初香ちゃん』の存在は大きいのだ。大きすぎると言っても過言ではないだろう。だってわたし、初香ちゃんに嫌われたら立ち直れないもん。
波をぬけると少し開けた場所に出る。周りを見わたせば小さなレジャーシートを広げている人や、石段に座り込みながらビールをあおっている人達がよく目立つ。きっとここは地元の人に有名なスポットなのだろう。
目立った障害物もなく、空の花火がよく見えそうだ。わたし達の後ろからも波に乗った人達が続々と登場する。それに再び飲みこまれないように、真田君はわたしの手を引いてズンズンと先に進む。
目的の場所はおそらくお社の前だろう。このあたりだとあそこが一番高台になっており、人を探すには最てきな場所だから。
さすがに神様の特等席の前で立ちながらスタンバイしている人はおらず、神様にペコリと頭を下げてから周辺をグルリと見わたす。
けれどそこに初香ちゃんの姿はなかった。やはり後方に流されてしまっているようだ。もう少し待っていればこちらにたどり着く可能性もある。だが周りから聞こえてくる声は花火打ちあがりの時間がそろそろであることを告げていた。さすがにここに立ちながらずっと捜索をしているわけにはいかない。
「もう少し時間が経ってからまた見回そうか」
「うん」
石段から降りて、空いているスペースへと移動する。するとどこかからピコンっと大きな音がした。スマートフォンの通知音だろう。それにしてもお祭りの喧騒にも負けずに主張するとは中々の音量だ。お祭りでも気付くようにって上げているんだろう。
わたしも初香ちゃんからいつ連絡が来ても気付くように音量上げておこう!
そう思いながら巾着の中のスマートフォンへと手をのばした。画面をのぞいてもやはり連絡はない。いつも通り、初期設定から変わらず無地のままの背景に時間が映されているだけ。いつも通りなのにその素っ気なさに思わず頬を膨らませてしまう。
「秋庭、初香ちゃんと合流出来たって!」
けれど嬉しい報告に、頬に貯めた空気はすぐにシューっとどこかへと消え去った。
「本当に!?」
「うん。入り口近くの石段のところだって。さすがに今から再会するのは無理そうだから別々に見ようってさ」
「そうだね」
初香ちゃん、真田君とのお祭りを楽しみにしていたのに……という気持ちがなくならないわけではない。けれど一人っきりの寂しいお祭りを過ごさなくて良かったと胸をなでおろす。
「良かったね」
けれどホッとするわたしのとなりで微笑む真田君が気になった。
だって花火って好きな人といっしょに見たいものじゃないのかな?
隣にいるのはわたしで、イヤじゃないのかな?
ふと手をつないでいることが気になってしまう。初香ちゃんに、そして何より真田君に悪くないか、と。
人波の中ならいい。けれどもう人に流されることはない場所で。
そんなところ、初香ちゃんに見られたら誤解されちゃわないかな?
『沙織なんてキライ!』と言われることを想像して、初香ちゃんがそんなことを言うわけがないと分かっているのに、あわてて真田君から手を離す。
さっきまで頼りにしていたくせに、なんて自分勝手なのだろう。
「沙織ちゃん? どうかした?」
わたしの行動はあまりにも不自然で、失礼。真田君はわたしを見下ろしながら不思議そうな表情を浮かべていた。
「な、何でもない」
あわてて顔をそらしてブンブンと首を左右に振る。
子どもみたいではずかしい。見ないで! って俯いていれば、何かを悟ってくれたらしい花火はドンっと大きな音を鳴らしながら空に花を咲かせた。
「わぁっ!」
きれいな花火と、不自然な女。
もちろんどっちを見るかと聞かれれば花火である。
真田君の視線も他の人達と同じように空へと向かっている。そのことに安心感と、ほんの少しの寂しさが芽生えた。
何だろう、この気持ち。
モヤモヤとするけれど、これが初めてではない。
去年から胸のあたりがチクっと、トゲをさしたように痛むことがあった。
病気ではないようで、健康診断も引っかからなければ、長引くわけでもない。
たった一瞬にして終わるのだ。
思えばそれはいつだって真田君を見ていた時のように思う。多分、たまたまなんだろうけど。胸のあたりを小さく握ればそれはすぐにわたしの中からいなくなる。
これで花火を見ることに集中できる。
初香ちゃんがここにいないのは残念だけど、初めて間近で見る花火は音を響かせながら新たな花を空に咲かせる度にわたしの心を弾ませてくれる。




