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2.

 待ち合わせ場所にはすでに真田君と秋庭君の姿があった。

 わたし達に気づいた二人は顔をあげる。そして初香ちゃんの浴衣姿に感動して、真田君は目を輝かせる。


「かわいい……」

 それはあまりに簡潔で、けれど今の初香ちゃんに一番に合う言葉。

 初香ちゃんに似合う浴衣を、ってお兄ちゃん達と相談しながら選んだのだ。今日の初香ちゃんの魅力は全て活かし切れている自信がある。だから自分のことように嬉しくて、誰にもバレないようにほんの少しだけ得意気に胸を張る。


 けれど真田君とは対照的に秋庭君は少しだけ顔をしかめる。

 女の子の浴衣姿を見てそれはないんじゃないかな? ムッとしそうになったけれど、次の瞬間、秋庭君は初香ちゃんの手を引きよせて耳元で何かを囁いた。


 あれ、もしかして秋庭君って……。

 まさかの三角関係!?


 渦中の初香ちゃんは大変だろうけれど、わたしの心は一気に弾み出す。だって今の初香ちゃんが少女マンガのヒロインと同じ状態なのだ。初香ちゃんってすごく可愛くて、だからこそ二人の男の子に同時に好かれちゃって。


 ああ、もうステキ! さすが初香ちゃんだ。

 困った時はわたしも何かお手伝いするけれど、でも初香ちゃんが愛されて困っているところも見てみたいという気持ちもある。


 今日の花火大会、一体どうなっちゃうんだろう。

 わたしに出来ることといえば、この花火大会を最高のものにすることだ。

 ここで決まるか、それともここから始まるのか。


「花火の打ち上げまで時間あるから適当に回ろうか」

 始めに動き出したのは今のところ初香ちゃんと両思いなのだろう真田君。初香ちゃんの浴衣姿にはしゃいで先頭を歩き出す。


「そうだね。あ、初香ちゃん、わたあめ、わたあめあるよ!」

 どこを見ても輝いたものばかりの店に、わたしは思わずいつものように初香ちゃんの名前を呼ぶ。


「沙織、わたし買っ「おれが買ってくるから待ってて」

 そして真田君が初香ちゃんの声にかぶせてからお店へ向かったことにハッとする。

 つい、いつものクセがでちゃった。今日は三人を見守る役目なのに……。反省モードに入るわたしに、真田君はいつもの笑顔でわたあめを差し出してくれる。さすがは初香ちゃんの好きな人だ。


「はい、沙織ちゃん」

「ありがとう」

「はい、初香ちゃんも」

「あ、ありがとう」


 今度は羽目を外さないように、と注意しながら真田君といっしょにこの場を盛り上げる。秋庭君はずっと一歩引いたあたりに立っていた。けれどその目が時たま、初香ちゃんを捕らえていた。秋庭君のことはよく知らないけれど、その目はどこか優しくて。けれど同時にどこか悲しそうだった。初香ちゃんを大事にしてくれるのなら応援してあげたいけれど、今はまだ真田君が優勢なのだ。


 一度初香ちゃんと二人きりになってお話できたら一番なんだけど……。

 そんなことを考えているうちに人の流れは少しずつ大きくなっていく。手首につけたお気に入りの時計に目を落とせば、いつのまにか花火が打ちあがる時間が後少しのところまで迫っていた。ぞろぞろと動く人達の手にはビールやラムネ、かき氷にイカ焼きと空を眺めながらも楽しめるものばかり。きっといい場所を確保しようと動き始めたのだろう。


 真田君と秋庭君はそのことに慣れているのか、波に流されるように前へ前へと進んでいく。だからわたしも流されないように、はぐれないようにと必死で後を追いかける。けれど洋服の二人とは違い、浴衣にゲタと夏祭りスタイルなわたしは普段のようには歩けなかった。だがそれは初香ちゃんも同じだ。大丈夫かな? と視線だけ後ろに向ければそこに初香ちゃんの姿はなかった。


 どこ行ったの!? まさかはぐれた!?

 人の流れに逆らっているのを承知でぐるりと身体をよじって初香ちゃんを探す。すると遠くから「沙織!沙織―」とわたしを呼ぶ声がした。


 間違いない。初香ちゃんの声だった。


「初香ちゃん、初香ちゃん」

 ここだよ! ここにいるよ! って両手を口元に添えながら叫ぶ。けれどあまりにも周りの喧騒が大きすぎた。いつしかわたしの名前を呼ぶ声もかき消されてしまい、初香ちゃんの声が完全に聞こえなくなってしまった。


 人の波にさからって進み出すけれど、わたしの声も初香ちゃんには届いていないようだ。露店の通りを抜けると少しだけ人が少なくなっていく。それでもお祭りだけあって人の通りは多い。けれどさっきと比べればだいぶ楽になった。


 きっと一人で寂しいはずだから、探さなくっちゃ。

 隣に並ぶ男の子二人から一歩踏み出そうとしたその時、私よりも先に『彼』が動いた。



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