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1.

 夏の風物詩――花火。

 わたしの住んでいる地域の花火大会は県をあげてのもので、日本でも指折りのものだ。その開催に合わせて近くの神社では夏祭りが開かれる。


 けれど有名な分、県内外から人がこぞって集まるため、いつもは優しいお兄ちゃんたちでも危ないからと言って連れて行ってくれることはなかった。でも代わりに、その日は毎年決まって兄弟全員、家で花火の中継を見ながら過ごしていた。小学校に上がってからはお友達の初香はつかちゃんも輪に加わって、お兄ちゃんたちが買ってきてれた出店のご飯やお菓子を食べるようになった。


 焼きそばにお好み焼き、たこ焼きにイカ焼き、焼きとうもろこしに焼き鳥。大判焼きとクレープ。それにこの日は特別、お兄ちゃん特製シロップのかかったかき氷が食べ放題。初香ちゃんとお兄ちゃんたちといっしょに美味しいねって、花火綺麗だねって笑いあうのがわたしの夏の楽しみだった。



 けれど今年は違った。

 お兄ちゃんたちが「行ってきていいよ」と言ってくれたのだ。

 もちろん人ごみには注意するように、って何度も言い聞かされたけど。でも去年はまだダメだって言われたから嬉しくてたまらなかった。けれどそれだけではない。初香ちゃんの好きな人、真田君が花火大会にいっしょに行かないか? と声をかけてくれたのだ。


 一年生の時からずっと真田君のことを思い続けてきた初香ちゃん。

 サッカー部に所属している真田君の練習を応援するため、昼休みはいっしょに購買で買ったパンを急いでかきこむ。そのためにいろんなパンを食べ比べながら早く食べれるパンを探した。わたしはあんパンとツナサンド、初香ちゃんはメロンパンと焼きそばパン。決まったのは真田君の応援をし始めてから数ヶ月が経った頃のことだ。


 これでもっと早く観にいけるね! ってはしゃぐ初香ちゃんは可愛いかった。

 平均的な身長のわたしよりも10cmくらい背が高くて、耳が少しかくれるくらいのショートカットがよく似合うわたしの自慢の親友――それが初香ちゃんだ。


 にっこりと笑った時に出来るえくぼがチャームポイントな初香ちゃんは可愛いのはもちろんのこと、ほかの子よりも背が高いから、きっとフェンス越しでもしっかりと真田君の目に入っていたのだろう。


 真田君の友だちで幼馴染らしい秋庭君って人も一緒に行くらしいから少しだけ緊張しそうだけど、こうして初香ちゃんにチャンスが来たことが嬉しかった。


 だって初めてのお祭りで初香ちゃんの初恋が実るんだよ?

 楽しみだねって初香ちゃんの手を取って、今から花火の下で笑う初香ちゃんを想像して幸せな気分に浸った。


 当日、天気予報を見れば降水確率は40パーセントと何とも中途半端な数字を示していた。


 大丈夫かな? と空を見上げれば空に少し雲がかかる程度。これなら雨が降ってきて花火大会が中止になるなんてこともないだろう。協賛の会社が多く、ローカル局はもちろんのこと、全国区でもテレビ中継もするため、小雨程度で中止になることはないのだ。それでも少しだけ不安で、初香ちゃんが席を外している間に窓から空に向かってお願いする。


 今日は初香ちゃんの大事な日なんだから雨、降らせないでくださいね。

 天気の神様、味方してねって。


 お兄ちゃんが用意してくれた浴衣に身を包んで、早く時間にならないかとはしゃぐ。カチカチとゆっくり進む時計の針を初香ちゃんは唇を尖らせながら眺めていた。きっと遅い! って思っているのだろう。

 唇を尖らせるのは、待つのがちょっぴり苦手な初香ちゃんの癖だ。可愛いから教えてあげないけど。でもそのうち真田君に教えてもらうんだろうな。そう思うと、こうして待ち合わせまでの待ち時間すらも貴重に思えてきてしまう。


 早く! って思っているだろう初香ちゃんと同じ時計を眺めながら、もう少しゆっくり動いてくれてもいいのに……なんて対照的なことを思ってしまう。


 花火は見たい。初香ちゃんには幸せになってほしい。

 けれどこの時間だけは、わたしのお友達の初香ちゃんでいてほしいのだ。


 わがままなわたしの願いは当然、聞き入れられることはなく、約束の少し前になると初香ちゃんは立ち上がって、そわそわとし出す。初香ちゃんの待ちに待った時間がようやく始まる。よし、っと心の中で気合いを入れてから立ち上がって、初香ちゃんに手をのばす。


「初香ちゃん、そろそろ行こうよ」

「うん、そうだね」

 初香ちゃんと手をつないで待ち合わせの場所へと向かう。神社の鳥居下の石段のところ。神社自体は初詣の時しかこないけど、家からそんなに遠くない上に分かりやすいからと小学生のころはよく待ち合わせ場所としてお世話になっていた。


 まだ体の小さな小学生でも近場と感じるほどの距離しかないその場所に、カランコロンとゲタで地面を撫でながら近づいていく。

 もうすぐ鳥居が見えるところまでくれば、人の波は普段よりも大きくなっていく。


 この人たちみんなお祭りに来てるんだ!

 他の人の下駄やサンダルの音も混ざりあって、わたし達だけだった音よりもずっと楽しげな音楽へと変わっていく。まるでここにいる人達の心を表しているようで、思わず笑いがこぼれた。


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