3.
「おれ、九重探してくる」
一歩踏み出したのは秋庭君だった。
どうやら彼は一人で初香ちゃんを探そうとしているようだ。すでに足は来た道の方へと向いている。するとふとわたしの中に一つの疑問が浮かんだ。
彼に任せていいのだろうか?
秋庭君の思いはわかった。けれど初香ちゃんは?
秋庭君のことは名前と、真田君の友達だということだけは知っている。
けれど初香ちゃんとの関係がわからないままなのだ。
四人でいるならいい。
初香ちゃんが困った時、傍にいて助けを出すことが出来るから。
けれど二人っきりにしていいの?
祭りの喧騒の中、一人になった初香ちゃんの元に伸びる手が秋庭君のものでいいの?
わたしは思わず秋庭君の袖をギュッと掴んだ。
「待って、わたしも行く」
「ダメだ。まだ人通りも多い。御堂が行ったところで流されるだけだ」
優しいんだ……。そこは真田君の友達というべきか。でもここで初香ちゃんを探す……と見せかけて花火を見上げて時間を潰されたら困るのだ。
だからわたしは鎌をかける。
「でも秋庭君、初香ちゃんを探してたら花火、見れないかもしれないよ」
「それは御堂もだろ?」
「わたしは家で録画してるから。後で初香ちゃんと見るからいいの」
ねぇ、秋庭君は?
それでもかまわないの?
花火と初香ちゃんを天秤にかけるような男の子には初香ちゃんの隣は似合わない。そんな人を行かせるくらいだったら初香ちゃんに憎まれてでもわたしが隣に居続けるだけだ。それくらいの覚悟、初香ちゃんが恋をしたと打ち明けてくれた日からしているつもりだ。
秋庭君の真意をたしかめるようにじいっと見つめれば、わたしの肩には秋庭君とは違う人の手が置かれた。
「沙織ちゃん、秋庭にまかせてあげなよ」
「真田?」
「真田君」
真田君だって初香ちゃんのことが好きなんじゃないの?
何でそんなこと言うの?
真田君の行動に驚いたのはわたしだけではないようで、秋庭君もわたしと同じように頭に疑問符を浮かべていた。
けれどわたしは次の真田君の言葉で全てを察した。
「ほら沙織ちゃんは俺に任せて行ってきな」
真田君は初香ちゃんのことを秋庭君に譲ったのだ。
そして自分は邪魔者であるわたしのお守りに残ることにした。なんと素晴らしい友情だろうか。そんなのを見せつけられて、それでもまだって出張るほどわたしは子どもではないつもりだ。
「……初香ちゃんをよろしくね。もしこっちで初香ちゃんが見つかったら連絡するから!」
「ああ、そうしてくれ」
早足で去っていく秋庭君の背中を見つめながら、絶対見つけてよね! って念を送る。
信じているから。だから初香ちゃんにこれ以上寂しい思いをさせないでよね! って。
「じゃあ俺達は先に進もう」
秋庭君の背中が見えなくなると、真田君はわたしの背中に手を当てる。彼に身を任せてわたしが仲間に加わったのは花火観覧客の波の中。自然に握られた手はどこか温かい。何気なく繋がれたそれがなんだか恥ずかしくて、わたしの手にはじんわりと汗がにじむ。つないだ手がじっとりとしめってきているというのに、真田君がそれを気にする素ぶりも見せることはない。それどころではないのだろうか。真っすぐと前を向きながら、人に当たった身体をゆらゆらと小さくゆらしながら前へと進んでいく。
イモ洗い状態とはこのことだろう。
ここに来てみてようやく、いくら頼み込んでもお兄ちゃん達が連れて行ってくれなかった理由を理解した。背の高い初香ちゃんでさえはぐれてしまったのだ。背の低いわたしが人ごみに飲みこまれたらきっと再び出会うことは難しいだろう。
初香ちゃんもお兄ちゃん達もいないこの状況で、わたしがはぐれてもきっと誰も探しに来てはくれないのだろう。真田君とつながった手が離れてしまうことを想像してゾクリとした。
もちろんここは見知らぬ土地ではなく、近くの神社だ。道だって知っている。
幼子のように誘拐される、なんて危険性もないだろう。けれど不思議と先ほどまでは輝いて見えた出店やちょうちんの光があやしく光っているように見えてしまうのだ。
はぐれないようにとつながった手に少しだけ力をこめれば、頭上からは真田君の声が降り注ぐ。




